忙しさを整理する

「大体の顔が出揃ったところで、このまま詰めていくぞ」


 秋学期が始まって、日を追うごとにやることが増えているのを肌で感じるようになっていた。勉強やバイトは当然としても、そこにサークルのことやそれに関連して大学祭のことも付いて来る。

 今日は図書館の自習室で岡崎と秋学期の昼放送について話し合っていた。厳密には、秋学期の昼放送で使う月曜から金曜までの5枠にアナウンサーは誰を出そうかという会議。まあ、これは至って平和的な話し合いで決まった。あとはミキサーと履修を照らし合わせてペアを決める。

 ここでのやり取りで無事岡崎に大学祭で出すDJブースの責任者を頼むことになったところで、ついでだから学祭のことについても簡単に話し合っておくことにした。ちなみに俺と伊東はサークル全体のことに目を配らなければならない立場にある。


「まず、お前に考えてもらいたいのはDJブースのタイムテーブルな」

「リク番の持ち時間は1人1時間だよね」

「そうだな。3日間のうちどこかで1時間必ずやる」

「焼きそばのシフトのことも考えないといけないよね」

「その辺は逆にDJブース優先で、空いてる奴が焼きそばをやればいい。ゼミとかの関係でこっちに付きっ切りでいられない奴もいるだろうし」


 MBCCでは毎年大学祭でDJブースと焼きそばのブースを出展していて、DJブースでは各々の企画番組とリクエスト番組を3日間に渡ってやっている。そしてその隣に構えるテントでは、焼きそばを100円で売るのだ。

 ファンフェスなんかのイベントではDJブースにリクエストもなかなか入らず身内が仕込むことも多々ある。でもMBCCの焼きそばは有り難いことに毎年結構な売れ行きで、焼きそばの待ち時間はDJブースに~という人もいたりする。

 邦楽洋楽メジャーインディーその他諸々ジャンル問わずいろんな曲をストックに用意しているつもりだが、そのリストも年に1度のまとめ時期になる。これは機材管理の担当だから、Lを突けばそれでいい。


「ああ、それと岡崎」

「まだ何か」

「2日目のこの時間帯、伊東は枠から外しといてくれ」

「大祭実行の手伝いか何か?」

「まだ公にはしてないし伊東本人にも伝えてないが、女装ミスコンにエントリーした」

「えっ、カズが女装するみたいなこと?」

「優勝賞品が某有名オーディオメーカーの機材カタログの中から好きな物1点っつーんだよ」

「あ、本当。それは魅力的だね」

「まあアイツはいい素材してるからな。最強のプロデューサーも付いてるし余程のことがない限り取りこぼしはないだろう」

「まだ本人にも宣告してないっていうのに相当な自信だね」

「次の会議の時に言うつもりではいる」


 現時点でわかっているNG枠を伝え、タイムテーブルを組み立てる作業は岡崎に任せることにした。それから話しておかなければならないことは他に何があっただろうか。焼きそばは代々1年の担当だから岡崎と喋ってもしょうがねえし。

 あー、今日のサークルの時にでも1年集めて焼きそばのことについて話し合わせなきゃな。店長を決めさせて、後はなんだ、レシピと原価計算、大祭実行からの連絡みたいなアレにも出席させねえと。検便に、買い出しに……って俺が全部考えてどうする。


「今年の焼きそばはどうなるかな」

「まあ、大方高木・エージ・ハナの3人が中心になってやってく感じになるだろ」

「おハナがいるなら料理関係は大丈夫そうかな」

「焼きそばだぞ。高木ですら作れるんだから問題ねえ。そんなことよりお前はDJブースの方をだな」

「そんなこと言って、高崎がまず焼きそばの心配ばっかりしてるから」

「まあ、焼きそばの売り上げは打ち上げの予算に直結するからな。どうせなら豪勢な打ち上げにしたいじゃねえか」

「安定のMBCCイズム。高崎が代表の時点で今年の学祭は安泰だね」


 そう、焼きそばの売り上げはその後行われる打ち上げの予算に直結する。稼げば稼ぐだけより豪華なコースでの飲み会にすることが出来るのだ。飲み放題付き宴会プラン・3500円コース、4500円コース、5500円コースの中からどれがいいかと聞かれれば、当然5500円コースだろう。

 去年もいい売り上げだったが、だからと言って去年と同じレシピでやっていたところで面白くない。どうせなら歴代の焼きそばの中で一番美味い物にしないと意味がない。惰性でやって付いてくる売り上げなんざ雀の涙ほどだ。


「ところで高崎」

「何だ」

「仮のタイムテーブルとかDJブース関連のお知らせは一応全員に流す感じ? それともサークルの場で言うだけ?」

「……そこはまあ、お前が責任者なんだからお前がしたいようにすりゃいいんじゃねえのか」

「そう。それじゃあ好きなようにさせてもらうよ」

「お前まさか武藤を呼ぶ気か。いや、俺がいないときなら別に何だっていいんだけどよ」

「さあ、その辺は俺の気紛れでどうなるかな」

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