〇〇になった、あわれな私。
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PROLOGUE: WHO IS THIS?
東京都市の地図を広げ、適当にある地点を中心に半径一〇キロほどの円を描いてみよう。
そこは何てことない、普通の町だ。朝の通勤ラッシュに揉まれる女子高生。太陽の下で笑い声をあげる子供たち。仕事で草臥れて家に帰ってくるお父さん。本当に、普通の人々が普通に生きる場所だ。
しかし、その小さな円の中で、ここ数か月で五人の人間が機械に殺されていると知ったら、あなたはどう思うだろう。
機械は様々だ。ルン〇の愛称で愛された、あなたの自宅を掃除してくれる掃除ロボット。或いは家電量販店でよく見るホビーロボット。普段、工事現場で使われている車でも良い。
そいつらが、ある日、いつのまにか誰かを死に至らせていたのだ。
「ロボットが人を殺せるはずがない」
誰かが言った。誰でもそう思う。
なぜならロボットたちはそのように出来ていないからだ。
殺す以前に、人を傷つけられないよう、彼らは設定されている。自ら思考できる人工知能はあっても、出来ないのだ。そういう風に彼らは作られている。
だが、捜査当局がこれを「殺人事件」とは見なさず、事故と判断したらどうなるだろう。
機械を調べても、現場を捜査しても、何も出てこない。
あるのは、現場に転がる遺体とその傍でじっと停止したままのロボットだけだ。遺体の検視結果と現場の鑑識結果を見れば、事故と判断できる要素がいくつもある。目撃者も居る。
ただの事故だろう。警察はそう片付ける。何故なら、事故にしか見えない。
だが、また同じような事件が起きたら? 本当は事故じゃなくて殺人事件だったとしたら?
ロボットが、自らの意思で、事故に見せかけて、人を殺していたとしたら?
もしくは――どんな機械さえも人知れず操れる殺人犯が居たとしたら?
2XXX年、春。東京都の、とある公園で、とある遺体が見つかった。
遺体が見つかったのは早朝6時半。第一発見者は通勤途中だったサラリーマンと一人の女子高生。
遺体は男性。おそらく二十代前半。
遺体は一見普通に眠っているように見えた。ベンチの横で、地べたに座り込む姿は初め酔っ払いと勘違いされていたようだ。
しかし、男を起こそうとしたサラリーマンは漂う異臭に異常性を感じ、すぐに気がついた。
空を仰ぐように上を向く男の口の中が、可笑しいことに。
足りない。大事なものが足りない。
一瞬で血の気が引いたサラリーマンと女子高生。二人は危うくパニックに陥りそうだった。いや、実際に恐慌を来すところだったのだという――ある、声が聞こえなければ。
『味覚が、欲しかっただけなの』
幻聴だと思った。いや、幻聴に違いない。
小さな手には有り余る真っ赤な舌を持ったホビーロボットを前に、二人はそう思った。
――さて、ここでもう一つ事実を綴っておこう。
「円を適当に描いてみよう」と最初にあったが、あなたは何処に円を描いただろうか。いや、どこでもいい。どこでも構わない。
何故なら、このタイプの《事故》は――地図のどこに円を描いても、最低5件は、その円内で起きているのだから。
では、ここでもう一つ質問だ。
――何故だと思う?
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