闇の救世主 3
「やはり経験に敵う物は、ないよ。俺とお前じゃ、天地の差。月とスッポンだ」
次の瞬間、轟音と共に扉がはじけ飛んだ。
「何だ?」
救世主が部屋の方を向く。隙を見て俺も立ち上がる。
「メリーさんが言っていた通りだ。ここにいたか、ふぅ」
それは地下室からゆっくりと出てきた。俺が前に目にしたヤツとは別個体なのか、頭が4つ。胴体は蛇のように長く、所々に手足が生えてまるでムカデのようだ。
「異形なるもの…」
シボウシャが俺の言うことを聞くなんて思ってはいない。だが、俺を襲わないことはわかっている。俺はもう子供じゃないからな。
「だが、救世主さんよ。お前はどうだ? まだ4年しか生きてないんだろう? 見た目は俺と同じでも、歳で言えばまだ立派な幼稚園児だぜ?」
「貴様、何を言っている? 状況が理解できていないのか?」
「それは俺の台詞だ」
俺には確信がある。何故ならシボウシャ、俺とは目を合わせようとしない。四つも頭があるのに俺の方を向いてる顔は1つもない。全て、救世主に照準を合わせている。
「ミ…ツ…ケ…タ…」
シボウシャがそう呟くと、救世主に向かって突進する。
「デイヤァー!」
救世主の手刀がシボウシャの頭を1つ、スパッと切り落とした。だがシボウシャは全く堪えていない。残った3つの頭で救世主に噛み付くと、体と手足を使って救世主を絡めとった。
「ク…ウ…ゾ…」
「やめろぅー!」
シボウシャはそのまま、地下室に戻った。俺は階段を素早く駆け上がった。地下室のプールにシボウシャがダイブする音が聞こえ、少量のホルマリンが扉の外にも飛び散った。
全ては一瞬だった。俺は地下から上がって病院から出た。玄関の前にはヘリコプターが降りており、メンインブラックもいた。
「我々の救世主…いや、本物となった骨谷龍堵が戻って来たぞ!」
「やはり我がクローンは完璧だったようだな」
「良し。計画を実行に移すぞ。ディレクターにそう伝えろ!」
どうやら3人とも、勘違いしているようだな。
「メンインブラック…。俺は正真正銘の骨谷龍堵だ。クローンは死んだ。随分とあっけなかったよ」
俺が言っても信用されるのか…。そういう疑問もわからなくはない。だがどうやらクローンとは少し喋り方か違うのか、すぐにバレた。
「そんな馬鹿な? クローンに敵う人間など存在するはずが?」
「人間じゃなくても…。クローンに勝つんならいくらだって方法はあるからな。だから言っただろう? 生物の価値は、経験だってな!」
俺が言い放つと、3人とも地団太を踏んだ。
「こんなこと、あってはならない!」
メンインブラックが懐に手を突っ込む。この期に及んで記憶を消すだけか? 取り出したのは拳銃だった。
これは厄介だ…。とか言ってる暇はない! こっちは何時間も歩いて、さっきまで心臓バクンバクンだったし…。これ以上戦うのは正直言って絶望的だ…。
何か、ここで使える都市伝説はないのか…?
その時だ。
「待たれよ! それ以上の横暴は許さぬ!」
俺の目の前に、2人の人がどこからとなく現れた。
「おお、いつぞやの現代忍者!」
現代忍者とメンインブラックの対決。しかし、拳銃よりも強力な忍術がなければ負けてしまうのでは?
「どうする気なんだ?」
「心配無用! こんな輩に面と向かっての戦い…正々堂々など必要あらぬ!」
現代忍者は懐から2つの球体を取り出した。
「撤退忍術…閃煙弾!」
片方を地面に投げつけた。すると眩しい光を放つ。どうやら閃光弾のようだ。だが光った後、大量の白煙を上げる。閃光弾と煙玉の融合体か。これならサングラスをかけているメンインブラックにも効果がある。
現代忍者は空いた手で俺の腕を掴んだ。そして残った一方の球体を、ピンを外してヘリコプターに向かって投げた。
「攻撃忍術…爆裂四散!」
こっちはただの手榴弾なのか…。俺は現代忍者に連れ出されてその場を後にしたためよくわからないが、数秒後に大爆発の音が聞こえた。
気がつくと、山寺に戻っていた。階段にはホムラがちょこんと座っていた。
「任務完了! 我らは修行に戻る」
現代忍者はそう言うと、また勢いよく階段を駆け登っていく。
「…ホムラが頼んだのか?」
「違うわよ」
ホムラは後ろを向いて、
「この人が、ここに来いって呼んだの」
ホムラの後ろから、男が降りて来た。
「伯爵じゃないか、久しぶり」
「いかにも。また、無茶をやらかしたようだな? まあそれにしても今回は、半分以上は奴らに非があるが…」
「おかげで助かったぜ!」
俺は伯爵と握手した。
「何々? どういうこと?」
事態を全然理解できていないホムラに、俺は解説を入れた。
「…というワケで、奴らの陰謀は防いだ。HCPなる計画は、オジャンだぜ!」
俺は経緯を把握したホムラとハイタッチした。
「しかしだな」
伯爵が眉間にしわを寄せて、言う。
「奴らの1人が、これで終わりではない、と。終わりは来ないとも言っていたぞ?」
「まあ、いいさ。好きにさせておけよ」
俺はそう返した。
都市伝説は好き勝手語られる。俺に奴らを止める権利はない。逆に俺が止めなければいけない義務もない。
これは噂程度の話でしかない。だが、信じる人がいるからこそ、都市伝説は語り継がれる。
明日には、町中の人が知っているかもしれない。それが都市伝説というものだ。
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