オートリクエストの鐘が鳴る

 ちゃららら~と流れるイントロ、回るミラーボール、薄暗い照明。マイクを持つのはユキちゃん。


「1番、津軽海峡・冬景色!」


 ここは向島大学から程近いカラオケボックス。今日は夏合宿前最後の班打ち合わせで、通しの練習もやったしインフォメーションの練習もしたしでとても充実していた。で、その後にやってきたのがここでした。

 つばめ先輩やコーキ、シゲトラ先輩などなど夏合宿の班が発表されてから今日に至るまで会う機会があった人とは「班はどんな感じ?」という会話をすることもあったけど、みんな口を揃えて言うのが「4班は仲が良すぎる」とのこと。

 自分の班のことしか知らないからみんなでご飯を食べたり、タカティの部屋でりっちゃん先輩お手製のカルボナーラを食べながら打ち合わせをしたり、こうやってカラオケに来るのが普通だと思ってたけど、他の班ではないことらしい。


「って言うかユキちゃん歌うときの声は番組の声とはまた違うんだなあ」

「ホントだね。すごいね」


 トップバッターのユキちゃんが津軽海峡冬景色を歌っているところで、みんな思い思いにしている。果林先輩となっち先輩が一緒にデンモクを見ていたり、りっちゃん先輩がフードのメニュー表を見たり。

 ユキちゃんは演歌が好きなんだという話は聞いていたけど、歌唱力もすごい。演歌独特のこぶし? みたいなものもしっかり効いていて。こうして聞くと演歌って人の人生が映し出されてる気がする。


「ゲンゴロー、何か入れるー?」

「あっ、先輩たちどうぞ」

「インターフェイスカラオケは何入れても白い目で見られないよ」

「えっ、そうなんですか。アニソンやボカロもですか」

「余裕余裕。むしろよくあるよ」

「じゃあ後で歌いますんで先輩たち先どうぞ。あっ、タカティ何か歌う?」

「えっと、俺は特に――」

「高木君、うちが大迷惑を聞きたいぞ」

「ええー……キラーパスもいいとこじゃないですか」

「うっそおタカちゃんの大迷惑!? なっち先輩入れてください!」

「歌ってくれたらうちも何か1曲リクエストに応えようじゃないか」


 ピピピピピと音がして、「大迷惑」の予約が完了した。何か、なっち先輩とタカティのペア打ち合わせとかでカラオケとかの話にもなってたみたい。今日のカラオケもタカティの大迷惑が聞きたいというのがメインで企画されたことだとか。


「で、では……2番、大迷惑」

「いいぞー」


 まあ、何か、凄かったですよね。画面に映し出されたミュージックビデオはオーケストラをバックにした結構激しいめのヤツだけど、タカティもなかなか激しかったというか。普段はクールなのにギャップが。確かにこれは興味が出る。


「って言うか歌うときに番号と曲名言うのってなんだったっけ」

「のど自慢スわ、日曜の昼にやってヤすね」

「あ~、それそれ! 鐘はないのー?」

「やァー、残念ながらなさそっスね」

「なっちせんぱーい、ファンフェスの打ち上げで朝霞P先輩とやってたヤツやってくださいよー」

「あれを1人でやるのは厳しい物があるぞ」

「えっ、朝霞先輩と何を…?」

「各種いろんな曲を踊りながら歌ってたの。古いところではピンクレディーにジャニーズ、アニメのエンディングとかもあったかな」

「えー! って言うか朝霞先輩が歌って踊るとか、ええー……」


 普段の様子からは全く想像出来ませんね! 想像しようとすると脳が拒否をしてくる!


「やァー、あれは圧巻シたねェー」

「なっちせんぱーい、踊ってくださいよー」

「やァー、自分も見たいスわァー」

「あたしも見たいでーす」


 そして追い詰められたなっち先輩は心なしか後ずさりをするようにデンモクを手にする。視線の先にはタカティ。目がバッチリ合っているのか、タカティはイヤな予感を隠せないようだ。


「高木君、一緒に歌おうじゃないか」

「えっと、俺にアイドルソングは……」

「栄光の架け橋で勘弁してやろう」

「ええー…! 歌えますけど!」

「正確には“弾き語れますけど”だろ?」

「タカちゃん、もしかしてなっち先輩と音楽の話してた?」

「しましたね、はい」

「弾き語り出来るんだ」

「ギターはエイジとちょこちょこやってますね」


 なっち先輩の、困ったらタカティを巻き込む戦法ですよ。でも、こうでもしないとタカティは遠慮して自分からそうそう入れないしいいんじゃないとは果林先輩。

 俺は自分が歌いたい物を入れつつなっち先輩へのリクエストで忙しかったり、楽しかったですね。ユキちゃんの演歌も最初のは本当に掴みだったし。果林先輩の夏祭りも良かったなあ。


「いやでも大迷惑以外に高木に歌ってほしいのはいろいろあるんだぞ」

「ああー、いースね。タカティ、歌いヤしょう。今日はタカティオンステージすわ」

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