超古代文明

 大学の卒業式を終えて、ちょっとした旅行に出かけた時のこと。旅先の旅館近くでは遺跡の発掘作業をしていた。俺と恋人気取りのホムラは見学に行った。

「ああやって、土を掘っては土器がないか確認してるんだぜ。ちょっと大変そうだな」

 小さなスコップみたいな道具を使い、しゃがんでひたすら薄く土を掘る。ショベルカーでも導入すればいいのに…。

「恐竜の化石とか、出てこないかな?」

「可能性は、なくはないんだろうけどな。期待しない方が…」

 いいぞ、と言おうとした時だ。奥の方から声が上がった。

 俺たちも行ってみることにし…ない! 俺はホムラだけ行かせ、遠くでその光景を見守ることにした。

 何やら偉そうな博士っぽい人が写真を撮って発掘物に近づいた。その人が説明しているのか、他のみんなは誰も動かない。声が大きくないし距離も離れてるので、何を言っているのか俺にもわからないから安心してくれ。

 やがて、大慌てでホムラが帰って来た。

「聞いて聞いてよ! 歴史を覆すかもしれない発見だって! 龍堵も世紀の瞬間に立ち会おうよ!」

「…」

 俺はホムラの腕を引っ張って、強引に旅館に連れ戻した。

 部屋に戻ると、ホムラは泣いている。

「酷いじゃない! どうしてくれるの?」

 俺は部屋のカーテンをほんの少しだけ開けて、ホムラに外を見せた。

「そういう類の話の時、やっぱり現れると思ったぜ…。帰って来て正解だったな」

 黒いベンツが作業場近くで止まると、黒いサングラスに黒いスーツに黒いネクタイの男が3人、降りて来た。

「あれ…!」

 3人の内、リーダー格と思われるヤツが、胸ポケットから銀色の棒を取り出した。

「目を離せ!」

 遅かった。ホムラはその光を見てしまったようだ。

「おいホムラ! 発掘現場で何を見たんだ?」

 ホムラは答えた。

「そんなところに私、いつ行ったっけ?」


 俺が訪れた場所は悪いんだが、明かせない。発掘調査は全国各地で行われているから、各自で探してみてくれ。

しっかし、まさかこんなこともメンインブラックの管轄だとは思わなかったよ。

 超古代文明…。何と怪しく響く言葉だろうか? 

 世界四大文明ってあるだろう? メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明に黄河文明だ。メソアメリカ文明とアンデス文明も加えて、世界六大文明と解釈する学者もいるらしい。人類の文明は、全てそこから派生したって言われてるんだ。

 でも全部忘れてくれて大丈夫。エミリによると、欧米ではそんな考え方、しないんだと。

 理由は簡単で、同じような条件を満たす地域が世界各地で発見されているから。日本でもあるよ。本州は最北端、青森県の三内丸山遺跡。これを縄文文明としようという謎い動きがあるとかないとか…。

 でも俺たちが行ったのは青森県じゃない。別の県だ。

 そこで実際に何が発見されたかは、もうわからない。ホムラの記憶は、消されちまったからよ。だが人類の歴史を覆すって、どんなものだろう? 

 その時代に存在してはいけないものだろうな。オーパーツとか、そんな感じだろう。でも、何でそんなものがそこにあったんだ?

 ここで満を持して登場するのが、超古代文明。今よりも進んだ技術を持ちながら核戦争で滅んだとされる文明だ。それが日本にもあったと言えば、説明できる。

 はっきり言って、たとえ存在したとしても確かめようがないんだよコレ。まあ、だからこそ都市伝説なんだが。

 人類の誕生は500万年前。地球史で見るとつい最近だ。そして今や、そこからはるか昔の恐竜の化石の時代も、炭素年代測定でわかる時代なのに、どうして確かめられない? そんな疑問にお答えしよう。

 世界最古の建造物って何だ? 答えはエジプトのピラミッド。今から4500年前に建てられた。それ以前の時代の建物は、地球上にはない。

 とても勘の良い人ならここでわかるかもしれない。

 実を言うと、文明の痕跡って、人類滅亡後1000年程度で消え去ってしまう。ピラミッドなんて残ってるのが珍しい方だ。

 つまりは仮に超古代文明が存在したとしても、そこに生きる人がいなくなってしまったらたった1000年でその痕跡が消える。

 それでは確かめようがないってことだ。普通なら、な? 

 人類が滅亡してもその存在が残る物が、あるのかもしれないよ。それはきっと、今よりも科学技術が発達してないと作れない。

 だからこそ、あそこで発見されたものは相当ヤバかったんだろうね。日本にも超古代文明が存在したってことになるから。

 もしその存在が確定したのなら、世界中の教科書を書き換える必要があるぜ。俺たちの時代は、人類の2回目の繁栄って感じにな。

 そうさせないためにメンインブラックが出てきたんだろうに。超古代文明の技術や知識も、彼奴等が独占したいようだ。なんて貪欲なんだ!

 俺たちの生きた痕跡も、人類滅亡後1000年でなくなっちまう。次に繁栄する人類は、俺たちの存在すら認知できないんだ。ちょっと悲しいよな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る