第80話 おっさ(略 ですが四面楚歌代わりのラッパが流れる中、囲みを脱します


 引っ越しの最中にアポカリプスがやってきた。……終わった。



「で、アポカリプスはどこなんだ?」


 そう思って俺が周囲を探すも、見当たらない。どうやら市街の中には入ってこなかったようだ。市街の城壁に入ってきたら死ぬと思ったが。なら、外だろうか。双眼鏡を取り出し、高いところに上って探してみると……いた。いたけどなんか様子がおかしい。


「アポカリプスは?」

「用意できたかアラン。クリスたちは?」

「着替えに時間かかってる」

「仕方ないな、女の子だし。それより見ろ」


 アランにも前回クリスに渡したのと同じ粒子加速手甲や、セラミック-合成繊維複合のアーマーを装備させた。さらに細工も仕込んである。お休みファンタジー。俺はアランに双眼鏡を手渡す。アランがアポカリプスを見ている。さっき見たときはあいつ肩で息をして座り込んでいた。


「……なんか、すっごい疲れてないか?」

「疲れているようだな」

「今のうちに攻めたら勝てないか?」

「残念だがそれは無理だろ。あいつ、連れてきやがった。反乱軍を」


 そうなのだ。あのロリ巨乳、急に反乱軍を展開させやがった。空間を捻じ曲げて連れてきやがったのか!?こんなのやられたら王国も持たんぞ。アランが周囲を見渡して顔色を青くする。


「これはひどいな」

「反乱軍だけじゃねぇ。どうやらあいつ帝国の教会の兵隊も連れてきたっぽい」

「無茶苦茶しやがる」


 そらあいつもグロッキーになるだろうけど、こちらは逆に完全に包囲された。どうすりゃいいんだこれ。ラッパの音が聞こえる。


「えっと、遅くなりました!」

「クリスか!龍は?」

「国王たちの方に向かってます」


 手をこまねいていてもしょうがない。とりあえず俺はクリスにも双眼鏡を手渡して状況を見てもらった。


「えっと、疲れてるアポカリプスをここから狙撃してもダメですか?」

「ダメだろうな。この前同様になる可能性が高い」

「前線に出るしかないな」


 状況を確認した俺たちはひとまず国王の方に向かった。龍と国王たちが何か話している。大臣が俺に声をかけてきた。


「来たか」

「ああ。状況が悪すぎるな」

「ですね。目的は禁書庫、いえ船だと思いますが」

「あれ壊されたら最後だもんな」


 龍の考えが正しければ、あいつらが狙うのはこの城の中のはずだ。


「えっと、でもなぜアポカリプスはこの城の中に転移させなかったのでしょうか?」

「都市伝説だが、フィラデルフィア実験状態になるからだろうな」

「フィラデルフィア実験?」

「ああ。昔、ある軍艦を空間転移させようとしたという実験があったらしい。が、失敗して中の人が壁や床にめり込んで死んだとか言われてるな」

「うげっ」


 露骨に嫌そうな顔をするアランや国王だが、確かにそんなグロいことになったら戦力を無駄に失うことになるわけで。


「なら十重二十重に囲まれているこの囲い、どうにかできんのか?」

「戦力差も結構あるが……」

「してハカセ、何か持っておらぬか」


 国王が無茶ぶりしやがる。俺はどこかの小学生を子守する青いタヌキ型ロボットじゃねぇぞ。


「何かってそんなもんほいほい持ってるなら苦労はねぇ」

「誰かに助けは呼べぬのか」


 そのレベルならやってはいる。SOSはとっくに送信済みだ。


「もう呼んだ。つってもどこかのもの好きのアンデッドとドラゴンとフェンリルくらいしか呼べんぞ」

「それだけ呼べれば十分じゃ、おぬしは魔王かなんかか」

「通りすがりのマッドサイエンティストになんてことを」

「あとはどうするんだよハカセ」


 そうはいってもアランよ、現状四面楚歌もいいとこだ。アンデッド軍団とかと挟撃できればいいんだが、ほっとくとロリ巨乳が元気になってこっち襲ってきそうだ。くんな。


「ひみつどうぐのなかに何かないか……」


 袋をあさってみる。おいみんな注目すんじゃねぇよ。そんなものがあるなら俺だって……ん?そういえばだ。いいものがあるな。それも結構な量。確か教会に置いていたはずだ。


「国王」

「なんじゃ」

「火薬はあるよな火薬」

「あるが」

「ならちょっと使えるものがあるぞ」

「あるのか!?」


 おいみんなそんなかぶりつくんじゃねぇよ。無理もないけどなこの状況じゃ。藁をもつかむってやつだよな。藁どころか掴んでるのゴミかもしれないけど。……ゴミによっては浮力あるからそっちのほうが救いはある。



 俺たちは教会に急いだ。まだ置いてあるはずだが。入り口に宗主がいた。天使や兵士たちを整列させている。


「宗主!」

「ヒラガではないですか。どうされました?」

「前に俺が置いてったあれ、どうしてる」

「どうしてるもなにも、のし付けてお返ししようかと思っていたのですが……」

「使い道ができてしまった」

「なんと」


 宗主に案内され、灰色の粉の山を見つめる。こんなにいらんかったけど、結果オーライだ。いずれにしろ、材料はそろった。あとはだ。


 城門の前に帝国の教会の兵士やら反乱軍やらがいっぱい集まってきやがっている。なかなかの数だ。しかもどの城門にも集まっているじゃないか。クリスが怪訝な顔で俺に聞いてきた。


「えっと、でもこんなのでうまくいくんですか?」

「これは一回限りのネタだからな。何度もは使えない。俺がここにいるってのが肝でな」

「そんなもんですか」

「そうだ。俺が、あれやったのは皆覚えているわけだろ」

「あのときはちょっと恨みました」

「まぁそういうなって」


 それぞれの城門の前に、でっかい爆弾を用意した。さてあとはだ。前に国王に渡して街のあちこちに設置してかなり役立ってる奴を使うことになった。


「国王、拡声器を使わせてもらうぞ」

「構わぬ」

「よし」


 俺は拡声器のマイクから大声でどなる。遠くからラッパの音がする。知るか。


『あーあー帝国の教会と、それから反乱分子だったか?なんでか知らないけど一緒にいる君らに告ぐ。俺はハカセ。魔王城を爆破したのは知っているな?』


 取り囲んでいる兵士たちがざわめく。


『今から、この城ごとぶっ飛ばそうと思う。俺も死ぬならお前らも道連れだ。どうせならみんな滅ぶといい。魔王城を吹き飛ばした爆弾を用意した』


 ざわめきが絶叫に変わるのに時間はかからなかった。そりゃそうだろう。一回やったやつがもう一回やらない保証、あるのか?遠くでアポカリプスが「そんなの嘘よ!逃げなくても大丈夫!」とか叫んでるけどもう遅い。兵士たちは大混乱に陥った。


『それでは、よい終末を』

「悪人すぎないか?」


 アランにそれを言われると耳が痛い。場内の人間に耳栓を用意させる。そして、それぞれの門の上から巨大な爆弾4つを転がし……門の外で巨大な閃光と爆音が響く。


 偽の核爆弾(金属マグネシウムの閃光弾)で兵士たちがひっくり返り震えて縮み上がっている。それと同時に俺たちは外に進軍を開始した。

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