第85話 おっさ(略 ですが一網打尽を目指します


 アルコーンがその身体から無数の光が放たれる!その光が周囲の大地をえぐる。光なのか?光でこのようなことになるとは思えない。なんらかの粒子なのか?荷電粒子やほかのエネルギーを帯びた粒子か……いやそんなことより!


「機体の損傷は!?」

「心配いらん。直撃したら終わりだがな!」


 聖剣のセリフを聞いてゾッとする。ある意味ただ死ぬより恐ろしいことだ。何も果たせずに死んでいくというのは。


「死にたくないなら戦いなさい!」

「思考がだだ漏れなのは困るな!」


 龍に一喝を入れられ、気合を入れ直す。できることと言ったらなんだ?


「あいつの弱点でも突きたいところだが」

「目の前のあれも一部ですから……復元時に出来る限り動けなくしてやるとか、でしょうか」

「分析を進めたいので変態、もう1発攻撃を当ててはもらえませんか?」


 龍のいうことと聖霊の言うことから判断すると……そうだな、こういうのはどうだろう?


「電撃系の攻撃を喰らわせてやるか」

「そんな簡単にいうが、できるのか?」

「持ってきてる」


 ランチャーに持ってきていた電子弾頭をセットする。さっきのアルコーンの光線の射出口を狙い撃つ。


 ……閃光と衝撃波がこちらに伝わってきた。


 光線による反撃がくる。しかし射出口からの反撃はない。


「いい死角ができたな」

「効果がある……?ヒラガ、おかしいです」

「効果ありってのはいいことじゃないのか?」


 いや待て聖剣。龍のいうことから考えると……思わず俺は呟いた。


「こいつはダミーか?」

「おとりといえばおとりですね。もっとも大量のアルコーンの破片から構成されているのではないかと思いますが。ルビア、どうですか?」

「……情報量が不足していますが、現時点で可能性は棄却不能です」


 おとりなのはわかった。おとりでこの戦力かよ。じゃあ本体はどうなってんだ?本体は?

 アルコーンの破片は今どうなっている……こうなったらだ。


「操作は最小限にして、アルコーンの破片の分布を推測する」

「何をするつもりですかヒラガ!?」

「破片が集合して、復元した瞬間をぶっ叩く」

「厳しすぎます!タイミングを合わせるのは困難です!ウイルス込みなんですよね!?何が起こるかわかりません!」


 そう言われても他にいい方法を思いつかない。


「それに分布を把握していることは無意味ではないと思うが」

「……それは否定できません」

「ひとまず破片の分布を把握させろ!」


 ……世界中から情報が脳に直接ぶっこまれてきた!脳がいてぇ!鼻血が!失血死しそうだ畜生!!


「聖霊!制御手伝え!」

「これで限界です変態!!」


 限界ですと言われてもこっちも限界だ!なんとかしてくれないと死ぬ!


「……雑に!……情報量を落とせ!丸めろ!」

「丸め誤差(註:情報量を落とす際に発生する誤差)が発生しますが!?」

「かまわん!死ぬよりマシだ!」


 情報量を落として解像度を下げてゆくうちに……見えてきたぞ、世界中に分布してるアルコーンの位置が。それらのアルコーンも猛烈な速度でこちらに集まってきてやがる。


「ここに集合する気か?俺たちを敵とみなしてないはずだろ?」

「……いえ!これは!」


 集合する場所と地球をイメージ図として投影する。どうやら集合する場所は王国らしい。


「王国のが本体なのか?」

「なんともいえませんが……教会……ヒラガ、ズームできますか?」

「部分的に解像度上げるぞ……鼻血出過ぎて鼻呼吸できねぇ」


 ユグドラシルの滴を飲み干し、続けて解析を続ける。教会のほうに集まるかと思っていたんだが、違うぞこれは!?


