マドンナ・ブルー・ムーン

カゲトモ

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「はぁぁ」

 ほどほどに夜が更けて来た頃少なくはない客入りのなか、若い男の子がため息を吐いてカウンターに突っ伏した。どうしたって言うんだ、今日は土曜日だぞ? 何をそんなに嘆いているんだい。外の月も桜も綺麗だって言うのに。

「どうしました? もしかして留年ですか?」

「なっしませんっしてませんっ、ちゃんと上にあがれましたっ」

 答えると同時にバッと顔を上げた。突っ伏していたオデコが赤くなっている。

「それはそれはおめでとうございます。しかし、大学院って一体何年生まであるんですか? 私は行った事がないので分からなくて」

「うーん、何年生って言うか。俺の場合、上手く行けばあと二年って感じで」

 ふんふん、なるほど。

「まだお勉強しなければいけないと言うことですね」

「ざっくり言うとそうですね」

 良く分かんないけど、まだ大学へ通って勉強するってことだよな。俺にはとてもじゃないが出来ないけど、綾瀬君はその勉強がとても好きなのだろう。なんて、我ながらアホなまとめ方。

「悩み事はその大学院の事ですか?」

「え、あぁ、まぁ。近いと言っちゃ近いですけど」

 ロックグラスの氷をくるくる回して綾瀬君は小首を傾げる。それから少し言いづらそうにしつつも、聞いて欲しそうにして小さく口を開いた。

「実は・・・好きな女の子がいて」

「え」

「えってなんですか、えって」

 いや、ごめんて。まさか女の子とのことを言ってくるとは思わなかったから。しかもそんなに純情そうに。

「いえ、綾瀬君は格好いいから彼女が居るものだとばかり思っていて」

「俺全然モテないですよっ」

「冗談を」

「冗談なんかじゃありませんっ。本当にモテないんですっ」

 ぐぎぎぎぎっと眉根を寄せて悔し気にカウンターを叩く素振りを見せる彼は、男の俺から見ても普通にイケメンなわけで。目鼻立ちもスッとしていて男らしさの中に優しさがある感じだし、髪形だって服装だって今どきの若者って感じだし、身に着けているアクセサリーとか香水とかもセンスの良さを感じるし、なんたってちゃんとおしゃれしてるじゃん。いや、大学院生がみんなちゃんとおしゃれしてないって思っている訳じゃないけどさ。普通の、ごく普通のモテるタイプの人種だと思うじゃん。

「全然見向きもされないんですから」

「嘘でしょう? 本当に? お相手はどんな方なんですか?」

「急にグイグイ来る」

 いやいやだって。こんなイケメンがモテないとか気になるじゃん。凄く綾瀬君いい子なのに。優しいし勉強できるし。

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