夏のあらすじと迎える秋

公式学年+1年


++++


 インターフェイスの夏合宿も終わって対策委員の仕事も一段落……したかと思えば、今度はゼミ関係で大学に出てくる用事が発生。班で作っている作品用にフィールドワークで録音した音源の確認作業があるのだ。

 佐竹さん以外は鵠さんも安曇野さんも向島外のエリアから出て来てるから、あと1ヶ月ある夏休みの間に帰省してるんじゃないのと思ったけど3班メンバーは帰らないみたくて。まあ、俺も今年は帰らないんですけど。

 そんなワケでゼミで占拠してるスタジオに3班全員集合。夏の間にフィールドワークには何回か行っていろいろ録って来たけど、真面目にばっかりやってたワケじゃないから最初の方は何をやってたか忘れてるよね。


「あー、こんなんあったな」

「って言うか、暑いやら雨やらで人捕まえんのに苦労してた」

「40度超えだしね」

「いや、それよりも高木とフィールドワークに出ると100%雨が降るっつー方が問題じゃんな」

「それだし」

「確かに雨は毎回降ってた気はするけど、って言うか俺抜きの回は晴れてたの?」

「晴れてた」

「そうですか」


 自称晴れ男の鵠さんと、自称晴れ女の安曇野さんが声を揃えて言うんだから、俺抜きの時は本当に晴れてたんだろうなあ。ちなみに俺はここまでのゼミの活動の中で雨男を通り越して雨神様とまで呼ばれるようになってしまっていた。

 懐かしの音源を聞きながら、その論点や大事なところを記録していく。この音声は実際の番組でも使えるところは使うから、ミキサー視点ではAD作業とでも言おうか。何分何秒から何秒切り取って~、みたいな感じで記録しながらキューシートにしていく。

 オープンキャンパスの時にこの班の何となくの役割が形になってたんだけど、番組の内容については鵠さんと佐竹さんが主に詰めて、収録だとか音に関することが俺と安曇野さんの担当になりつつあった。音源をパソコンに取り込みながら、ファイルの扱いを安曇野さんと共有して。


「はー、疲れたし! 今何時? この部屋時間間隔なくなるんだけど!」

「えっと、2時半だね」

「もうそんな!? そりゃお腹も空くし」

「ちょっと俺も、時間を認識したことで余計腹減って来た。飯食いに行こうぜ」

「でも、夏休みって学食やってる?」

「時間は短くなってるけど一応やってる」

「じゃあ俺も行こうかな。今食べれば夕飯要らないかも」


 昼も夜もない地下のスタジオから外に出れば、9月に入ったというのにまだまだ蒸し暑いし太陽がギラついている。スタジオは冷房がガンガンにかかってるから涼しいけど、急に暑いやら眩しいやらでクラクラしそうだ。

 そこでバイトをしている鵠さんの社割が利くとのことで、みんなで第1学食へ。鵠さんは夜だとか休みの日といった人の少ない時には「社割で~」という風に良くしてくれる。第2学食だと食券システムだからそれを適用させにくいそうで。


「3割引きとか鵠沼様様だし! ミートソース200円台は助かるし!」

「ホントに。鵠沼クンありがとう」

「あ、高木お前もケチらないでちゃんと量食えよ、安くなってんだから」

「本当にありがとう」


 第1学食はオシャレで美味しい第2学食と比べると値段が安くて量が多いという特色がある。でも決してマズいってワケじゃないから2年になってからは普通に使うようになった。今日は鯖の味噌煮にしよう。これにご飯(M)と味噌汁を付けても320円、さらに鵠さんの社割で224円とか安すぎる。


「あ、そうだ高木。今年はサンマありそうだぞ」

「えっホントに!?」

「今年は結構獲れてるってニュースでもやってたじゃんな。去年は不漁だったからすぐ終わったけど、今年はサンマの期間にもある程度余裕があるんじゃないかって」

「それが本当だとしたら俺は毎日でも食べに来るよ」

「高木アンタそんなにサンマ好きなの?」

「そうだね。とりあえず秋になったら食べておきたいと思うくらいには」


 去年は家のコンロでサンマを焼くのに網も買って来てみたんだけど、肝心のサンマがちょっと高くて手を出すのに勇気が要ったんだよね。学食でも一瞬でサンマの塩焼きの提供が終わっちゃったし。

 だけど今年は学食でバイトしてる鵠さんが言うんだから去年よりは長くサンマを楽しめるんじゃないかなって。自分で焼くより学食で出て来る方が上手に焼けるだろうし楽だし、何より部屋が煙で大変なことにならないからエイジに怒られなくて済むよね。


「つかお前の場合何が問題って秋学期になって真っ当な生活を送れるのかどうかってトコじゃん?」

「あ、えっと……それについては触れないで欲しかった」

「俺のお前に対する第一印象は授業中でもアホみたいに寝てる奴だからな」

「ツラい」

「まあ、学食は夜9時までやってるし、別に昼飯に限らず食いに来てもらって」

「あ、夜なら鵠さんの社割が効いたりとか」

「そう毎回はしないぞ」

「ですよねー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る