疑惑のアポロ

 これは……俺が同期とよく揉める話だ。

「アポロは月に行ってないわ!」

「いやいや、行ったって!」

 会話の相手は、麻倉あさくらホムラ。俺と同じくその道に精通する人間だが、俺はこの女が大っ嫌いだ。

「アポロ11号のコンピュータはファミコン以下よ? ファミコンよ? 星のカービィカラーデラックスすらプレイできないコンピュータで月に行こうっていうなら、もれなく天国に着くわ!」

 ヒートアップするホムラ。

「月にはアメリカの星条旗がある。それがアポロが月に行った証拠だ」

「でもその旗、宇宙空間で何でなびいてるの? おかしいじゃない!」

「それはお前が物理について知らないだけだろう! 同じ物理学科として恥ずかしい!」

 こうなりゃ俺もヒートアップだ。

 ホムラ曰く、

「月に行ったのなら、アポロ計画が打ち切られるのはおかしいわ」

「宇宙飛行士の動きを倍速にすると、地球上での動きとほとんど変わらないわよ。録画映像の速さを半分に落としただけじゃないの?」

「月の石の成分は、地球のそれとさほど変わらないって東大から報告が上がってるわ。その辺で拾って来たんだわ!」

「データや資料が忘れたころにやって来るのは、隠ぺい工作の証拠よ!」

 さて、どこから否定していこうか。


 俺も都市伝説に関わる者として、陰謀説も話から外すことはできないと思っている。だが、明らかに嘘である物は否定しよう。

 まず、アポロ11号の性能について。確かにアポロ11号に搭載されたコンピュータの性能は、ファミコン以下だ。しかしこれには何も問題はない。

 アポロ11号は、宇宙空間で進路を計算して進むのではない。予め地上で計算された軌道に沿って飛行していただけだ。だから搭載されているコンピュータは、その計算結果に従って軌道を補正するだけでよく、高度な性能は求められていない。事実、軌道補正に特化しているのであれば、もっと性能が低くても何も問題ない。

 ちなみに豆知識。現在でも、宇宙船のコンピュータは、その時代の最新鋭のコンピュータよりも性能が劣る。これは信頼性の問題で、予想外のトラブルが起きるのを少しでも防ぐためだ。

 だからファミコン以下でも天国には行かないのだ。

 月には星条旗があり、確かになびいているように見える。…というか実際に当時はなびいていた。ホムラが言ったように宇宙空間=真空で、物は運動を始めると中々止まらない。理由はそれだけだ。

 アポロ計画は打ち切られてはいる。しかしこれは月に行ったからではないだろうかと俺は思う。アポロ計画には膨大な予算がつぎ込まれたが、それに見合った成果が上げられなければ、計画は中止になるのは当たり前だ。

 じゃあ何でアポロ計画にお金が使えたかっていうと、当時はソ連と宇宙開発戦争の真っ最中。だから湯水のごとく金が使えたってワケ。

 宇宙飛行士の動きを倍速にすると、地球での動きと変わらないのは、これも当然のことだ。月の重力は地球の6分の1ということは知っていると思う。故に地球と比べた時の物体の落下時間はその平方根の反比例で約2.44倍。倍速にして違和感がある方がおかしなくらいだ。ホムラの奴、ちゃんと大学に通ってたのか?

 あと、重力差もあってか、地球ではできないような動きもしているシーンもあるぞ。

 月の石の成分について、東大が発表したことはない。論文なんて探しても見つからないよそりゃあ。

 データや資料の開示が遅れるのは、単に人手が足りないって説が有力だ。他にもテープが何本か行方不明って聞くが、それも隠ぺい工作ではなく、管理がずさんなだけだ。

 都市伝説を語るなら、その先にある真実は知っておかないといけない。

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