愉快な下僕たちの労働

 男子禁制、女子の園。俺とヒロ、それからこーたの3人はは青葉女学園大学にやってきました。青女さんの学祭が間近だということで、その手伝いという名目だ。と言うか、俺とこーたはヒロに巻き込まれましたよね。

 何か、ヒロが啓子さんに青女の学祭についていろいろ聞き回ってたんだよな。そしたら、流れで手伝うことになっていたと。いやいやちょっと待てとは思ったけど、人助けやよとか意味のわからないことを言われて押し切られたのだ。


「それじゃあ向島勢いい? 今日の作業工程はこんな感じだから」

「本格的な工事現場みたいだな」

「作業するのに計画を立てるのは基本だからね。進捗の遅れは命取り」

「さすがKちゃんやよ!」


 ヒロは啓子さんの言うことには何でもかんでも同意したり持ち上げたりするけど、これに関してはさすが啓子さんとしか言いようがない。今日はこれをどれだけ進めて明日はこう、なんて細かい計画、番組のキューシートでなければなかなか立てられない。

 本来男子禁制の敷地内に何か脱法的な手段で潜入した愉快な下僕3人である。青女のサークル室は縦に長くて物で溢れかえっていた。部屋の奥の方では沙都子がミシンを走らせているし、福島先輩は喫茶のメニュー表を作っていらっしゃる。


「野坂くんたち、今日は手伝いに来てくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ足手纏いにならないよう頑張りますのでよろしくお願いします」

「でも、向島さんの方は大丈夫なの?」

「大丈夫です! 青女より1週遅いんで!」

「ヒロお前! 菜月先輩は今日も装飾の作業をされてるんだぞ!」

「えっそーなん!?」


 あっ。しまった、ついうっかり本当のことを。すると福島先輩はこちらのことを心配してくれるし、そんなときに手伝ってもらっちゃってごめんねと謝られる。ただ、装飾の作業に関して俺たち下僕は無能なので、心苦しくは思うのだけど今日は青女さんのお手伝いを全うしようと思う。

 さて、俺たち3人に握らされた絵筆である。繰り返すけれど、俺たち下僕は装飾関係の作業が本当に出来ない。あまりの出来なさに向島では絵筆を握らせてもらえない程度には。ただ、緑と赤で大体塗れていればいいという啓子さんからの仕様説明に安心して筆を動かす。


「はー、しんど」

「本当ですね」

「って言うかハケとかないん? さすがにこの筆でこの大きさの葉っぱ塗るんしんどいわ」

「ごめんね、ハケは直クンが使ってて」

「しやったらだいじょーぶです、ボクら頑張って塗るんで」

「ヒロお前ホント調子いいな。申し訳ございません福島先輩」

「ううん、その葉っぱ塗るの本当に辛いよね。だからアタシたちも後回しにちゃってたんだ。しんどい仕事やってくれてありがとう」


 福島先輩マジ聖人かよ。しかしヒロの野郎、事あるごとにもちゃもちゃ言いやがって。だけど、手の平ほどの大きさをした葉っぱを模した紙にひたすら色を塗っていくという作業が案外しんどい。絵筆の細さも一因としてあるんだけども。

 俺たちは葉っぱ2、3枚で根を上げているワケだけれども、そう考えると菜月先輩の凄さが身に沁みてわかるのだ。DJブースと食品ブースの看板、それからタイムテーブルに足元の立て札、その他飾りを1人で作るという過酷さだ。

 もうしばらく黙々と葉っぱを塗っていると、そろそろ休憩にしようと福島先輩から声がかかる。青女さんは定期的に休憩が入るホワイトな職場らしい。そして準備をしていたみんながわらわらと部屋の中に戻ってきた。


「今日はクッキーの試食会も兼ねてます。どんどん意見をください」

「わーいさとかーさんのクッキー!」

「おかーさんって言わないの!」

「あと、アヤネちゃんのジュースが届いたからみんなで飲もう」


 出てきたのは、沙都子お手製の大きなバタークッキーとチョコチップクッキーの2枚と、果汁100%のブドウジュース。試食会としての性質もあるらしいこのちょっとしたお茶会、何という贅沢か…!? ちなみに青女さんで出す執事・メイド喫茶のメニューの一部らしい。


「うわっ、クッキーうまっ。このチョコ感がいい。沙都子最高」

「わ、ありがとー」

「ボクチョコチップもうちょっと多い方がよかったわー。ノサカのヤツばっかり多くない?」

「チョコチップに偏りが出ないようにする、っと。当日までに改善するね」

「ブドウジュースも美味しいですね。ちなみに1杯あたりの売値は」

「ソフトドリンクは一律200円だね」

「このジュースは250円でもいいと思いますよ。でも釣り銭の準備が面倒ですね、失礼しました。あ、メニュー表でプレミアム感を演出して300円取りませんか?」


 ――などといつものノリで言いたい放題の我々向島下僕勢である。ただ、そんな言いたい放題をご丁寧にも拾ってくださる青女さんであった。俺たちの言うことは真に受けなくてもいいのに!

 そんなこんなでお茶会を満喫していると、ズボンのポケットから振動を感じるのだ。何らかの通知が入ったらしい。ちょっとそれを見てみると、圭斗先輩からのメールであることがわかる。


「……ヤバいぞヒロ、こーた」

「え、何やの」

「どうしたんです?」

「圭斗先輩からのメールだ。見た感じ菜月先輩以外の全員に一斉送信されてる」

「あ、ホンマや。圭斗先輩からメール来とる」

「内容は?」

「意訳すると、菜月先輩がキレてるからMMPの準備にも顔を出せ、と」


 ですよね! 菜月先輩じゃなくてもキレるに決まってるよな! しかし今日は青女さんのお手伝いを責任を持って勤め上げることに。何かヒロが当日の手伝いまで約束してやがったので俺は平日にお手伝い致しますから命だけは助けてください!

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