夢の国レポート

 吸血電車が止まって、社長タクシーも乗り越えて次の日、やっと某夢の国に到着した。

 ここは、心が子供になる場所だな。俺はアトラクションに乗った。童心に帰ったホムラもこの笑顔。1日目は陸、2日目は海。思う存分満喫したよそれは。

 本番は、3日目と4日目だ。その2日間はアトラクションには乗らず、調査に徹したぞ。

 まずは調査中の出来事を述べよう。

「やっぱりここは綺麗ね」

 夢の国では、カラスや蚊を見かけない。この理由としてよく言われるのが、カラスたちが嫌う波長の音を流し続けているからという説。そして小さな子供は聞こえることがあるらしい。

「カップルで行くと別れるって噂だけど、私たち大丈夫かな?」

「大丈夫だろ? カップルじゃないから」

「…」

 夢の国では従業員をキャストと表現するが、そのキャストが可愛くて彼氏が見惚れしてしまうんだとか。また待ち時間が夢ぶち壊しのごとく長いが、そのおかげで会話が続かなくなって気まずくなりやすい。パレードを見るか、アトラクションに乗るかで意見が分かれてしまうのも一因になっているか。

「どうやれば地下の巨大カジノに入れるんだ?」

「あなたの地位じゃ一生招かれないんじゃない?」

「…」

 地下には限られた人しか入ることができない秘密のカジノがあるらしい。しかしただの大学生の俺には、入る権利などなかった。秘密の入り口も発見できず。

 気を取り直して、スペースマウンテンに行こう。俺たちが列に並んでいると、

「あの子、迷子じゃない?」

 ホムラの視線の先には、幼い女の子が1人。キョロキョロしており、どうやら親とはぐれたようだ。

「…アレを見ろ」

 まるでその女の子を監視するかの如く、3人組の男がいる。いきなり近づかず、そして離れたりもせず、常に一定の距離を保っている。

「仕方ない。スペースマウンテンの中身については後だ。今はあの子をキャストに届けよう」

 俺たちが列を外れて女の子に歩み寄ると、それに気がついた3人組が、

「やっと見つけた。ユミちゃん、こっちこっち」

 発音が日本人のそれではなく、女の子も名前を呼ばれても振り向こうともしなかったので、一発で演技とわかった。

「お前たちの家族じゃないだろ?」

「何言いてるんですか? 私はれきとした知人ですよ?」

「はあ? この子、俺たちの子供なんですけど?」

 そう言うと、3人組は即座に諦めて逃げるように足早にその場から去った。

「さて。本物の家族はキャストに探してもらおう」

 ホムラが近くのキャストを呼んだ。これで一件落着だ。


 世界中に存在する夢の国。今や地球は、夢で溢れていると言っても過言ではない。

 そうなると必然的に、色々な噂がささやかれる。

 行ける人は是非とも足を運んで欲しいのだが、夢の国って確かに、カラスがいないよな? 蚊も見かけないし。

 でもこれには理由がある。生物が嫌う波長を出すんじゃなくて、ね。

 夢の国程規模が大きいと、ゴミも大量に出てしまう。それに対処するために、キャストが常に園内を清掃して回るんだ。よく地面にアート描いてる人もいるだろう? そんな事ができるぐらいには、清潔を保ってるんだぜ。

 餌がなければカラスも来ない。ついでだが、蚊がいないのは水溜りがないから、もしくはできたとしてもすぐに除去されるからだろうな。蚊の幼虫はボウフラで、短くても10日間ほどは水の中で生活する。言い換えれば、その間ボウフラの住む水溜りが存在していなければならない。幼虫期を過ごせないんじゃ、夢の国に蚊がいることはないな。

 カップルの話は割愛するぞ? これについては全国各地の遊園地にもあてはまるからな。何も夢の国特有の都市伝説ではないのだ。

 地下の巨大カジノは「クラブ33」という名前らしい。超有名人なら、招待状がもらえるとか…?

 どうやら実在するようだ。でも、一般人が入れる場所ではない。そしてレストランであって、カジノではない(そもそも日本ではカジノは違法だ)。スポンサーに対する接待用だとさ。やはり金持ちにならない限りは、入れんな。今度ランドウに頼んでみよう。一応地下には、業務用通路があるが、その程度だ。

 スペースマウンテンには、お札が大量に貼られているらしい。何でも死人が出たから供養のため…。確かに死亡事故は2件、開業当初に起きてはいる。でも、お札は一枚も存在しない。俺たちの楽しい悲鳴が、一番の供養になってるんだろうぜ。

 俺とホムラが未然に防いだ、子供の誘拐。本当に危ないところだった。もし誘拐されようものなら、臓器売買のために殺されていたからね。

 実はこの手の話も、夢の国が開園する以前にもあった。というか日本の夢の国に絞れば、米の国からそのままやってきちゃったことらしい。そんなものまで輸入するなよ!

 なお、実在するかどうかは別として、夢の国では不審者は入園から退園まで監視対象。セキュリティオフィサーが見張ってるんだって。どうやったって、誘拐できません。

 これについてホムラが「夢の国とグルになって実行すれば…」みたいな新説唱えてたけど、そんな事をするメリットは夢の国にはないし、発覚したら最後、悪夢の国になってしまう。ブランドイメージを大切にする夢の国にとってそれは、廃業直行の致命傷。うん、やっぱりないわな。

 世界に誇る夢の国。変な噂話を大人が流すようなことはしないで、子供の夢ぐらい守ってやろうぜ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る