第3話 楽して生きるための進路選択2

「は?俺は内臓売るのも、よく分からん人体実験体になるのも嫌だぞ。もちろん性的な意味でそっち系の人に体を売るのも却下だ!」


 将来俺の生活費を負担してくれるという夢のような手段に心当たりがあるという我が隣人。

 しかし、働かずに金を得られる手段なんて限られている。俺がその程度調べていないとでも思ったのか?俺のニートへの憧れを侮ってもらっては困るんだが。


「アホか!そんなくだらねぇ手段じゃねぇよ!――学校だ、学校!!」

「…学校?」

「あぁ!高校だよ!!」

「はぁ?どうせ住み込みで働ける学校とか、施設みたいなところだろ?それくらい既に調査済みだし、どれも面倒臭そうで却下だ」

「いや、違ぇよ!っていうかお前以外と行動力あるな!願わくばその行動力を別のことに活かしてもらいたいけどな!!」


 住み込みでの仕事場でもなく、施設でもない…まさか、学校の経営者か?いや、学校の経営なんか仕事が山のようにあるに決まっているし…


「ダメだ、分からん」

「学校に援助させるんだよ!もしかしたら高校を卒業するだけでお前の夢が叶えられるかもしれねぇぞ?」

「…お前、遂に頭おかしくなったんじゃねぇの?」

「アホか!!お前も名前くらいは聞いたことあるはずだぞ?――卒業率わずか3%の国内屈指の有名高校」

「まさか…恋星高校…?」

「ああ!そこの恋愛科ってのが卒業率3%の超難関高校だ。なんでも主席で卒業した奴には何でも一つ望みを叶えてくれるらしいぜ?」

「……お前、それ本気で言ってんのか?やっぱ頭イッちゃったんじゃね?」

「はぁ?本気も何も事実だし」


 やれやれ…思わずため息がこぼれる。

 卒業しただけで何でも願いが叶うだと?そんなドラゴンボールも真っ青な願いの叶え方あるわけねぇだろ…


「日吉…嘘をつくならもう少しバレにくい嘘をだな――」

「ったく…ちょっと待ってろよ!?」


 俺の言葉を遮った日吉はポケットからスマホを取り出し、手際良く操作する。

 そして、待つこと1分足らず…


「ほら、これ見てみろよ」


 そう言って自分のスマホ画面をこちらに向けてきた。


「…マジかよ」


 その画面を読んだ俺は驚きのあまり唖然としてしまった。

 スマホに映し出されたのは恋星高校のホームページ画面。驚いたのはそのホームページの中の入学希望者のページだった。


「『恋愛科を優秀な成績で卒業された方には本校が生徒様のどんな願いの実現にも可能な限り協力致します』だと…?」

「お前、どんだけ進路に興味ねぇんだよ…これくらい多分だれでも知ってるぞ?っていうか、むしろ日本の一般常識レベルだぞ?」


 俺は日吉の小言など完全無視して夢中でそのページを読んだ。

 主な卒業生の欄を見ると、各界の有名人達がずらっと並ぶ。

 普通科出身者もかなりのメンツなのは間違いないが、この恋愛科はハッキリ言って異常。

 総理大臣、閣僚、宇宙飛行士、プロ野球選手…そこにはありとあらゆるジャンルの有名人達が紹介されていた。

……決めた!


「どうだ?疑い深いお前でもさすがに信じたか?」

「――てやる」

「は?何だって?」

「絶対ぇこの高校をトップで卒業して、将来楽して生きてやる!!」

「え?っていうことは…?」

「俺はこの恋星高校恋愛学科を受験する!!」

「ま、マジで…?」


 俺の志望校は決定した。

 そして、呆気にとられていた日吉を放置してすぐに俺は動きだす。

 担任に進路票を提出し願書の手配を頼み終えるとすぐさま受験勉強に取り掛かった。

 そこから死に物狂いで勉強三昧。

 毎日、毎日勉強机にかじりつき、周りが引くくらい勉強してやった。幸いもともと勉強はできる方だったため、勉強量と比例して成績はぐんぐん伸びていった。

 最初の頃は担任を含めクラス中から笑い者にされていたものの、そんな奴らなんて相手にせず。

そして、勉強をはじめて3か月程が経過した頃。俺は遂に合格圏まで上り詰めていた。それまで散々バカにしてきたクラスメイト達を逆に見下してやるのは、それはそれは快感だった。


 そして3月…


「…え、お前、マジで恋星受かったの?」


 俺が恋星高校の合格通知を見せつけてやると、日吉は驚きのあまり顔を引きつらせていた。

 恐らく、トップとまではいかずともかなり上位で合格しているはずだろう。


「ああ…っていうか頑張り過ぎた…ちょっと寝るわ…1週間くらい…」

「いや、それ死ぬんじゃねぇの!?――まぁ、とりあえずおめでとう」

「おう…」


 まぁ、たまにはこういうのも悪くないな…俺は机に突っ伏しつつ、そんな風に感傷に浸っていた。


「いやぁ、まさか受かるとは思ってなかったわ…」


 日吉は予想外の結果に目を丸くしている。

 まぁ、俺にかかればこれくらい当然だ。俺はやればできる子なのだからな!!

 しかし、浮かれてばかりもいられない。

 なぜなら…


「いや…それが一つ重大な問題があるんだが…」

「なんだよ?」

「“恋愛の授業”って具体的になにするんだ?」

「…え?」


 二人の間にしばらく沈黙が流れた。

 そう。俺は主席で合格すれば願いを叶えてくれるというおまけのことしか考えておらず、重要な部分を考えてなかった。

 卒業率3%で、しかも主席卒業を目指すなら事前に勉強しておく必要もあるだろう。が、しかし…肝心の授業内容が分からないのだ。これでは勉強なんてできるはずもなく…。


「いや、俺が知るわけねぇだろ!?お前知った上で受験したんじゃねぇの!?」

「そんなわけねぇだろ!俺は卒業した時の願いごとだけで受験決めてんだから!!何でそんな面倒くせぇ調べごとしなきゃいけねぇんだよ!!」

「お前どんだけ面倒くせぇんだよ!もう怠慢通り越してただの馬鹿だろ!!」

「元々お前が紹介してきたんだろ!そこら辺調べた上で紹介して来いよ!てっきりそのうち説明があるものだと思ったじゃねぇか!!」

「どんだけ俺におんぶにだっこだよ!」


 その後、終わりなき言い争いは数分続き。

 そして、俺達は軽く肩で息をしながら、ふとあることに気付いた。


「…っていうか、他の奴も初めてなんだし知らない奴の方が多いんじゃねぇの?」

「…お前、それもっと早く気付けよ」


 “恋愛学”とりあえず入ってからのお楽しみだな…

 こうして俺は、一つの大きな不安を抱えたまま、『学校からの援助金で人生楽して生きる』という夢に向かって、卒業率3%の学校『私立恋星高校 恋愛学科』へと進学を果たした。

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