メリーさんの電話
俺が初めて携帯を買い与えられたのは中1、2007年のことだった。もう十年前の話で、当時はガラケーなんて言葉はなく、みんな折り畳み式やスライド式の携帯だった。
手に入れて一週間、電話がかかってきた。知らない番号だったが、当時携帯をゲットしたばかりでウキウキしており、電話に出た。
「私、メリーさん。今駅前にいるの」
同級生と待ち合わせなんてしていないにも関わらず、というかそもそもメリーなんて知り合いいないのに、俺は遊ぶ気満々だった。
「迎えに行くよ」
俺がそう言うと、
「来ちゃダメ。待ってて」
電話主はそう言うので、俺は律儀に家で待つことにした。
二分もしないうちに、またかかってきた。
「私、メリーさん。今第二公園にいるの」
公園で遊ぶってのもいいな。
「ボール持って行くからサッカーしようぜ?」
「家で待っててって言ってるでしょ!」
何か、怒られた。
その後俺はトイレに行ったが、その間にかかってきたらしく、留守電にメッセージが残っていた。
「私、メリーさん。今もみじ公園にいるの。あなたは家にいてね」
ここでやっと恐怖心が俺を襲った。段々家に近づいてくることに気がついたのだ。
さらに着信が来る。出ようとすると母親が、
「あんまり携帯使いすぎるなよ。通信料が高かったら没収だから」
と釘を刺してきた。俺は迫りくる知らない何者かよりも、携帯が没収されることの方が怖くなった。
「私、メリーさん。今小荷駄町公園に…」
「逐一報告すんじゃねえ! お前のせいで携帯没収されたらタダじゃおかねえからな! 覚悟して家に来い!」
俺は怒鳴った。
すると今度は、一時間経っても電話がかかって来ない。俺は「悪霊退散」と自分で柄に掘った金づちを片手に電話をかけた。
「私、メリーさん。あなたはもう諦める…」
「来いっつってんだろボケナスゥ!」
数時間後、最後の電話がかかってくる。
「私、メリーさん。今あなたの家の前にいるの」
しかし俺は今まさに寝ようとしていた。
「悪いんだけど、明日にしてくんね?」
次の日。玄関に「地獄に堕ちてもげろボケナス」と書かれた紙が貼ってあったので、剥がして近所の寺に持って行った。
メリーさんの電話は都市伝説というより、怪談話に近い。
内容は俺が体験したのと同じだ。まず電話がかかってくる。最初は遠いところにいるのだが、段々と近づいてくる。そして最後に「今あなたの後ろにいるの」と電話がかかってくる。そして振り返ると…。超高確率で殺害される。
俺はこれについてちょっと疑問に思うのだが、わざわざ殺す必要ってあるのだろうか? しかも散々近づいてますよって、警告までして。本当は手にかけたくない、でも仕事でやらなければいけない、しかし逃げて欲しい…。これは行き過ぎた考察だろうか。
また電話を受ける側も、何か恨みでも買ったのだろうか? 語られる話の中には、捨てた人形がメリーさんで、復讐しに来るっていうのがあるんだけど、俺は女の子の人形なんて買った覚えはないぞ?
まあいづれにせよ、知らない番号の電話には出ないことだ。
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