ウキウキトーキングの休日

「アヤちゃん紅茶ストレートでよかった?」

「わー、ありがとー。いただきまーす」


 今日はアヤちゃんをうちに招いて好き放題お喋りする会。「アヤさん来るなら出してあげて」とカズがケーキを焼いてくれた。って言うかカズってアヤちゃん来るときあからさまに張り切ってるよね。

 別に浮気は疑わないけど一応それを突っついたよね。そしたら、「アヤさんはきっといいとこのお嬢さんだろうからもてなしもちゃんとしないと」とのこと。確かに変な夢は抱いてるみたいだったな。アヤさんはチョップドサラダをノンオイルドレッシングで食べてるんだ、みたいな。

 残念ながら、うちが相手の時点でカズがイメージするようなオシャレな雰囲気でオシャレな話をするワケもなく。お互いの活動報告やらがメインの爛れた会ですよね。オンでの話も楽しいけど、オフでの話も楽しいんだもん! あ、ケーキは美味しくいただいてます。


「それでね。アヤちゃん見てー!」

「おお~っ! これが片桐神の生絵…! たまちゃんスゴい…!」

「ゆーてChocolate Soul Musicの相方ですからね」

「ほんそれ。あの片桐神とコンビ組んでるとかたまちゃんも神だしそんなたまちゃんとリアルに会って好き放題やってる私本当に贅沢! 恵まれてる!」


 昨日、うちがオンで仲良くしてもらってて合同サークルを結成した片桐さんと会ってきましたよね。イベントの報告もあったし。前々から向島に住んでる同い年の男の子だとは聞いてたけど、実際の片桐さんは結構な好青年っぽい雰囲気でしたよね。スマートな感じで。

 イベントの報告やら何やらをして、せっかく片桐神に会うんだしとダメ元でスケッチブックを持って行ったんですよね。そしたら快く描いていただけましたよね…! 懐の大きさまで神かと! このボールペン絵のクオリティよ! てか一発でこんな細かいメカメカしいの描けるなんて素晴らしいですよね。


「あれっ。って言うかたまちゃん指輪なんてしてたっけ」

「これ? こないだカズからもらっちゃったんですよ~うへへ~」

「あ、これ私地雷踏んだ。浮かれちゃって~、このこの~!」

「片桐神からもお前浮かれてんじゃねーよとは言われました」

「片桐神そういうこと言う人なんだね。ツイッターとかじゃ隙のない好青年って感じなのに」

「まあ、その件はうちが無意識に振ってたってのもあるからね」


 外出先で流れてたベタベタなラブソングに胸焼けして「実際そんなあっま~い感じになんてそうそうなんないし浮かれてんじゃないよ」と片桐さんに喋ってたのね。でも推しちゃんたちに変換したらすべてを許せたと添えて。


「たまちゃんがそれ言う?」

「うん、片桐神も「雨宮さんは自分がそっち側だということを理解した方がいい。浮かれてんじゃねーよ指輪までしときながら」とは草を生やしながら言われました」

「たまちゃんのバカップルいじりをネットで見てたけど、リアルにカズさんにお会いして? たまちゃんが惚気る気持ちも分かる! ケーキ美味しいし優しいし! 家事完璧で趣味に首突っ込んでこない! いいよね~」

「そう、アヤちゃん聞いて」

「うん」

「カズを学祭の女装ミスコンに出すのにとびっきりかわいくするミッションを受けたんですようち」

「キャー! 絶対かわいい~! えっ、私も何か協力すればいい!? むしろ協力させて~!」

「さすがアヤちゃん話が早い! 今度さ、中間審査ってのがあって、そこに出す写真を撮らなきゃいけないんだよね。ここはアヤちゃんに写真に写るコツみたいなものをね、みっちり指導してもらってね」

「任せて! 立ち振る舞いもみっちり指導するから!」


 これで勝てる。アヤちゃんに指導してもらえれば立ち振る舞いやら写真やらに隙はなくなるはず。何より、うちが言うよりカズが指導をちゃんと受け入れてくれそう。アヤちゃんに変な夢を見てるカズだからね。それにアヤちゃんには実績もあるから信頼性抜群だよね。


「ところでたまちゃん、片桐神との合同サークルは今後も動きますか?」

「冬に合わせて書いてるよ。もちろん自分の原稿と、別企画のアンソロ原稿もね」

「さすが!」

「てか本当に片桐神すごいわ。うち単体のイベントで合同誌置いてたんだけど、スペースに来る人が段違いに増えてたから。やっぱフォロワー7000人は違いますね。拡散力が段違いだわ」

「私昨日謎に片桐神からフォローされたんだけど、人違いじゃないかと思ってそわそわしてて……どうして片桐神の84人のフォローの中に私が含まれるのかと思って」

「あ、うちがそそのかしました」

「雨宮先生!? あなた何てことを!」

「だって~、売り子さんてどの子って聞かれたから。ほら、合同誌のキャラもやってくれてたでしょアヤちゃん。それが見たかったんだって」

「お、お粗末様です~…!」


 もしもこの大会が夜に食い込んでも大丈夫なように、冷蔵庫にはカズが作っていってくれたご飯がある。長くなることもわかってるんだよなあ、さすが、我が彼氏様は。そんな当たり前の生活模様も、誰かがいることで話が膨らんで次の話のネタになったりする。人と会って話すのは、アイディアを広げるのに一番有効な手段だ。


「アヤちゃん、紅茶おかわりどう?」

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