鉄壁不敗!ドスケベミズギ!
しゃけ
0-1 絶滅の痴女
旧暦二四〇〇年。
人類は偉大だ。とこのころ一番言われていた。
魔法と科学をミックスさせた素晴らしい文明を作り上げたのが偉いっていうことらしい。
でも、ま、確かに文明は偉大だったにせよ、人間の中身が変わったわけではない。野蛮で暴力的で他人と分け合うということを知らず、奪うことばっかりを考えていた。
だから。ご覧のとおり空には大量のミサイルが飛び交っている。アレは『焔天使』と名付けられた『焔核兵器』。魔法科学の粋を尽くしたシロモノだ。灰色の空に舞う真っ赤なそれは何故かイヤに美しく、人々の胸に恐怖というよりは虚しさを去来させた。
――そんな中。
真っ黒なロープに全身を包んだ妖しい人物が歩いている。
場所はハコネシティー。かつては結構栄えた街らしいが、いまやただのゴーストタウンと化し、窓ガラスがバリバリに割れた無人ビルが立ち並ぶのみであった。
妖しい人物はおぼつかない足取りでフラフラと歩きながら、
「おゥーい! 誰かいねえのか!」
ガラガラに枯れたハスキーボイスで叫んだ。すると。
「なんだ。ホントにいるとは思わなかった」
三人の男に取り囲まれた。一人は金髪、もう一人はモヒカン、残りはスキンヘッド。いかにもヤカラという不審人物トリオである。
「金や食料。持ってるもん全部出しな」
金髪は日本刀、モヒカンは火焔銃、ハゲに至ってはバズーカ砲みたいなモノを構えていた。
「冗談言うなよ。こっちとら、もう一週間もなにも食べてないんだぜ」
「ウソをつくな。そのローブを脱いでみろ」
「この期に及んで追いはぎか。やれやれ。こんなバカ共がいるんじゃ人類も滅びるわけだ」
とローブのフードをめくってその顔を露わにした。
強盗たちが驚きに目を見開く。
「おお! 女じゃねえか!」「それもなかなか上玉だ!」「声が汚ねえから男かと!」
三人はアイコンタクトを交すと、
「俺たちのカキタレになるってんなら生かしておいてやってもいいぜ」
などとホザいた。女はくすくすと笑いながら上空を見上げる。
「てめえらについていったところでどうせ餓死することに変わりゃしねえんだろ? だったら綺麗な体のまま死にてえや」
強盗たち三人はそれを聞いてゲラゲラと下品な笑い声を立てた。
「なにが綺麗な体だアバズレ野郎!」
「サノバビッチってツラしてるぜてめえはよ!」
「本当さ。体が綺麗なのは」
彼女はそう言うとローブの襟に手をかけ、
「見せてやるよ」
それを一気に脱ぎ、すごい勢いで後方に投げ捨てた。
「どうだい? 綺麗だろう?」
彼女がその下に着ていたのはツーピースの服。品のある海のように深いターコイズブルー、光沢のある上質な素材。よく見ればどうやらモノのよい着衣ではあるらしいのだが。
「なんだこいつ!」「露出狂か!?」
女が着ていたのは「服」というにはあまりに布の少ない代物だった。そいつが隠しているのは本当に最低限の胸の先端部と女性の部分のみ。
「見ろよこの美しさ。このキメの細かい白い肌。たわわに実ったまんまるいベストシェイプの胸。引き締まった脚。かわいらしいおへそ。そしてそれを飾り立てるこの装備! この私の美しさ、エロさ、猥褻感、いかがわしさを最大限に引き出す! 唯一無二の淫靡テーション! 天上天下唯我独尊なる至高のドスケベ水着であろうが!」
などと喚きつつ悩まし気なポーズを取り、ビルのガラスに映る自分の姿を恍惚としたイキ顔で見つめている。
強盗たちは心理的にも物理的にも十歩ほどヒイた。
「キミワリイこいつ!」「露出狂クソ女!」「殺しちまおうぜこんなヤツ!」
女は大袈裟に「やれやれ」というポーズを取って見せた。
「そんなにヒクなよ。久しぶりに露出したからテンション上がっちゃっただけだろ」
「――このド変態野郎! 死にやがれええええ!」
金髪の男は日本刀を女の肩口に振り下ろした。
