壊れない車
俺の同期に
ある夜俺はランドウとドライブに行った。山の上から夜景を見ようって話だった。俺はその時免許を持ってなかったから、運転は全部ランドウが担当した。
「どうだ。すごいだろ!」
「何が?」
「車だよ車! これ、ロールスロイスなんだぜ?」
俺は車種については詳しくないのだが、高級車なんだそう。これだから金持ちのボンボンは…。
ロールスロイスに乗り込んで山間部を走る。大してきつくもない坂道でいきなり止まる。
「どうしたんだよ?」
「あれれれ? っかしいな…。アクセル踏んでも反応しない…?」
「エンストか?」
「いや…。エンジントラブルだと思う。ボンネットを開けようぜ」
車から降りてボンネットを開けた。
「あららら…。こりゃ駄目だ…」
ランドウはエンジンを一目見ただけでそう言った。どうやら修理不能レベルで壊れているらしい。運転はそんなに荒々しくなかったので、本当にエンジンに問題があるようだ。
「どうすんの? ソニー損保に電話?」
「いや。先に車の会社に文句を言ってやる!」
下山するのが最優先な気がしなくもないが…。ランドウは携帯で電話をかけた。ランドウが一通り文句を言い終ると、オペレーターが一言。
「保険会社に通報せず、そのままそこでお待ちください」
俺とランドウは、お互いに顔を合わせて一言。
「意味わっかんねえ!」
十分後、レッカー車が一台坂道を登って来た。後ろにはランドウと同じロールスロイス。
レッカー車のドライバーは、ランドウに本人確認を行うと、持って来たロールスロイスの鍵を渡した。そしてエンジントラブルを起こしたロールスロイスをレッカー車で運んで行った。
一瞬の早業。何が起きたか、理解するのに時間がかかった。
「ランドウお前…。何もこの場で新車買わんでもいいだろう?」
「いややや。俺、注文してねえよ?」
雲行きが怪しくなってきた。俺はランドウに、車の会社に電話させた。すると先ほどと同じオペレーターだったにも関わらず、車の故障については「そのような事実はございません」の一点張り。
しかし最後に、
「ロールスロイスは壊れません」
と言って電話が切れた。
この都市伝説、ちょっとバリエーションがあるようだ。
壊れた場所は砂漠だったり、運ぶ方法はヘリだったり。新車ではなくエンジニアが来てその場で修理したり…。
しかし全てに共通するのは、請求書の類が一切送られて来ないことと、故障をなかったことにすることだ。
俺は金持ちじゃないからわからないが、もしロールスロイスを持っていたら、是非とも実証してみて欲しい。ちょっと壊してみてくれないか?
場合によっては、「そのような事実はございません」と俺は言う。
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