物語の生まれる速度
ワタシのタイピングはローマ字入力で、左手は五本の指を全て使っているのだけれど、右手は人差し指と中指しか使わないという、おかしな癖が付いてしまっている。だからといってタイプが遅いのかというとそうでもなく、喋る程度の速度でなら、十分にタイプできる。
ローマ字入力は、かな入力に比べると、キーを叩く回数が多い。基本的には一文字タイプするために、子音と母音をタイプしなければならない。一文字一タイプのかな入力に比べると、単純に考えて二倍の回数キーを叩く事になる。
文字を書く時に加える力を筆圧と呼んでいるのだけれど、タイピングの時にキーを叩く力はなんと呼べば良いのだろうか。呼び方はわからないけれど、ワタシのタイプはキーボードを打ち抜きそうなほど力強いらしい。
喋るくらいの速度で、音の二倍の回数、力強くキーを叩く。つまり、ワタシがタイプすると、うるさい……のだそうだ。自覚はない。
特に長文を打っているとき、スピードが乗ってくるとうるさいらしい。という事は、小説を書いている時もかなりうるさいのだと思う。本人は集中してしまっているから、自分のタイプ音なんて気にしたことはないのだけれど。
タイプ音が気にならないくらい集中しているときは、タイピングよりも少し速い速度で物語が生まれているような気がする。早口でしゃべるくらいの速度だろうか。生まれてから書き留めるまで、若干のラグがある。
生まれたばかりの言葉は、何だか出来の悪いシャボン玉みたいなもので、マゴマゴしてるとすぐに消えてしまう。書き留める前に、消えてしまう事もしばしばだ。
生まれたばかりの言葉が消えてしまわないように、声に出してレコーダーに納めればよいのでは……などと考えてみたけれど、そこへ至るまでの物語を文字として捉えながらでないと、言葉が生まれてこない。難儀なものだ。
ちなみに、手書きの速度はかなり遅い。しかも悪筆だ。
PCもワープロもない時代だったら、もしかするとワタシは小説を書くことが出来ないのかもしれない。もしくは、生まれた言葉が消えない速度で書くとすると、人類が判別できる文字で書き留める自信がない。
あと、手書きだと、どうやって推敲するのだろうか。
ワタシの推敲の頻度から考えれば、原稿用紙が黒く塗りつぶされてしまいそうな気がするのだけれど……。
一度くらい手書き原稿に挑戦してみようかと思ったけど、考えるほどに無理な気がしてきた。PCのある時代に生まれてきて良かった……。
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