「王国の城壁の外だ!なんでだ!?」

「わからん」

「もっと正確な情報がいる!アルコーンの破片の位置は!?」


 城壁の周囲にいろんなヤツがいるな……追い回されているのは元帝国軍だろうか。多くのやつはそもそも戦闘自体してない。アルコーンの破片が集中していくところがある。


「王国の城壁のあたりのやつに連絡すればいいか。さっきの要領で」


 俺は王国の城壁付近のやつに呼びかける。


『王国の城壁のあたりのヤツで、誰か実況しろ!』

『実況じゃな!おるぞ!』


 クズノハかよ!実況してくれるなら誰でもいいんだが。


『ヒラガよ、よく聞くが良い。アポカリプスを中心にアルコーンの一部が集合しようとしておる』

『マジかよ』

『冷凍されていたアルコーンたちも復活しはじめておる。どうやらアポカリプスがアルコーンには必要なようじゃの』

『アポカリプスをどうにかできんか?』

『無理じゃ。意識はないようじゃが、空間の壁ができておる』


 自動バリアでも張っているのか。となると普通には近寄れんか……。


「俺たちも行くしかないか」

「そうですね……体は持ちそうですか?」

「なんとかな」


 行くまでは持ちそうな気はするが、アルコーンの復活、そしてアルコーンを吹き飛ばすまで身体が持つかは自信がない。


 アルコーンのおとりも王国を目指しているのだろうか?じゃあここには何をしにきた?そんなことを思っていると、帝国の人間の身体からアルコーンの破片が集まりはじめた。


「回収……しにきたのか」

「ほかの地点のアルコーンの破片も次々と集まっていくと思います」

「そして最終的には王国が決戦の地、と」

「おそらくは」


 やっぱり戻るしかないじゃないか。んでクリスも運び出してもらうしかないか。


『ハカセ』

『なんだ、アランか』

『いい知らせと悪い知らせがある。どっちから聞く』

『いい知らせ聞かせろ』

『クリスは安全なとこに移動した』

『助かる』


 仕事が早くて助かる。気にはしていたが。


『悪い知らせだが、アルコーンが起きた。だが移動しながら城壁の外に出て行った』

『アポカリプスのとこだと思う』

『ウソだろおい』

『ウソだと言いたいところだが……な』


 アランも黙り込んでしまった。


『ともかく、アポカリプスを中心に集まっているな、アルコーンが』

『わかった。俺もそっちに向かう』


 王国の周辺のドラゴンやフェンリルに、アルコーンの破片を地道に攻撃してもらうことにするか。ノーライフロードにもリベンジしてもらうことにしないとな。


 アルコーンの破片の数が増えている。ん、遠くからハーピーたちが攻撃しているのか?アルコーンの破片がダメージを受け落ちてゆく。その一方で、王国に向かうアルコーンの破片がだんだん集まっていく。


 大きくなってゆくアルコーンの破片の群れが、白い竜巻のように王城の周りを取り囲んだ。追いつきはしたが、ダメだ、ほとんどダメージを与えられていない。外部からの攻撃で倒すのは不可能か。


 ドラゴンやフェンリル、ノーライフロードやアランとその仲間たち、王国の兵士たちもしきりと攻撃している。しかしながら、それも徒労になりそうだ。力の差ってやつが絶望的にある。


 といってもな。


 集まってきたアルコーンの破片が、時折極彩色に変色し、直線状に変形する。破片と破片がつながり合う際に更に極彩色に変色する。


「効いてるな」

「アルコーンも麻薬とウィルスの猛攻に耐えられるかだがな」

「おそらくは耐えるだろう、アルコーン自体はな」

「アルコーン自体?ヒラガそれどういうことだ?」

「アルコーンの声に聞き覚えがあってな。アイツだよ……アダム。アダム・ワトソン」

「アダム?そいつが?」


 俺は王国の教会のアルコーンの中に、アダムの存在を確認した。やはり、こうなっていたか。


「アルコーンはSophiaを中心に出現した。しかしSophiaだけでは不十分にしか存在出来なかったんだろうな。そこで、アダムだ」

「そのアダムは……どうなっているのです?」


 俺は軽くため息をついた。


「アルコーンに、支配されている。おそらくな」

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