やりたいことの近道へ

 先週の土曜日からずっと考え事をしながら今に至る。大事なことだとは言われてるけど、自分ひとりの考えだけでどうこうなる問題なのか。

 ミーティングルームの中ほどにあるのが俺、源吾郎がお世話になっている鎌ヶ谷班のブース。班長のシゲトラ先輩がカレンダーと睨み合いながら今後のスケジュールを立てているところだった。


「あのー……」

「お? どーしたゲンゴロー、おはよーさん」

「あ、おはようございます」

「そーいやこないだインターフェイスの講習会に出てたんだよな! どうだった?」

「あっはいそれはとてもためになって、はい」


 俺の考え事は、その初心者講習会での出来事。インターフェイスの技術向上対策委員会というのに属している戸田つばめ先輩から、ミキサーとして朝霞班に来てくれないかと声を掛けられたのだ。これって、スカウトなのかなと。

 だけど俺は今現在鎌ヶ谷班でお世話になっている。別に何か手続きをしたワケでもないし、厳密なパートなんかも秋ごろになるまで決まらないとは鎌ヶ谷班の先輩たちから聞いていたからのんびり構えていたらこうだ。


「んー? その様子を見てる感じだと講習会で何かあったか」

「あっはい、えっと、実は……俺にミキサーとして来てほしいって、朝霞班から声がかかっていて」

「あー、そっか朝霞班てミキサーいねーもんな。そんで?」

「でも俺は部活の仕組みもよくわかってないですし、正直朝霞班ってどういう班なのかよくわかんなくて怖いと言うか。外からじゃ何やってるか全然わかんないですもん」

「じゃあ、放送部の人の動きについての仕組みについて説明しとこうか」


 そう言ってシゲトラ先輩はルーズリーフを1枚取り出してサラサラと図を書き始めた。

 放送部は現在60人超の部員を抱える部活で、7つの班に分かれて日々活動している。パートは企画を主とするプロデューサー、ステージ上で司会進行をするアナウンサー、音響を担当するミキサー、フロア上で黒子に徹したりタイムキープをしたりするディレクターがある。

 1年生はまず大まかにPかアナ、ミキかDという風に目星をつけ、活動のスタンスが合いそうとか好きな先輩にくっついて行くとか連れて来られるとかでそれぞれの班に散っていく。夏のステージでは大まかな仕事をして、厳密なパートはその後に決まる。

 班員として正式にその班に所属しているという風に決まるのも、夏の後に書類を提出して初めて確定するそうだ。そして、班を異動するときにもその都度書類を提出する必要があるとかで、結構面倒な申請が多いらしい。


「っつーワケだから、鎌ヶ谷班は現状このメンバーで活動してるけど、確定でもない」

「そうなんですね」

「それなりに部活の中でも権力を持ってバリバリやりたけりゃ幹部の班に行くし、そんな体制クソ食らえって思えば幹部とは仲の悪い班に行ったり、いろいろだ」

「鎌ヶ谷班はどういう班なんですか」

「ウチは幹部の味方でも反体制派の味方でもない中立のポジションだ。一見平和に見えるけど、何もかもをその都度自分たちでしっかりと判断しなきゃいけない班でもあるとは言っとくぞ」

「えーと……それで、朝霞班は……」

「朝霞班は、流刑地って呼ばれてる班だな」

「えっ、流刑って島流しのことですよね!? 怖いんですけど!」

「いや? 確かに幹部に反抗した奴が流される場所ではあるけど、昔から言われてる荒くれ者の班っていうよりは、今じゃ「変わり者の集団」って言う方が正しいな。朝霞と洋平は流刑に遭ったんじゃなくて自分で選んであの場所に行ってるし。あとはあれだ、インターフェイスの活動に積極的な奴が多いな」


 そしてシゲトラ先輩は俺に訊いた。インターフェイスの活動は楽しかったかと。まだ初心者講習会にしか出てないけど、他校に友達も出来て本当に楽しかったし、講習もためになった。また何かあれば出たいなとは思っている。


「あとはあれだ、ステージでミキサーやりたいか?」

「はい、いつかは」

「……お前なら朝霞班でも上手くやれると思うぞ」

「えっ」

「ウチは正直ミキサーが余ってるからなかなかお前を使ってやれないけど、朝霞班は人がいない分すぐにでも実践的なことが出来る。インターフェイスのイベントにも堂々と出られるし、何よりアイツらは面白いぞ。キャラ濃いし、少数精鋭でステージも凄い。ダメだったらいつでも戻って来ればいい。一回飛び込んでみりゃいいんじゃん?」


 大丈夫だって言ってシゲトラ先輩は俺の背中を押してくれる。朝霞班で話を聞いてみることに少し興味が湧いたけど、怖さが完全になくなったワケじゃない。


「シゲトラ先輩」

「お? どーしたそんなひそひそ声で」

「朝霞先輩ってどういう人ですか…! いろいろ噂もありますしやっぱりちょっとまだ怖いんですけど…!」

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