but usual saturday

「はー、向島は歩きやすーい! 疲れたー!」


 大学祭2日目、紗希ちゃんとヒビキが遊びに来た。青女の学祭は先週終わっていて、今週は2人で学祭巡りをしているそうだ。星港市内……星大と星ヶ丘から始まって、電車を乗り継ぎ緑ヶ丘へ。そしてここが最後なんだそうだ。


「圭斗、紗希ちゃんとヒビキが遊びに来てくれたぞ」

「ん、ようこそ。何もないところだけどゆっくりしていってくれると嬉しいよ」

「菜月ちゃん、これ、向島さんに差し入れ。いつも向島さんが良くしてくれるのに甘えちゃってるから。さとちゃんのクッキー、よかったらみんなで食べてください」

「わ、何かゴメン。みんなで美味しくいただくことにします。圭斗、差し入れをいただいてしまった」

「お気遣いありがとう」


 今日からのMMPは中華風肉団子スープのブースを出展している。DJブースは昨日1日だけだったんだ。緑ヶ丘では3日間ともDJも食品もやるって言ってたけど、ウチにそんな人手も労力もないから自分たちのペースでのんびりと。

 店番のシフトはあるけど、あってないようなものだ。如何せんほぼ全員が出不精なサークルだから。今だって本来りっちゃんとカンザキの番だけど、うちと圭斗もブースの周りで日向ぼっこをしていたりと自由だ。


「ねえ紗希見てこの時計! かわいい!」

「ホントだ、かわいい。菜月ちゃん、この星型の時計どこに売ってたの?」

「あ、それはうちが作ったヤツ」

「えー!? 菜月こんなの作れるの!? いいなー、すごーい!」

「星型に切り合わせた段ボールの枠に時計をはめただけだぞ。100均の道具を組み合わせて。全部で300円くらいかな」

「って言うかこのアルファベットオブジェもかわいい!」

「よかったー、頑張って作ったのにウチの連中は誰も触れてくれないから。なあ、圭斗君」

「菜月さんの仕事が素晴らしすぎて言葉を失っていたんだよ」

「でもホント菜月すごいわ」

「ヒビキ、わかっただろう? 菜月さんが有能過ぎて僕も含めた無能たちは手を出せないんだよ」

「うん、思った以上だった」

「MMPが誇るナツナツさんだからね」


 ノサカが言ったナツナツさんのネタは、次のサークル活動日にみんなの知るところとなった。アシスタントのノサリは無理があると、改めてバッサリ。ただ、りっちゃんが「それを無理なくやれるのはゲンゴロリくらいスわァー」と言ったのには、みんなで納得。

 男所帯でこういうのに手をかけるだけ無駄だったのかなとも思わないこともなかったけど、こうして感想をもらえるとモチベーションが上がると言うか、やってよかったと思う。奈々も褒めてはくれたけど、もっと欲しかったんだ。


「ヒビキたちは他の大学さんも回って来たんだよね」

「緑ヶ丘が凄かったとしか」

「どう凄かったんだい?」

「カズが超絶美少女!」

「うん、伊東クン凄かった。女装ミスコンで優勝してたよ」

「噂には聞いていたけど、本当に獲りやがったか」


 うちも高崎から聞いてたけど、機材カタログ欲しさに伊東を女装ミスコンに売ったとか何とかいう話は、結局思惑通りに事が運んだらしい。学祭に対する高崎は、良くも悪くもある物を利用してとことん稼いでいくスタイルだ。きっと焼きそばのブースでも忙しくしていることだろう。


「あっ、緑ヶ丘で思い出した。焼きそば食べていい? 買ったまま食べてなくてさ」

「ん、どうぞ。僕たちのスープも一緒にどうかな。よければご馳走するよ」

「ほしー!」

「少々お待ちください」

「ダメだ、焼きそば見てたらお腹空いて来た」

「菜月ちゃん、これ食べる?」

「紗希ちゃんのがなくなるじゃないか」

「紗希、そしたらアタシと半分する?」

「ありがとヒビキ。うん、菜月ちゃん食べちゃって。高崎クンが焼いてくれたから」

「お待たせしました。スープ2人前です」

「圭斗、焼きそば半分こしないか? 紗希ちゃんがくれたんだ」

「お言葉に甘えて少しいただこうかな」


 2つの焼きそばを4人で分けて食べることになった。スープの器を2つ持って来て、そこに半分ずつ分けていく。いざ食べてみると、時間が経ってるから少し冷めてるけど、それでも味がしっかりしていて美味しい。


「菜月ちゃんゴメンね。これだけ看板とか作るの大変だったのに、ウチの学祭に向島さんの子たち駆り出しちゃって」

「ううん、全然! うん、ホントに。圭斗も言ってたけど、うちの作業中にはどうも声をかけにくい雰囲気があるとかで。それに、先週はケーキなんていただいてしまって」

「ほんの気持ちだから。これくらいしか出来なくて。でも、菜月ちゃんてやっぱり菜月ちゃんだね。1人で頑張り過ぎちゃうところとか」

「いや……この装飾の作業に関しては圭斗もいてくれたし。ノサカも手伝ってくれたから楽にはなってたんだ」


 紗希ちゃんは「そっか」と一呼吸おいて、改めて感謝とお詫びを伝えてくれた。ただ、うち自身が青女さんに何かしたワケじゃないから改まられるのも変な感じがした。


「あっ、そうだ圭斗菜月! 星ヶ丘行ったときに山口クンが言ってたんだけどさ、幹事は自分がやるしIF3年会やらないかーって」

「ん、いいんじゃないかい?」

「うん、まあ」


 特に激しい人の往来があるでもなく、のんびりと過ぎていく時間。穏やかな日の光の下で食べる焼きそばがうまー。


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