頼れる人の見分け方

 いよいよGREENsの誇るお祭りが始まる……と、その前に、やって来たのはホームセンター。今回のイベントに欠かせない、とある物の調達のため。力仕事担当ということで、鵠っちにも来てもらってるよね。


「――で、ホームセンターに何の用事なんすか?」

「えっとね、七輪用の炭とー」

「七輪なんて使うんすね。えっ、今日のイベントって外でやるんすか?」

「会場はコムギハイツの駐車場だよ」

「ってうちじゃん!?」

「大学から近いアパートの宿命だよね」


 慧梨夏サンがさも当然かのように言うけど、そういうモンなのか。でもって、準備のために部屋もちょっと貸してくれなんてさらっと言うじゃんな。大学に近いとこういうことになるのは宿命のようなものだとは言われてたけど、マジだったのか。

 ただ、それはそうとして七輪が出て来るということは何か美味いモンが出てきそうな予感。炭火で焼くと遠赤外線の高架で何でも美味くなるって言うし、これには期待したい。サンマにはちょっと時期が違うから、何だろう、今が旬ならタケノコとか? その辺にも生えてそうじゃんな。


「で、炭と」

「あと、美弥子サンへの誕プレね」

「ホームセンターで買うんすか? 何かもうちょっと、可愛い雑貨とかじゃないんすね」

「好みがわからない雑貨よりも、絶対需要があるものの方がいいじゃん」

「まあそうっすけど」


 そう言って慧梨夏サンは目的のコーナーへとずんずん進んでいくのだ。そう言えば伊東サンが言っていた。弟さん(慧梨夏サンの彼氏さん)は買い物(生活用品を除く)をするにも優柔不断だけど、慧梨夏サンはマジで即決で時間がかからないんだと。

 今だって、脇目も振らずにどこかなどこかなとそれを探しているのだ。そして自分だけではわからないと思えば、その辺にいるいかにも学生っぽい店員さんを捕まえて、これこれこういう物を探してるんですけどと話をさっさと進めてしまうのだ。


「ネギの種と、ネギを育てるのに適したプランターを探してるんですけど」

「ネギの種類はどんなんがいいですか」

「じゃあ、小ネギにしよっか鵠っち」

「おまかせっす」

「小ネギやったらこの葉ネギですね。九条ネギが育てやすい方やと。プランターは深さが8センチ以上必要で、こういう深型のがええですよ」

「あっ、良かったらおすすめの土と肥料と、あと育て方を簡単に教えてもらっていいですか?」

「ほな行きましょか!」


 初心者さんにもやりやすいのはこういうのですね、と学生アルバイトっぽい店員は慧梨夏サンにも負けない即決っぷりでネギ栽培セットを完成させてしまう。何と言うか、ガチで迷いがない。そして栽培方法を教えてくれる時もまあ生き生きとしていて。

 本来こういう店で働いている店員が客と喋る時にはそれなりの丁寧語で喋るのが一般的だろう。だけど、何かテンションが高まっているのか「多年草やから3~4年は収穫出来るで!」と語気が強くなっている(と言うか西の方言が強めだ)。

 よく家電量販店でガチな店員を探すバロメーターに声のトーンを聞き分けろとかっていう手法があるけど、その菜園版とでも言うべきか。明らかに、菜園のことならこの人に聞いておけば間違いない、という店員のようだった。


「栽培方法は大体こんな感じやわ」

「ありがとうございました。えっと、外のコーナーの物もレジは中ですか?」

「苗や土みたいな外の物は外のレジでもお会計出来るで。良かったら今しよか」

「じゃあお願いしまーす」

「ちなみに、レジ前に野菜の育て方を書いたペーパーが種類ごとに置いてあるし、よかったらどうぞ持ってってーな。ネギの紙もあるで」


 結局、菜園ガチ勢の店員のお世話になりまくってホームセンターでの買い物は終了。多分こういう人を捕まえられるのも慧梨夏サンの引きの良さなのだろう。ぶっちゃけ俺要らないんじゃんと思ったけど、荷物が結構重くなっていた。このために呼ばれたのだと再確認。


「つか、誕生日プレゼントがネギの栽培セットって大丈夫なんすか」

「美弥子サンなら下手な雑貨をあげるより絶対喜んでくれると思うんだよ」

「ちなみに、去年も何かあげたんすか?」

「GREENsじゃなくてカズとの連名でだけど、白髪ねぎカッターをあげたよ」

「白髪ねぎカッターって……ちなみにそれは喜ばれたんすか?」

「それはもう!」

「話を聞いてる感じだと、伊東サンてネギ好きなんすね」

「……あ、うん、ソウダネー」


 この後、俺は今日のイベントがどういう祭なのかを本格的に理解するワケだけど……まあ、なんだ、これがGREENsっつーサークルにいる上では避けて通れない通過儀礼みたいなモンなんだなーっつー感じ? 想像の斜め上を行ったっつーことだけは間違いない。

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