waiting room of love&peace

 サークル前の空き時間に、僕と菜月さんは作戦会議を開催していた。その会場は僕の部屋。コンロを前に、問題がひとつ。


「圭斗、どうしよう。見事に固形になってしまった」

「……水で伸ばそうか? それしかないね」


 三井の誕生日を祝っておかないと後が面倒だという理由で急遽行われることになったMMPカレーパーティー。菜月が昨日のうちから作っておいてくれたカレーを持って来てくれたのだけど……2日目のカレーは見事に固形状になっていた。

 鍋一杯に作られたそれはカレーというよりカレーペースト。それと言うのも、菜月のカレーは具が全体的に細かい。肉は挽肉だし、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモといった基本的な食材も全部小さく切り刻む。具材が煮溶けていい味が出るのだけど、粘度がその分高くなる。2日目にもなればこの通り。


「とりあえず、半分くらい僕の鍋に移そう」

「お手数おかけします」

「……おっも! 何だこれ、泥だな」


 すっかり固まってしまったカレーを、お玉で掬うのも一苦労。お玉一杯がとても重いし、カレーを落とそうと縁を叩いても全く落ちてくれないのだ。仕方がないのでスプーンを使ってこそぎ落とすことに。

 僕の鍋と菜月の鍋、それぞれに水をまずはお玉一杯分くらい足して、火にかけていく。あったまれば少しずつ液状化してくるけど、それでもやっぱり溶岩のようにドロドロとしている。これは菜月の好みだね。シャバシャバよりはドロドロ派っていう。


「あっ、圭斗ナニつまみ食いなんかしてるんだ」

「ん、味見と言っていただきたいね」


 さっき使ったスプーンでカレーを一口。何か、こう、一言では言い表すことが出来ないうま味が凝縮されている感じがする。村井サンはこれを肉じゃがカレーだと言うけれど、確かに何となく和のテイストもあるようなないような。


「菜月、カレーを作る手順を教えてくれないかい?」

「そうは言っても普通だぞ」

「いや、こんな固形になるからには何かが違うはずだ」

「えっと」


 まずは材料を細かめの賽の目切りにする。次に、玉ねぎをバターで炒める。玉ねぎの色が変わったら、ニンジン、ジャガイモを足して火を通す。そして挽肉をポーン。塩、コショウ、和風だしの素を適当にポーン。水は少なめに。それらしくなって来たらカレーのルーをポーン。後は適当にチョコレートやヨーグルトを入れて、じっくりことこと。火を止めたら、隠し味の醤油も忘れずに。


「っていう感じだ。特に量は決まってないし、適当に」

「とは言うけど意外に手間がかかっているね」


 作った時からすれば正味2倍くらいの量にはなっているであろうカレーが、2つの鍋の中でぐつぐつと煮えている。まあ、美味しいんだけどね。固まるのが難点なんだろうね。でも、水分を少なめにするのがきっと菜月カレーのポイントだから仕方ないのかもしれないけれど。


「米は何合炊こうか」

「うちのとお前の、炊飯器をフルで使うくらいで大丈夫じゃないか?」

「えっと、僕のが3合炊きで、菜月のが」

「5合だ」

「8合も食べるかい?」

「1合が茶碗2杯だろ。ノサカとカンザキで半分くらいは食べるだろ。あと、三井に食べさすから問題ない」


 忘れかけていたけどこのカレーパーティーの本題は誕生日云々を口実とした三井へのラブ&ピースだ。ちなみに、ラブ&ピースというのはMMP訳では抹殺という意味だよ。ここテストに出まーす。


「りっちゃんにも少し頑張ってもらえばまあ消費出来そうだね」

「じゃ、フルで行こう」

「あと菜月、ケーキは」

「頑張って作った」

「クッソ甘いんだろうなー……」

「そりゃあ、うちのうちによるうちのためのケーキだからな。ノサカ以外置いてけぼりになってもそれはそれで仕方ないという覚悟を持って作ってる」


 厳密には、買ってきたスポンジをデコレーションしたケーキ。生クリームが苦手な男の誕生会という体なのに、クソ甘い生クリームでコーティングするという文字通りの嫌がらせだ。その甘さには三井だけじゃなく、きっと僕も引くだろうな。


「ん、カレーもそれらしくなったし米もセット出来た。とりあえず、サークルに行こうか?」

「そうしよう。これでしばらく大人しくなってくれるといいんだけど」

「そう簡単にはならないと思うよ」

「言うな。暴発するまでの時間稼ぎとか、猶予を伸ばしてるっていうのはうちが一番分かってるんだ」

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