第5話 恋星高校恋愛学科 2
「それじゃあ、頭が良い人と組まないと!」
「いやいや、部活とかでも点数入るみたいだし運動部の人の方がいいんじゃない?」
「とにかく早くしないと点数高めな人とられちゃう!」
”恋愛学科”――おそらくまだほんの障りの部分だろうが、この学校に来るまで全く聞いたことのなかった学科の正体を知り、クラス中のほとんどの人間があたふたし始めた。
そんな中、俺はというと、慌てふためいている生徒達に憐みの視線を送りながらクラスメイト達を観察中。人間観察…俺の数少ない趣味の一つだ。今までは何の役にも立たなかったが、どうやらこの学校では少しは役立ちそうだな。
しかし、そんな趣味のお時間はすぐに終了を迎えた。
「やかましいぞ!貴様ら!!!」
大井の怒号が鳴り響き、教室は一瞬にして静まり返った。…うん、極力この女には逆らわないようにしよう。
「何をいきなり慌て始めている。お前らは最初に言ったルールも忘れたのか?」
その通り。告白したところで必ずしも恋人=ペアなれるとは限らないのだ。
勿論告白する以上、フラれるリスクもついてくる。
そして、フラれたら最後、一番最初に説明された「フラれたら退学」というルールが適用されるのである。つまり…
「別に告白したい奴はしても構わんぞ?――フラれて退学になる覚悟があるならな!」
その言葉を聞いて、クラスメイト達はぞろぞろ自分の席へ。
「フン、腰ぬけどもが!まぁいい、説明を続けるぞ。――ああ、そうだ…この制度、ただ優秀な奴と組めば良いというわけではないから注意しておけ。――ここでペアになった者は本物の恋人として付き合ってもらう」
しかし、次の説明でまたしてもクラスは動揺に包まれた。
というか、本物の恋人だと?俺もそこまでは考えていなかった。
まぁ、でもいいか。お互いに3年間付き合っているフリをするだけなら…。
高校3年間という貴重な青春時代をほぼ恋愛禁止というアイドルのような制限付きで送らなければならないのは少し寂しい気持ちもするが、将来楽して暮らすという野望のためならばいくらでも我慢できる。
おそらくクラスの連中の中にも同じような気持ちの奴はいるはず。そういう考えの奴の中から優秀そうなのを見つけて付き合えば問題ないだろ…。と、楽観的に考えていたのだが…残念ながらそう上手くもいかなかった。
「ペアになった男女は同室で生活したり共同生活を送ってもらう。まぁ、いわゆる同棲みたいなもんだな。――そして、卒業時にペアだった者同士は自動的に結婚することになる」
大井のその発言に思わず俺も立ち上がってしまった。
おいおい、恋人のフリだけならいざ知らず、結婚だと?
さすがにそれはやり過ぎなのでは?
「ちなみに、一定期間恋人がいない奴も即刻退学だからな?」
その言葉に遂にクラス中から不満が爆発した。
「なんで結婚までする必要あるんだよ!!」
「人の人生勝手に決めないでよ!」
「いい加減にしろ!!」
が、しかし…
バンッ!
突如鳴り響いた大きな音に不満を叫んでいた生徒達も静まり返り。音のした方を見ると、そこには教壇に思いっきり殴りつける大井の姿があった。
……怖っ!!
「おいおい、まさか貴様ら3年間恋人のフリでもしてやり過ごそうとか考えてたわけじゃねぇよな?」
すみません、そのまさかです。
大井は不敵な笑みを湛え生徒達を順番に見渡すが、誰ひとり目を合わせる者はいなかった。
「卒業すればエリートコースまっしぐら。さらに主席で卒業すれば願いが叶う。――これくらいの代償当然だろ?別にできないって言うならそれでも構わんぞ?まぁ、勿論退学だがな!」
俺はようやくこの学科の卒業率の低さの理由を理解した。
ただ優秀な奴と組むだけでも一筋縄ではいかないのに、結婚という人生の一大イベントがかかっているとなってはその難易度は限りなく高いはず。
正直無理ゲーにも程がある。まぁ、だからこそ卒業のボーナスとかがあるんだろうけど…。っていうか、このルール考えた奴、絶対ぇ性格悪いだろ!
そんなことを考えながらも、俺はなんだかんだ楽観視していた自分の甘さとこの学校における”卒業”の意味を改めて痛感させられていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます