第78話 おっさ(略 ですが俺たちは騙されていたのです(41話くらいから
慌ててタオルを取りに行ったり女物の服を教会で借りたりして、再び地下に舞い戻る。
「はぁ……はぁっ……クリス、ほら、タオルと服」
「はい」
扉の隙間からクリスがタオルと服を受け取る。
「ぜっっったい、覗いたらダメですからね!」
「覗かねぇよ!」
残念だったな、俺にはそういう趣味はないんだ。アランもそんな趣味無かったしな。むしろ俺たち覗いてたやつ捕まえて小銭を稼いでみたりしたもんだ。
しばらくアランと2人で、部屋の前で体育座りして待っていることになった。おかしいな、ちょっと遅くねぇか?
「だ、大丈夫だよな?遅すぎないか?」
「俺もそう思ってたとこだアラン。もうちょっと待ってからノックしよう」
さらに待ってみるがうんともすんとも言わない。もう結構経ったぞ。まさか、失敗したか!?
慌てて扉をノックする。
「く、クリス!?大丈夫なのか!?」
クリスが顔だけ出してきた。
「えっと、大丈夫といえば大丈夫です。ですが、ヒロシ、肝心なこと忘れてませんでしたか?」
「何をだ」
「えっと、産まれたての赤ちゃんって、歩けます?」
しくった!それは言えてるじゃないか!実際には赤ちゃんそのものというわけではないが、産まれたての身体と龍のリンクには時間がちょっとかかるだろう。
「どういう状況だ?歩けないレベルか?」
「とりあえず産まれたての小鹿みたいになんとか立ってもらって、今身体の動き確認してもらってます」
もう立てるのか。その状況なら明日には時速50キロで走れそうだ。
「なら、服着るのはもうちょっと手間か?」
「えっと、むしろそっちが問題で……服着るのに手間取ってます」
「わかった、誰かよんでくる」
「俺が行ってくる」
「頼んだアラン」
アランが軽く手を振って、階段を駆け上がっていく。俺は再び体育座りで待つことにした。
そんなこんなで、教会のシスターに服を着るのを手伝ってもらい、なんとか龍がこの地上に舞い戻る手助けができた。
「もう大丈夫ですよー」
「長かった……」
「そういうなヒラガ、俺も目隠しされてたぞ」
「お前はエロ剣だから仕方ないだろ」
現れた龍は、想定通りからクリスを少し成長させたような感じになっていた。姉妹のように見えるな。軽く咳き込んでいる。
「身体の方は大丈夫か?」
「あまり大丈夫とは、言えないようですね……」
染色体倍加で無理に龍の権能を人間に乗っけてる状況だからな……一応致死遺伝子は避けたつもりだが、それでも障害がないとも言えないだろう。俺は薬を取り出した。
「これを飲んでくれ」
「これは?」
「ユグドラシルの滴だ。フェンリルに注文を受けた、ユグドラシルのクローン作成がうまくいったからお礼にもらっている」
訝しんだ表情で、龍はユグドラシルの滴を口にする。しばらくすると龍が驚きの表情を見せる。
「えっ……身体が……」
「一応毎日服用してもらえば、とりあえず持つと思う」
「これなら、行けそうですね」
「そうだな。覚醒した状態でアポカリプスと対抗してもらうこともできそうか?」
「はい。ヒラガ、私の手で決着をつけさせてもらう機会をくれましたね」
「そうなるな。あとは俺がアイオーンと決着をつけるまでだ」
アランとクリスもうなづく。しかし、龍が再び訝しんだ表情を見せる。
「アイオーン?ヒラガ、あなたは本当に天上のアイオーンと戦うとでも?」
「この後に及んで何をいっているんだ。アイオーンによって世界はむちゃくちゃに……」
龍が目を見開く。ハッと息を飲むようにして俺を見つめてくる。
「ヒラガ……いえ、ひょっとしてこの世界の皆、ですか!?」
「どういうことだ?」
「ヒラガ、3700年前のあの大破壊は、アイオーンではなくアルコーンによってもたらされたんですよ!?」
アイオーンではなくアルコーン!?なんでだ?何で俺たちはアイオーンがやっていたと思い込んだ!?
