第81話 おっさ(略 ですが……



 閃光。


 閃光とともに轟音が響き渡る。


 遠くから城郭を見た人間からしたら、それはもはや以外に何物にも見えなかったことだろう。


 偽核爆弾で反乱分子も帝国からご丁寧に来た教会の連中もパニック、いや動けなくなっていた。鼓膜くらいは破けたヤツいるかもしれないし、最悪ショック死したやつもいるかもしれないな。……吐き気がする。


 吐き気を無理やり押さえ込む。


 事前に伝えていた通りに、倒れている連中には王国側の兵士や天使たちが例のクスリをぶち込んでいく。サイケな気分で寄生しているアルコーン抜きをしてやる。教会の天使たち、どうもそういう仕事も得意らしい。がんばれ白衣の天使。ブチ込めリゼルグ酸ジエチルアミド。その光景を見て、更に帝国教会の連中が恐慌状態に陥っていくのがわかる。


「天使が!?天使たちが何故我々に!?」


 そしてLSDをブチ込まれた人間や天使たちから、寄生体がウネウネと出てくるのも目撃し、もはや何が起こっているか理解できていないだろう。あ、なんかデューイだったか?倒れてるな。俺はクリスに何をやらかす気だったかわからないこいつをふんじばる。


「地獄絵図だろ……」


 呆れたようにアランが呟く。そこまでいうほどでは無いとは思うが、まぁ控えめに言って


「地獄絵図ね……」

「えっと、これぞ地獄絵図って感じですね……」


 そこまででもないと思うんだが。龍もクリスも言い過ぎだ。


「何よ何よなによなによぉぉぉぉ!!」


 あ、ロリ巨乳アポカリプスがキレた。そこまで切れるほどのことか?


「こんな!こんなつまんない方法でなんで王国が押し返すのよぉ!!」

「つまんない方法に負けてるヤツに言われても、なぁ」


 アランのツッコミが冷酷だ。みんなうなづいている。


「ふ、ざ、け、る、なぁああぁぁぁぁ!!!」


 アポカリプスの周囲からラッパのような音が響き渡る。それとともに熱線のようなものが飛び交う。熱線。そういうもんか。


「それならな」


 持っていた煙玉を地面に叩きつける。土煙、そして大量の煙を巻き上がる。それとともに周囲でも大量の煙幕が焚かれる。


「なんでよ!どういうことなの!?」

「光線使う相手とは戦闘済みだ!」

「チッ、天使か!」


 エネルギーが煙幕で減衰したら、熱線なんざただの光に過ぎないだろう。十分な距離を置くことが前提ではあるが。


「これ以上出力を上げると連戦できない、だけどっ!」


 アタマの方も結構回るようだなアポカリプス。冷静になりやがった。


「冷静になられる前に決着つけたかったんだがな」

「それはこちらのセリフ!」


 アポカリプスの手の周囲が揺らいでいる。空間の断裂を剣のようにしてやがるのか。単分子カッター以上の危険物じゃないか。切れないものはおそらく、ない。


 アランやクリスが距離を置きながら、電子線を発射する。しかし、当然の如く回避される。何故かクリスがアポカリプスを凝視している。


「チッ、光すら使えないドラゴンのなりそここないども!」

「えっと、それでも嫌がらせくらいはできます。相変わらず揺れないんですね、大きいのに」

「変態っ!変態ドラゴンっ!なめるな下等生物!」


 煽るクリスに一気に迫ってきたアポカリプスだが、龍が空間の断裂を受け止めて、鍔迫り合いする。


「なっ!?ど、ドラゴン!?ホンモノの!?覚醒までしているの!?」

「どうやらこれなら、対等にやれますね。ヒラガのおかげです」


 空間の断裂を受け止めた龍が、


「みんな離れなさい!」


 アランとクリスが一気に距離を置く。電子線による牽制は続けている。空間の揺らぎでアポカリプスがもんどりうった。


「いっ……たああぁぁぁぁ」


 アポカリプス、鼻血出てるな。あれで鼻血で済むのかよ。硬い。龍がしかし、片膝をついた。


「くっ……厳しいですね」

「あら、覚醒はここまでなの?所詮はそのてい……って何してるの」


 懐からドリンク剤の要領でユグドラシルの滴を飲み干した龍が、再度覚醒する。


「そんなのありなの!?」

「ありに決まってんだろナメんな人類を!」

「ウザいウザいウザいウザい!!」


 口ではそう言っているアポカリプスだが、あくまでも冷静なようである。攻めあぐねてるのはどちらも同じである。ちょっと突いてみるか。


「アポカリプス」

「なによ人間」

「お前たちの目的はなんだ」

「なんだも何もない。人間が増えすぎてるんだから処理しないと。

「アイオーン?お前、それは……」


 まさかの展開だなこら。こいつまで操り人形か。アルコーンってヤツはどこまでもこう……。だとしたらこいつともまともにやりあう必要、あるのか?そんな気すらしてきた。


「クリス、だとするとだ」

「はい。でもそのためには」

「そうだな……近づけないといけないんだが」

「ムリだろこれ」


 龍とアポカリプスの激闘は、最早アランやクリスクラスでも介入が困難になっている。ましてや俺など、ちょっとでも近寄ると即真っ二つだろうか。


「ってまたそれ!?いい加減にしてドラゴン!」

「はぁっ……はぁっ……そちらこそ、諦めなさい」


 ドリンク剤を飲み干す中年のおっさんじゃないんだから、龍よ。でもこの展開はまずいな。アポカリプスは体力的には別に消耗していないどころか、むしろ回復すらしている。

 龍が敗北した時点で詰みだ。


「一バチで、俺を近づけさせてくれ、アラン」

「無茶いうなハカセ、死ぬぞ」

「そうです!死んだらアルコーン倒せなくなります!」

「これブチ込みたいんだが……」


 俺は2人に注射を見せた。この注射ブチこめれば、アポカリプスにも別の意味でダメージ与えられる。むしろダメージを与えられるのはアルコーンにか。


 突然、クリスが注射を俺から奪った。


「何するんだクリス!」

「ヒロシ、後はお願いしますね」

「おい!クリス!やめろ!」


 クリスは一瞬だけこっちを振り向き、微笑んだ。その次の瞬間、アポカリプスに向かって猛然と駆け出した。俺とアランは走ったが、俺はともかくアランすらクリスに追いつかない。まさか!


「バカやめろクリス!覚醒は人間の勇者が使うと!!」


 一気に加速するクリスが、アポカリプスの前に突っ込む。龍とアポカリプスもその動きを捉え切れずに体勢を崩す。クリスの一撃をなんとかかわしたアポカリプスの一撃が、クリスの、胴を貫いた。俺は、その光景を目の当たりにして、ただ叫ぶしかなかった。


「クリスうううぅぅぅ!!!」



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