人食鬼の子孫
こんばんは。私、
私のお祖父さんがイギリス人なので、よくイギリスに行くの。
6年前お祖父さんの隣に、家族が引っ越してきた。すぐにお祖父さんと家族ぐるみで付き合い始めた。だからそこの1人息子が私と同い年でよく話をしてくれたんだけど、ある一点については全く話してくれなかった。
「私のお祖母ちゃんは、日本人なんだよ。シドの両親は2人ともスコットランド人?」
「木通ちゃん、そんな事より家の愛犬を見てよ。このボール、どんなに遠くに投げても必ず拾ってきてくれるんだぜ?」
こんな感じで、全然違う話題に持って行かれてしまう。
でもお祖父さんなら何か知ってるんじゃないかと思って、小学校を卒業した後、春休みにイギリスに行く前に電話で聞いてみた。
「木通が気になるのなら…。そう言えばワシも耳にしたことがないな…」
お祖父さんが、私が来る前に質問してくれるって約束をしてくれた。
…のはいいのだけど、仙台空港からいざ飛び立つ前日に電話しても、出てくれない。いつもは必ず出てくれるのに。
飛行機の中でも気になっていた。1番気になったのは「お祖父さんに連絡が繋がらない」にも関わらず「シドの家族から失踪したとかいう話を聞いてない」こと。
イギリスについて、真っ先にお祖父さんの家に向かった。
玄関に鍵は、かかってなかった。でも中が荒らされた形跡はない。夜に食べようとしていたシチューの鍋が、そのままコンロの上に置いてあったぐらい。でもお祖父さんだけがいなかった。
私は隣のシドの家に足を運んだ。今日、引っ越す予定らしく、荷物をトラックに運んでいた。
「シド? 私のお祖父さんを知らない?」
シドは深刻な顔をしていた。でもそれは、引っ越したくないからという感じではなかった。
「木通。僕たち家族の秘密を教えるよ」
シドは彼の両親の目が届かず、かつ私の家族がすぐに駆けつけることのできる場所に移動すると、ついにその重い口を開いた。
「カニバリズムって知ってる?」
そんな言葉は初めて聞いた。
「何なのソレ?」
「知らないのか…。まあいいや。始めよう」
シドは自分の先祖について、話してくれた。
「僕の先祖の話は親から聞いたことがあるんだけど、実在したかどうかは僕もよくわからない。いや、存在して欲しくない」
「ねえちょっと、どういう意味?」
彼によれば、してはいけないタブーを犯した相当な犯罪者らしい。
「顔も見たことない先祖のことを気にする必要が、どこにあるの? しかもそれは500年ぐらい前の話でしょ?」
「僕には、その先祖と同じ血が流れているんだ!」
シドは叫んだ。
「…ごめん、木通。確かに大昔のことだ。普通なら、気にする方がおかしいよね」
シドはそう言って軽く笑ったが、瞳は笑ってなかった。それぐらい深刻なようだ。
「この1週間で、僕は思い知らされたよ。自分もアイツの子孫なんだって。血筋には逆らえないんだって」
シドがそう言うと、黙った。何を言えばいいかわからないので、私も黙った。
少し経つと、シドの方が切り出した。
「もう、やめよう。木通の白い肌を見ていると、自然と唾が出てきてしまう」
シドが自分の家に戻った。
その午後、トラックは出発した。シドも両親と共に車に乗って、引っ越してしまった。
カニバリズムとは、人の肉を食べること。人肉なんて販売されてないから、当然犯罪行為。大丈夫だと思うけど、やっちゃ駄目だよ?
さて、シドの先祖と思われるのは、ソニー・ビーン。15世紀から16世紀に、存在したと思われている人物。どうして断定できないかというと、彼の一族が文献に登場したのが19世紀になってからだから。このズレは、事件発覚当初、スコットランド王朝があまりにも残虐だったために全ての記録を抹消して存在を封印しようとしたから生じたらしい。
彼の起こした事件を簡単に説明すると、自分たちの生活のために人を殺してその肉を25年間食べ続け、1000人以上と言われる大量の犠牲者を出した、というもの。
些細なミスで悪事は発覚し、彼ら一族は捕まると裁判すら行われずに全員が即刻極刑に処されることとなった。一族にはまだ小さい子供もいたけど、同情する人は誰もいなかった。何故ならその子供、家族以外の人は殺して当たり前、他人は食料としか思ってなく、教育も受けていなかったので言葉すら話せない。これでは、人の形をした化け物って思われても仕方がない。どうして自分が処刑されるのか、死んでもわからなかったと言われてる。
ソニーは「自分たち一族は48人いる」と言ったらしいけど、処刑されたのは46人。この足りない2人については病気か何かで死んだと思われたが、ソニーの最後の台詞は、「これで終わりだと思うなよ。終わりなんて来ないんだからな」だ。
この一族の血は、地球上から消えたことにはなっている。でも、もし、足りない2人が生き残っていたら…。今もどこかで誰かを食べているかもしれないね。
私のお祖父さんがどこにいるか…。予想はできるけど、あまり考えたくないね。そしてシドたちがどこに行ったのかは、きっと誰も知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます