大人の事情とペアゲーム

「悪い遅れた!」

「遅いぞ伊東! 10分の遅刻だ!」

「ゴメンゴメン、地下で迷ってさ」

「ナビ使え!」

「ナビより自分の直観の方が信用できる」

「その結果迷ってんだろうがお前は!」


 午後6時10分、向島インターフェイス放送委員会の定例会が10分遅れで始まる。向島インターフェイス放送委員会、以下IFは7大学からなる放送系団体で、日々技術向上のための情報交換をしたり、交流をしたりしている。

 定例会の議長は僕、向島大学の松岡圭斗。そして、今しがたドタバタと駆けこんで来たのが委員長で緑ヶ丘大学の伊東一徳。ちなみにコイツは切り捨てられない程度のプチ遅刻が非常に悪質で、その理由は大体「○○で迷った」という方向音痴だ。


「ヒビキ、全員揃ったしじゃがりこはしまってくれるかな?」

「えー」


 そして副委員長で定例会3年の紅一点が青葉女学園大学のヒビキこと加賀郷音。じゃがりこを常備していて大体伊東ときゃっきゃしている。その他には星港大学、星ヶ丘大学、青浪敬愛大学、桜貝大学が加盟していて、定例会に出て来る代表者の任期は基本的に2年間となる。

 現在は3年生が実質6人と2年生が3人で定例会というものが回っている。僕たちの仕事は各大学の活動報告をしたり、IF全体の行事や問題に関することを話し合う。そして、一般の人に向けて公開放送の出来る場所を探すという物がある。


「さて、来たるファンタジックフェスタの班割りだけど。ヒビキ、ホワイトボードに板書をお願い出来るかな」

「はーい。とりあえず決まってる班長の名前を書いとけばいい?」

「そうだね」


 ファンタジックフェスタというのは5月の上旬に星港市の中心、花栄駅近くの公園で開かれるイベントで、ステージイベントやその他有志がスペースを取って出店していたりする。IFではそこでラジオの公開生放送をすることになっているのだ。

 班割りは3~4人編成で、アナウンサーが2人、ミキサーが1~2人という割り振りになる。大学や男女の割合、それから個人の力量などを考えながらパズルのように当てはめていく作業が始まる。これが結構めんどくさい。


「班長の名前は書いたよ」

「僕、伊東、ヒビキ、大石君、朝霞君、高崎、山口君。うん、班長はオッケーだね。それじゃあ、残りの参加者を学年とパート別に分けて隅の方に書いて欲しいんだ」

「書記遣いが粗いなあ」

「こうやって見たら3年ミキの層うっす! 俺ともじゃしかいねーじゃん」

「3年生のパワーバランスを考えたときに、誰をどう組もうか」

「とりあえずさ、星ヶ丘系の班にはラジオ系の2年生を入れてあげるような感じじゃんなウチとか向島から」

「そうだね。逆に、強すぎる班長……と言うかお前と高崎には誰の面倒を見てもらおうか」

「えっ、俺そんな強キャラ扱いなの?」


 班編成はラジオに関する習熟度ではないけれど、レベルを加味しなければならない。例えば、バリバリのラジオ系大学である緑ヶ丘と向島は強い、逆にステージ系大学である星ヶ丘、それから映像系大学の青敬はやや弱いといった具合に。

 だから、ラジオのイベントでは基本ラジオ系の大学がそうでない大学をリードするような感じで組んでいく。リードするのは必ずしも班長とは限らない。班長の補佐役として強力な2年生を班に組み込むこともまた必要なのだ。


「逆に高ピーの問題って、ラジオ慣れしてない子の面倒どころか強すぎて俺以外の誰が相手を出来るのか的な。なっちさんもだと思うけど」

「アナウンサーの双璧というヤツだね。うーん、彼、彼女を相手に出来るだけの技術と、特に高崎相手の場合は圧に負けない相手だろう…?」

「向島にいない?」

「ウチで高崎にも臆さないと言えば……」


 ホワイトボードにある向島2年ミキサーの名前を睨みながら、しばし考える。そして、僕と伊東の声が揃った。「りっちゃんだ」と。


「よし、一致したね。ヒビキ、高崎の班にりっちゃんインで」

「そしたらさー圭斗、なっちさんは誰の班になるかわかんないけど、Lがセットでついてくんの確定じゃね?」

「ああ、そうなるか。さすがに向島同士で組ませるワケにはいかないしね」

「で、残りの野坂とこーたをカオルとよっぺで分け合うような感じ。あ、アナも果林とヒロを星ヶ丘班で分配かな。あー、そしたらゴティはビッキーの班に自動的に行くね」

「はーい、アタシの班に五島クンね」

「ちょっ、何か想像するのも恐ろしい話になってないっすかカズ先輩! 俺がなっち先輩とセット扱いってそんなの無理っす!」

「L、お前になっちさん相手はムリか」

「まだ技術的に厳しいかなーって」

「まだひと月あるのに何ヌルいこと言ってんだ、ぶっ飛ばすぞ。さーて、なっちさんとLは誰の班に入れようかなー」


 緑ヶ丘のスパルタ教育の現場を目撃しつつ、班編成は続く。班長達が、やれ自分はこういう子が欲しいんだと希望を突き合わせながらも、大人の事情には無抵抗に。

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