「アイオーンとは私たちの『神』にして全ての世界の根源。アルコーンはその根源から『干渉』によって生み出された存在です」
「Sophiaか!?」
「はい」
何故こんなことに?下手したら俺はこの宇宙ごと滅ぼすハメになってたぞ!?アイオーン……アルコーン……。
「どっかで記憶が、いじられている感覚がある?」
「はい」
「そうだな、龍よ。宗主が俺たちのところに接触しにきたときだ!」
アルコーンの野郎、自らをアイオーンと誤認させやがったのか畜生!騙されて「神」を殺しに行くとこだった!世界終わるぞ!
「全然、気がつかなかった……これが、改変か……」
「そうだアラン。しかし今んとこ、これくらいしか影響ないような気がするんだが何でだ」
「おそらく5分間をやり直させ続けているからでしょうね」
宗主も下に降りてきた。そういえばそうだった。アイオーン……アルコーン復活前に俺が永遠の5分前を繰り返させてるんだったわ。
「ヒラガのおかげでこれで済みましたね」
「でもこれ、凍らせたままアルコーンを吹き飛ばすしかないなもう。Sophiaはスクラップにするしかないか」
「えっ、ヒロシまだ何か使うつもりだったんですか?」
使うか使わないかでいうと使った方が便利だと思う。さておき、これで戦力は揃ってきたので一度研究所に戻ることにしよう。龍の方はなんとか普通に歩けるようにはなってきたので、一晩宿をとって馬車で帰宅かな。
アランと龍は教会で宿を取るようだが、俺とクリスは別のところで宿を取ろうと思う。そうだ、ついでにギルドによって色々と売ることにしよう。……まだヤギのツノは売れないらしい。アレ本当に邪魔なんだけど。
ギルドマスターがやってきた。そうだ、例のもの返さないとな。
「おう。これ、助かったぞ」
「そうか。ということは、いよいよか」
「あぁ。色々片付いたらクリスの烙印を消せる。うまくいくといいんだがな」
「そうか。そうだ、これも持ってけ」
そういうとギルドマスターは、俺にポーションを渡してきた。
「これは……」
「以前ポーションの件で色々調べてもらったからな。ハイポーションだ」
「すまない。もうすぐ最後の決戦になるかもしれないからな」
「最後の決戦?」
そういえば逃げ出してきたが、反乱分子は今どうしているんだろ。あとはアポカリプス。反乱分子はユグドラシル付近で何かやっているんだろうけど、俺たちの破壊工作で手間取ってはいるはずである。アポカリプスは全くわからん。そしてアポカリプスに挑んだときに聴こえた謎の声。うーん……どっかで聞いたことあるんだが……。
「うーん……割と以前に聞いたぞ」
「えっ?何をですか?」
「あぁ悪いクリス。アポカリプスと交戦した時、あいつが撤退する際に何者かが何か言ってたよな?」
「あっ、そういえばそうですね」
「あれ、どこかで聞いたことがある声なんだよ」
「そうなんですか?でもわたしは聞いたことがないです」
俺が聞いたことがある声で、クリスが聞いたことのない声……おかしい。そんな声がありうるか?その後夕飯も味がしない。宿をとってベッドの上でも、まだ気になって仕方がない。どこかで聞いたことがあるんだ。たしかに……
「あっ!!!!」
「ど、どうしたんですかヒロシ!?」
クリスがシーツを身体にかけたまま起き上がる。いつ脱いだんだよ。
「あの声!あいつじゃんか!俺を殺したあのクソイケメン!!なんであいつなんだよ!?」
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