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「もしかして大学で一番可愛い女の子、とかですか?」

「一番可愛い・・・」

 そう言ってぐいん、と首を傾げる。「そうでもないですけど」

 そうでもないんだ。

「多分、学内には可愛い子がもっといるとは思うんですけど、俺にとってはその子が」

 その子が? え、えっ? その子があんだって?

「ちょっとマスター、顔、顔」

「ふふふ、あまりにも綾瀬君が可愛くて」

 そう返すと、ボッと耳まで赤くなった。スラスラとそんなことが言えるなんて、心からそう思っているからなんだろうな。

「彼女には恋人はいるんですか?」

「さぁ、分かりません。指輪は付けていませんでしたけれど」

 ちゃんとチェックしとんのかーい。

「年上ですか?」

「いや、確か一つ下とかそんな感じの。その子は学生じゃなくて、事務員さんなんですけど」

 はぁん、なるほどなるほど。

「どうしたら距離がつめられるかなぁって」

 ただの学生と事務員の距離感からもっと近づく方法ね。これは勉強が大好きな大学院生の綾瀬君にも解けない方程式なわけね。

「丁度いいものがありますよ」

「いいもの?」

「お花見のデートに誘いましょう」

「で、でーとっ!?」

「大学内にも沢山桜は咲いているでしょう? どうにか理由を付けて、二人で桜を見ながらお話しするなんてどうでしょう?」

「えっえっ、でも」

 急にキョドリ出す綾瀬君。ごめん、ちょっと楽しい。

「そんな、恥ずかしい」

「何を恥ずかしがっているんですか。そうでもしないと距離は縮まりませんよ?」

「だって何を話せばいいか」

 何をって、そんなのなんでもあるでしょうよ。天気とか桜の話題から「桜餅っておいしいですよね」とかなんかそんな感じの。

「そうそう、今日は今年最後のブルームーンですよ。昨日満月見ました? とか話せばいいんですよ」

 特別な話題なんていらない。必要なのは一つの勇気だけだから。

「・・・勉強になります」

「恐れ入ります」

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