思い出したらすぐ行動

 いつもは授業や各種説明会などで来ている4号館が、今日は何だかお祭りのような雰囲気です。文化会発表会という行事がこの連休に開かれていて、入学した時の勧誘ラッシュで冊子をもらっていた僕は、美術部の活動が気になっていたので来てみました。

 土曜日から月曜日にかけて行われていた発表会も最終日。それまでにはいろんな部活が様々な形式でその活動を発表していたようです。緑ヶ丘大学には星の数ほど部活やサークルがあって、文化系の部活だけでも発表には3日かかるなんて、やはり規模が違いますね。

 僕が目当てにしていた美術部は、ステージではなく作品を展示するという形式での発表だったので、別にいつ来ても良かったんですね。ですが、土日は自分の制作に没頭してしまっていて、気付いたら最終日だったので慌てて家から出てきました。


「あの、すみません」

「はい」


 美術部の作品スペースを見守るように座っていた眼鏡の女性に声をかけてみます。いかにもなスタッフですし、この発表会や文化会のことが何かわかるかもしれません。


「美術部に興味があるんですけど、入ることって出来ますか?」

「本当か! 名前は」

「浦和実苑といいます。社会学部です」

「そうか。私は美術部部長の梓川美和子だ。そしたら、ついて来てくれ」


 梓川さんに言われるままについて行くと、普段は授業をしている教室への入り口がイベントの入場ゲートや物販スペースのようになっています。梓川さんがそこにいるスタッフさんに声をかければ、手渡されたのは1枚の紙。入部届と書かれていますね。


「これに必要事項を記入してくれればオッケーだ」

「そうですか。ありがとうございます」


 どうやら、この発表会では部活に興味関心を持った1年生をすぐに捕まえ、逃がさないように入部届をその場で出せるようになっているそうです。ただ、実際にここでそのまま入部届を書くような人は1年に1人いればいい方らしいです。


「はい、確かに。ところで、美術部の説明とかに来たことって」

「ないですね。新歓のシーズンに文化会の冊子をもらったくらいで」

「そうか。それじゃあ作品の前に戻って説明をしよう」

「お願いします」


 エレベーターの中に入ると、よくよく見ればここも写真で飾り付けられていた。曰く、これも美術部の人の作品なんだとか。梓川さんは昨日、会場内でプロジェクションマッピングを披露したとのこと。見逃してしまいましたね。

 閑散として心なしか空気もひんやりとした作品スペースに戻れば、改めて美術部という部活についての説明が始まります。こうして部長からマンツーマンで説明してもらえるのは贅沢ですね。


「一応、各々が好きに作品を作る集団ってことで特に縛りみたいなものはない。写真の奴もいれば私みたくCGやらプロジェクションマッピングやらで好き放題する奴もいる。浦和、お前は何が得意なんだ」

「僕は立体ですね」

「そうか、今のELLEにはあまりいないタイプだな」

「ELLE?」

「美術サークルだった頃の名前だ。美術部ならELLEだし出版部ならFLASH、サークルだった頃の名前を部活になっても残しているところは多い」

「そうなんですね」

「えーと、特にこれっていう活動日はないけど、持ち回りで担当を決めているのが出版部の部誌の表紙と、部室で飼ってる金魚の世話だな」

「金魚を飼っているのですか」

「私が入学する前からいるから経緯とかはわからないけど、とにかく、金魚がいる。で、ウチの部は部室を勝手に改造してフローリングにしてるから、スリッパや内履きがあるといいかもしれない」

「わかりました」


 あとは実際に活動してればそのうち馴染んで来るから心配は要らない、と説明は締めくくられた。特にこれという縛りがなく、自由に活動できそうなのがよかったです。あまりガチガチに縛るのは僕には向いてないんじゃないかと思いますから。

 僕とは別に、1年生ももう入っているそうです。その人は写真を得意にしているそうです。彼女はこの文化会発表会でも準備段階から忙しなく動いていたそうですが、今日は撤収する頃にならないと来ないそうです。今日の顔合わせは叶わなさそうですね。


「ところで、静かな環境じゃないと作業できないとかでは」

「ないです。大丈夫です」

「隣が放送サークルだから、どうしても音漏れがあるんだ」

「そう言えば、僕の友達が放送サークルに入ったと言っていました」

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