いいものメイドイン

「慧梨夏ー、ハンバーガー作ったけど食べるかー?」

「食べますっ! えっ、って言うか本当にハンバーガーじゃん!」


 出てきたのは、絵に描いたようなハンバーガー。焼きたてほかほかのバンズに牛肉100%のパテととろけたチーズ、シャキシャキレタスとトマトが挟まれている。バンズにはしっかりと白ゴマも乗っているし、付け合わせのポテトとサラダまである。思わず目を疑った。


「もしかしてですが、一から作りましたか?」

「一から作りました」

「さぁっすが!」

「不意にハンバーガー食べたいなーと思ってさ。でも外出るのめんどくさかったし」

「作る方が面倒じゃない?」

「まあ、せっかくの休みだし、こういう時間の使い方もいいかなと。洗濯物も少ないし。さ、食おうぜ」

「いただきまーす」


 ん~、おいひ~…! ホントにカズがさすが過ぎて。ハンバーガーが食べたいからって作るっていう発想にはなかなかならないもん。うちの部屋ならともかく、カズの部屋だったら10分も車で走ればハンバーガーだって買いに行けちゃうのに。

 バンズなんて自分で作れるのって聞いたら、店で作れるものは頑張れば自分でも作れるって返って来るんだからすごいよねえ。最初は誰かが手で作ってんだからって。ごはんにかけるこの情熱、素晴らしいね。高崎クンが信頼を寄せるのもわかりみに溢れてこぼれちゃいそ。


「ホント、カズは凄いよねえ。ポテトもお店みたい」

「ポテトはそんなに難しくないぞ」

「え、ウソ」

「ホントに。芋を切って、水にさらして、水気拭いて、粉塗して、揚げる、取り出す、高温でもう1回揚げる。以上」

「聞いてるだけでムリ!」

「まあ、お前には難しかったかもしれないけど、普通に料理する人にしてみれば簡単な方だから」


 外はカリカリ中はホクホクな皮つきポテトは簡単に出来るとあって、カズは最近よく作っているようだった。それっていうのも、カズの部屋に大量に置かれたジャガイモちゃん。何かこないだここでサークルの後輩の子の誕生会があったんだって。その時に山のようなジャガイモをもらってて。

 話せば長くなるそうだけど、ジャガイモはいくらあっても困るものじゃないし、保存が利くからありがたくもらったんだって。北辰っていう大産地のジャガイモをちゃんとケースで買うと高いから本当に助かるって言ってカズはご機嫌ですよね。


「これだけのジャガイモをタダでくれる親切な人もいるんだねえ」

「タカシが星大の子からもらったんだけど、何かリンちゃんが絡んでるらしくてさ」

「えっ、リンちゃんが? さらにタダの理由がわからないんですけど! 法外な値段取られてないのが不思議!」

「何か、俺のところに行くならお前の手に渡るのと同じだからすぐなくなるだろうしどんどん持ってけって言ってたとか言ってなかったとか」

「ふーん」


 もそもそとポテトを食べながら考える。まだ2ケースはあるジャガイモ。いくら保存が利くと言っても何かに使えないかなと。


「カズ、ポテト1人分ってジャガイモに換算したら何個くらいになる?」

「ちょっと食うなら1個、他にもおかずや主食があるなら半分で十分。この芋結構デカいし」

「1ケースって何個くらいあるの?」

「25個くらい」

「50人分か。ふーむ」


 油はある。粉もある。これ、もしかしてもしか出来る…? 思い立ったが吉日!


「テッテレー、スマートフォ~ン! あかさたなはやしばら、っと。もしもーし!」

『何の用だ』

「あっ、ご無沙汰でーす。あのさー、こないだカズにくれたジャガイモの件だけど」

『どうした、まだ欲しいならくれてやっていいぞ』

「あ、ホントに? 助かりますわ~」

『いや、助かるのはこっちだ。まだ事務所が圧迫されていてな。欲しいなら持って行ってやろう。何ケースだ』

「ちょっと待ってね。ねえカズ、ポテトって先に下拵えして冷凍保存出来るでしょ?」

「むしろ冷凍した方が美味くなる」


 よしきた! 鵠っち宅の冷凍庫をポテトで埋め尽くせば余裕でイケる!


「じゃあ4で!」

『そうか! 喜んで持って行こう。お礼に北辰の美味い菓子も付けてやろう』

「じゃあ、さっそくこの後どうですか?」

『わかった。しかし今は手が離せんでな。終わったらまた連絡する』

「了解でーす、うちも用事あるのでー。じゃ、お疲れでーす。また後で~」

「慧梨夏、もしかしてリンちゃん?」

「もしかしなくてもリンちゃん。ところでカズ、唐揚げとポテトの組み合わせって、どう思う?」

「最強。え、まさかお前、禁断のヤツをやる気か!」

「打倒MBCC! ブース賞はGREENsがいただきます!」


 GREENsのブースはほぼほぼうちのノリと勢いと思い付きで回ってる物。だから今からフライドポテトをやろうって話になっても多分みんな乗って来てくれる。唐揚げのレシピは度重なる練習でほぼほぼ完成してるし(千春さん様々です)。

 高崎クンが打ち上げの飲み会を豪勢にするために商魂を燃やしてるけど、うちだって負けてられないですよね。ある物を使って何が悪いっていう高崎イズムはうちにだって浸透してるんだから。不利なブースの立地を跳ね返すにはなりふり構ってられない。


「カズ、ポテトのレシピを~……」

「ライバルになるってわかってて教えるのはなあ」

「美弥子サンに」

「すみませんでした教えます」

「今何時? あんまりゆっくりしてたらアヤちゃん来ちゃう」

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