クローン人間

 大学1年のゴールデンウィークにそれは起きたらしい。

「龍堵君、私のことそんなに想ってくれてたなんて…」

 男癖の悪さに定評のあるホムラが、休み明けに俺に言った。

「何のことだ?」

「私のためなら魂捧げるって言ってくれたじゃない? 私、感動したわ!」

「…?」

 今ホムラの頭には、理想の男性像的な何かが浮かんでんだろうけど、俺の頭の中にはクエスチョンマークしか浮かばないのだが。

「この大型連休中、俺はお前に会ってないぞ?」

「何言ってるの? 一緒に仙山線乗って仙台に行ったじゃない?」

 何々、別れて一か月足らずでもう復縁したの俺?

 ホムラによると、ゴールデンウィークの初日に俺が、ホムラの実家に一緒に行ったらしい。

 俺はこのゴールデンウィーク、駅前のファーストフード店で連日バイト。仙台に行けるはずない。

「じゃあ証拠、見せてあげる」

 驚いたことにホムラのスマートフォンには、俺とのツーショットが入っていた。

「そんな馬鹿な!」

 開いた口が塞がらないとはこのことか。

 俺は混乱した。写真に写っているのは、服装こそ違うがどう見ても俺。

「…俺にも証拠がある! 駅前の店に行こう」

 俺とホムラは大学を出て、駅前のファーストフード店を目指した。

 今日はバイトのシフトが入ってないので、普通に入り口から入った。

 俺の目に飛び込んできたのは、黒い服装の二人組の男。

「骨谷龍堵に…アサクラホムラだな?」

 俺にはすぐに正体がわかったが、ホムラは首を傾げている。

「…スマホの写真を削除しろ」

 俺は小声でホムラに耳打ちした。

「え?」

「早く!」

 急かすとホムラは、素直に写真を削除した。

「それでいい」

 男はそう言うと、千円札をテーブルに置いて、

「せっかくだ。ランチセットを頼むとよい。ちょうどハンバーガーもついてくる」

 と言い残して去った。

 俺とホムラは席に着いてランチセットを頼み、これまでの経緯を整理した。

「これは…ドッペルゲンガーか?」

 俺が言うとホムラは、

「いえ。ドッペルゲンガーは会話ができない。それに龍堵は仙台とは何も関係ないじゃない? 特徴が当てはまらないわ」

 だとすると…。俺の中にあることが浮かんだ。

「クローン…?」

 見知らぬ所で俺のクローンが作られており、それがホムラに会った…。

「龍堵のクローンとさっきの男たちの関係は何?」

 それはきっと、極秘技術の隠ぺいじゃないだろうか…。


 クローン羊のドリーを知っているだろうか? 人間は1996年の時点で、人工的に生物を作り出すことに成功しているのだ。

 けれどもそこには倫理や医学、宗教の問題がある。故に人間のクローンの製作は、世界中で禁じられている。

 技術的にも難しいのか、人間やサルを括る霊長類では、発生段階で死に至るらしい。

 だがメンインブラックの連中にならもしかして…。奴ら、宇宙人の超未来的技術を持ってるんだろう? 作れるかもしれないし、そこには倫理や宗教なんて存在しないのかもしれない。

 だとしたら、既にクローン人間が誕生していてもおかしくはないな。そして偶然俺のクローンが逃げ出した。それに会ったホムラと話を聞いた俺の口封じをメンインブラックが行った。十分に納得できる。奴らはいつどこで、俺の遺伝情報を入手したのか? それはわからないが、もしかしたら生まれた時点で採取されているのかもしれない。

 1つ疑問に思うのが、俺のクローンは偶然逃げたのか? それとも何かの実験のため、ワザと解き放たれたのか?

 とにかく謎が多いクローン人間。俺は暇を見つけては探し回ったが、一度も出会わなかった。

 もしかしたら、もう既に色々と手遅れなのかもしれない。

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