「無駄だ!」
刀は身じろぎもしない女に直撃――
だが。
「なっ! なにィ!?」
日本刀はキイイン! という快音と共に根元からキレイに折れ地面に突き刺さった。
「ハハハハ! このドスケベミズギはただエロ可愛いだけではない! 鉄壁不敗の防御力をも兼ね備えているのだ!」
「バカな!」
「そして。強いのは防具だけではないぞ」
閃光のようなアッパーカットが炸裂。男は三メートルばかり吹き飛び、地面にアタマから突き刺さった。
「おまえらも安楽死しておくか?」
女は獣のような眼光で残った二人を睨む。
「ぴ、ぴええええぇぇぇぇ!」
モヒカンの男が恐怖に駆られ火焔銃の引き金を連続して引いた。銃口から巨大な火の玉が発射され女を捉える。大きな爆発が起こり煙が立ち上がった――が。
「小型の焔核兵器か。嫌いなんだよこの臭い」
女の体には焼け跡ひとつついていなかった。
「バ、バケモンだ!」
モヒカンは銃をほおり捨てて一目散に逃げ出した。
「逃げられると思うな!」
女は水着のブラジャー部分の紐をほどくと一瞬の躊躇もなくそれを脱ぎ去った!
その小さな布、いや、殆ど紐状の物体はターコイズブルーに輝き、光の鞭となった。
彼女はそいつを一度地面にビシィ! と叩きつけたのち、
「にゃああああぁぁぁぁ!」
男を亀甲のごとく縛り上げると、ビルの十階辺りまでほおり投げる。男の体は窓ガラスをブチ破ってビルの内部に消えた。
「焔核を使うヤツは嫌いだ。あんなもんロクなもんじゃない」
水着を再度着用しながらスキンヘッドの男を睨み付ける。
男はバズーカに弾薬を装填しながら女に問うた。
「あんた名前は?」
「シャール。シャール・ネイキッド。伝説の魔導防具職人だ」
シャールはほぼ素っ裸の状態で、髪をかき上げながら大見栄を切る。
「覚えておくぜその名前」
スキンヘッドはバズーカの安全装置を外した。
「くたばりやがえれええええええええええ!」
――爆発。辺り一面を吹き飛ばすほどのすさまじい大爆発が発生した。
やがて煙が晴れるとそこに残っていたのは、巨大な丸い穴と穴全体を覆う赤い炎。そして。
「なんてバカバカしい武器だ。自分ごと吹き飛ばしちまうなんて」
ほぼ全裸の女だけだった。炎がドス赤く燃え盛る中、仁王立ちをしている。
彼女は肺にパンパンに空気を入れ込み、それから叫んだ。
「こんな炎で私は焼けぬ!」
彼女を覆っていた禍々しい炎は一瞬にして消え去った。
「ふう。ざまあみやがれ。焔核なんざ私には効かねえんだ」
と一瞬だけ満足げな表情を見せる。それから。
「とはいえ。飯がねーことに変わりはなしっつーわけだ。むしろ余計に腹が減ったよ」
彼女はよろよろとした足取りで十数歩ほど歩き、先ほど脱ぎ捨てたローブを拾い上げた。
「コレごと吹き飛ばされなくて良かった。一応遠くにほおり投げておいて正解だったかな」
ローブの内側のポケット状になった部分から、なにか分厚い書物のようなものを取り出し、それを愛おしげに抱き絞めた。
「まあ無駄かもしれんが――」
先程空いた穴に書物をほおりこむと。
「よっしゃ。人生最後の土遊びといくか」
むき出しとなった黒い土を両手で必死に掘り、書物を埋めたてた。
「はー疲れた。いい歳してやることじゃない」
大きな溜息をつき、書物を埋めた上に寝そべる。
「願わくば。私の生きた証が後の世に残りますように。それに」
骨だけになった男の死体、空を飛び交うミサイルに目を向けた。
「この忌まわしい兵器がいつの時代にも伝わりませんように」
シャールは穏やかな表情で目を閉じる。
しばらくのあと。幾筋もの赤い流星が彼女に降り注いだ。
しかし。そのことには誰も気が付かなかった。
こうして『古代文明』は滅びた。
後の世にほんのわずかな遺産だけを残して。
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