どんと来い運命

「L、お前ありゃねーよ」

「でも、やっぱちょっとまだ自信がないと言うか」


 定例会後、カズ先輩に連れられて飯を食いに来た。そこで始まるのは、楽しい会食と言うよりはダメ出しと言う方が正しいかもしれない。

 今日の定例会ではファンフェスの班編成が行われた。その結果、俺は大石先輩が班長で、アナウンサーには他に向島のなっち先輩がいる班に決まった。班のミキサーは俺ひとり。1人で15分のピントークを2人分と30分のダブルトーク、計1時間を回すのかと。

 ウチの高崎先輩と向島のなっち先輩は、インターフェイスじゃ“アナウンサーの双璧”とまで呼ばれる実力者だ。何がって、話術、雰囲気、話のネタ、イントロ乗せ、インフォメーション……何をとってもとにかく上手いのだ。

 要は、上手すぎる人の能力を殺さないためにはミキサーもある程度の能力でないといけないというようなことだ。高崎先輩にはあの独特の圧にも負けないであろう向島の律、そしてなっち先輩には緑ヶ丘のミキサーだからという理由で俺が宛がわれた。

 だけど、半ば議長・委員長の職権濫用のような感じで組み込まれた班だ。いきなり1人で1時間回せとか、なっち先輩の能力を殺さないミキシングをとか言われたって自信はない。一般の人に向けた番組だってこれが初めてになるワケだし。スキー場DJに行けた今の3年生とは違うんだ。


 で、定例会委員長でMBCC機材部長のカズ先輩が俺に対して思うことがあったらしい。


「自信どうこうじゃねーんだよな。そんなモンは練習と実践、からの成功体験で培われるモンじゃんな」

「そーっすけど、でも緑ヶ丘だからってだけで圧が半端なくないすか」

「俺たちにはいつだって付きまとうんだよ、緑ヶ丘っていう名前が。そんで、それは向島も同じだ。インターフェイスの主活動がステージにでもならない限り逃れることは出来ないんだよ」

「うーん」


 俺が渋い顔をしていると、水を含んでカズ先輩が一呼吸置いた。


「L、ちょっと酷かもしんねーけど、今から現実を突きつけとくぞ」

「はい。怖いっすけど」

「今の2年生は現時点で定例会に3人しか出て来てないだろ」

「そうすね」

「3人しかいないってことは、お前たちは自動的に三役になるんだよ。今いる3人で来期のインターフェイスを引っ張って行かなきゃいけない。で、IFの主活動がラジオである限り、今いるメンツなら誰が先頭に立たなきゃいけないのか。そういう話なんだよ」


 確かに、定例会に配属されたばかりの2年生には酷過ぎないかと思う。だけどそれが現実だ。カズ先輩の言うことは何ひとつ間違っちゃいない。

 定例会の2年生は俺と、青女の直、それから星大のテルだ。星大も一応ラジオ系の学校ではあるけど、このメンツだったら「緑ヶ丘だから」という理由で俺にいろんなことがのしかかって来たとしても何らおかしくはない。


「何も今すぐ出来るようになれとは言わねーよ。何のために定例会の任期が2年あんのかっつーな。今からちょっとずつでいいから考えとけな」

「うす」

「で、次はミキサーとしての話な。お前さ、いつも誰相手に練習してんだ」

「誰って、高崎先輩とか果林っす。去年なら広瀬先輩とか」

「そうだろ。アナとしてのレベルだけで言えば、高ピーの相手が出来てなっちさんの相手が出来ないワケがねーんだよ。何でムリっつった」

「いや、凄い人っすし、初めて組む人っすし……」

「だから班で打ち合わせすんだろ。相手がどういう技術を持ってて、どういう性格の人なのかっていうのを見極めるのもミキサーとしての技量だぞ」

「うす」

「まあ、ひとつだけヒントはやる。なっちさんはミキサーとの雑談を大事にするタイプな。あと、番組に対するミキサー視点での意見は求めて来るから、その辺も主体性を持って考えとくこと。ちーちゃんは多分普通にやってりゃ「じゃあそういう感じでいこっかー」って合わせてくれるから」

「あざっす」


 普段、サークルで“MBCCの母”なんて呼ばれてみんなに優しく笑顔を振りまくカズ先輩は、俺に対しては他の誰よりも厳しい。と言うかみんなから恐れられてる高崎先輩と比較してもめちゃくちゃ怖い。

 正直めっちゃ理不尽じゃねーかと思ったこともあったけど、少し理由がわかったような気がする。カズ先輩には俺をあと1年、正味半年ちょいでインターフェイスの先頭に立てるだけの人間に育てる責務がある。そういうことなのだろう。

 やっぱり緑ヶ丘だからという期待は裏切らず、でもLだもんなあという予想は裏切れるように。今から少しずつそういう風に技術をつけたり、物事を考えられるようになりたい。あと1年。ゼロから気付け、じゃなくて糸口をくれるだけ優しい人でもある。


「って言うかお前飯全然減ってなくね?」

「ガチな話の時って食えなくないすか? って言うかカズ先輩半分食ってくださいよ」

「ええー……何で俺がお前の面倒見なきゃいけねーんだよ」

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