運転手は元社長?
都市伝説調査の時に電車が止まったから、タクシーで移動することになった。
「どこも混んでるな…。これが東京か。まるで違う国に来たようだぜ…」
「あなたが田舎者のだけ」
仙台よりも人口は多いはずだ。この井の中の蛙ホムラ、偉そうにしやがって…。
都会のタクシーは素人が多くて危険って聞くが、土地勘もないところで目的地にたどり着こうとする方が無謀だ。俺たちはタクシーを拾った。
「お!」
俺はこの時、ラッキーだと思った。運転手は50代くらい。若手よりもきっと道を知っているはずだ。
俺が先に、そしてホムラが乗り込むのを運転手が見届けると、
「ったく、若いのにタクシーなんか乗りやがって…」
小声だったが、そう言うのが聞こえた。ホムラは聞いてなかったようなので、俺も知らんふりをした。
「で、どこまで?」
「え~と、市原ホテルっていう…」
「あんな所かよ。全く…」
俺は運転手の言葉に苛立ちを感じた。ホムラの方を見ると、不愉快そうだった。
タクシーが走り出した。運転はかなり荒々しく、体が揺れまくった。
赤信号を平気で無視しようとした時、流石のホムラも我慢できなかったのか、
「ちょっと! ちゃんと止ま…!」
次の瞬間、急ブレーキ。シートベルトしてて本当に良かったと感じたぞ…。
「うるせえなあ! 早く着きたいだろう? 少しぐらい我慢しろよ!」
運転手の口調は強い。ホムラは黙った。
だが俺も不快だったので、もうしばらく走った後、
「もういいです…。ここで降ろして下さい」
また急ブレーキだ。そして金を払おうとした時、すごい気持ち悪い顔で、
「よく見るとお嬢ちゃん、美人だね。割り引くから君だけ、もうちょっと長く乗ってかない?」
コイツ…。自分の立場わかってるのか? 俺がホムラを譲るワケないだろうお前に!
「駄目に決まってるだろ!」
俺が小銭を投げつけて叫ぶと、
「ぜ~ったいにお断り!」
ホムラも同じ意見だった。
タクシーの運転手は、千差万別だ。無口な人もいれば馴れ馴れしい人もいる。
一番気に食わないのは、偉そうな運転手。高圧的、乱暴な運転、スケベ丸出しの台詞…。お客が離れることを想定していないんじゃないのか?
何でそんな態度なのか。これにはちゃんとした理由がある。
それは「タクシー運転手の一割は元社長」ということ。
詳しく説明しよう。
タクシー運転手になるには、免許がいる。普通第二種免許っていうもの。これはお金をもらってお客を乗せて走る時に必要な資格だ。
逆に言えば、それ以外には特に必要なものはない。だからタクシー運転手は、経験も経歴も問われない。
だから事業に失敗し、一文無しになってしまった元社長は、家庭や借金のために仕方なくタクシーを走らせてるのだ。俺たちみたいな若者が利用しようものなら、そりゃあ腹が立つわけよ。
元社長っていうのも原因だな。命令する立場だったから、偉そうになる。命令を受ける立場じゃなかったから、命令されると苛立つ。そんな性格だから会社、倒産したんじゃないのか…?
統計的に見ると全体のタクシー運転手の1割だけであって、全員がそうではない。だから偏見はできるだけ持たないでタクシーに乗って欲しい。
それでも運転手の態度が悪かったら、間違いなく元社長だろうね。運がいいのか、悪いのか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます