small number of people

 インターフェイスの夏合宿が終わって早々に、MMPは夏期特別活動日ということでサークル室に集合していた。安定の遅刻が何人かいるようだけど、そんなことは折り込み済み。僕は菜月さんから預かった紙を手に全員の集合を待つ。


「やァー、来ないスね」

「来ないですねえ」

「りっちゃんと奈々以外は何をしているのかな? 安定とは言えちょっと酷すぎる」

「菜月先輩はどうしちゃったんでしょうか……菜月先輩は時間にも厳格でカッコいい神なんですけど……」

「あれ、奈々には伝わってなかったかな? 菜月さんは実家に帰ったから欠席だよ」

「えーッ! 知らなかったっす! そうですよねッ! 菜月先輩が30分も遅れて来るワケないっすよ!」


 集合時刻からは30分が経過している。野坂くらい悪質だと30分でもまだ早い方かなと諦められるんだけど、ヒロと神崎はどうした。いや、ここも電車とスクールバスの都合があるからまだ待てる。原付で5分の三井は何をしているのかな?

 ぶっちゃけ僕も集合時刻からは5分遅れてやってきたワケだから人のことはあまり言えないのかもしれないけれど、それでも菜月さんがいなければ僕がMMP標準時だ。と言うかMMP基準なら5分程度遅刻のうちにも入らないだろう。


「圭斗先輩、ちなみに今日は何の回ですか?」

「今日はオープンキャンパスについて話し合う回なんだけど、ご覧の惨状です」

「やァー、圭斗先輩の独断でいーンじャないスか? 遅れてきた連中に決定権だの発言権はナシで」

「人が増えても大喜利にしかならないですもんね……」

「奈々が真理を突きヤしたぜ」


 言ってしまえばオープンキャンパスでやっている番組は毎年同じ1ペア30分だし、1年生で経験のない奈々に要項を説明さえしてしまえば後はペアを決めて勝手にどうぞ、という感じでも全く問題ない。

 アナウンサーはテーマかぶりがないようにしなくてはならないから早く来てもらわないと困る。だけど、ミキサーに関しては別に多少の遅刻は諦められるし僕の力で捻じ伏せるからどうでもいいっちゃどうでもいい。


「おはよーございまーす」

「ヒロ、遅かったじゃないか」

「すみません遅れました」

「神崎、お前は何をやってるんだ」


 集合時刻から40分が過ぎた頃、とうとうサークル室に動きが。ヒロと神崎が揃ってやってきたのだ。ようやくか。三井はいなくても割とどうにでもなるから、これでアナウンサーの打ち合わせが始められるな。よしよし。


「やァー、こーたは死刑スわ」

「どうして私だけ死刑なんですか!」

「あれっ。ヒロ先輩こーた先輩、野坂先輩は」

「知らんよ」

「私も知りませんね」

「神崎お前、近所なんだから連れて来いよ」

「どうして私が野坂さんの面倒を見なくちゃいけないんです?」


 野坂に関してはまだ1時間経ってないし、まだまだ想定の範囲内。三井はどうした。ここまで来るとサークル活動日自体を忘れてる疑惑すら浮上するけど。ま、連絡を入れるほどじゃないから放置でいいだろう。


「今日はオープンキャンパスの打ち合わせですよね」

「あ、もうそんな時期やった?」

「ん、ヒロと神崎はわかってるようだね。それじゃあ、ある程度揃ったし始めます」


 この打ち合わせで決めることは大きく2つ。ひとつは番組を作るペアだ。MMPは現在アナウンサー・ミキサー共に4人いる。だから単純計算で4ペア作れることになる。30分が4ペアで、正味2時間食堂の一角をお借りして公開生放送を行わせてもらう。

 もうひとつは、番組のテーマになる。オープンキャンパスでの番組ということで、高校生たちに大学生活とはどんなものかというのを少しでも参考にしてもらうテーマが求められる。もちろん、アナ4人で重複しないように。


「ここに、菜月さんから預かったペア決めのあみだくじがあります」

「さすが菜月先輩、用意周到スわァー」

「ちなみに菜月さんはトークテーマも決定済みで、ペアの相手が決まったらミキサーから連絡をしてくれと言付かっています」

「現場にいないのに場を完全に支配していますね」

「菜月先輩は神っすからね」

「アナウンサーの名前は折り曲げられた方に書いてあるから、ミキサー陣は好きなところに名前を書いて。残ったところに野坂を入れとけばいいだろう」


 ――などと話していると、ドタバタと騒がしい足音。相当なダッシュだ。


「圭斗先輩申し訳ございません!」

「50分。これは、お前基準なら早い方なのかな? 言い訳を聞こうか」

「夏合宿が終わったので改めて機材の片付けと企業への挨拶をしていまして。中村さんに捕まったと言えば圭斗先輩にはお察しいただけるかと」

「あ、それはお疲れさまです。と言うかあの人に捕まってよく50分の遅刻で収まったな」


 野坂の遅刻理由を要約すれば、「仕事中に話の長い人に捕まって逃げられなかった」ということだ。如何せんインターフェイスの協力企業だけに適当なことをするワケにもいかず……ということのようだ。僕にはとてもよくわかるよ。これでも定例会議長だからね。


「とりあえず、細かい話は後で聞こう。オープンキャンパスのペア決めくじだけど、お前はいなかったから残り物だよ」

「はい、甘んじて受け入れます」

「では、御開帳。てーってってー」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る