第77話 おっさ(略 ですがロジスティックスには空路も使うのです
龍のために用意した身体を、いよいよ教会に輸送することになった。
ドラゴン夫の背中に乗ったアランとクリスが、魔力供給しながら竜の卵を輸送する。魔力の質が竜の卵を稼働させるために適切だということだ。魔力については十分理解できていないので、ここはもうイグノーブルなどに任せている。
そして俺はドラゴン鬼よ……おっと嫁の方にアランのパーティの僧侶、シオンと共に乗って出発する。これから二時間の強行軍をシオンには強いることになる。アランは二つ返事で了承してくれたが、シオンは正直渋い顔をしている。追放とはなんなのか。
もっともここに至っては、アイオーンの脅威についてはみんな把握しているので、少なくとも協力に関しては取り付けることはできた。それでもなんでお前とだよという顔をされるのは、まぁ仕方ないだろうな。
「アラン、クリス、準備はいいか?」
「だ、大丈夫です」
「こっちも大丈夫だ。竜の卵はどうなってる?」
「稼働しているぞ。ここ見てくれ」
「えっと、あ、緑色の明かりついてますね」
クリスが指差したところには、小さく緑色の明かりが多数ついている。予定通りだ。
「これが全部消えるとアウトだ。橙色になり、赤色になってから消える」
「今の調子じゃ、これ20分と持たないぞハカセ」
「そこでシオンがトランスファー・マナで二人に魔力を供給する。道中に魔力供給源が待っている」
「結構綱渡りだな」
聖剣の言わんとすることもわかる。魔力供給源はそこまで近くにはいないし、シオンも連続してトランスファー・マナを使うことになる。
「今回の作戦はお前が頼みだ。思うところはあるだろうがシオン、頼むぞ」
「アランの頼みですから。お任せ下さい」
アランのことは好きなんだなお前。まぁみんなそうだったのはよく知ってる。
「それじゃ行くぞ!しっかり持てクリス!」
「はい!アランさん!」
ドラゴンが飛び立つ。こちらはむしろ先行しないといけない。ドラゴン嫁が加速して追い抜いていく。
しばらく飛んでいると第一の供給源がいた。
「ロムルストー!きてくれたのか!フェンリルも!」
『その節は世話になった』
「ワレラデヨケレバ、チカラヲカスゾ」
「ありがとう!」
「えっ、なんですかこの巨大な動物」
シオンが若干引きつりながらも、後から飛んできたアランたちに、フェンリルの魔力をトランスファー・マナで供給する。供給自体は一瞬のようだな。
「次に向かうぞ!」
「まさかと思うのですが、他にもいるんですかこういうの……」
「こういうのがどういうのかはわからんがいるぞ」
シオンの顔が引きつる。そんな引きつるほどのことか?さらに飛び続けると、次に魔力を供給してくれるメンバーが待っている。
「イグノーブルか!今回は色々助かる!」
「思うところはありますけど、魔法使いやれるのはヒラガのおかげですからね」
「そうなんですか?」
再度トランスファー・マナを行い、再び飛び立つ。まだまだ先は長い。次の魔力供給を行うのは……
「クズノハ!?お前たちって魔法使えるの?」
「使えるに決まっておろう。人をなんだと思っておるね
「セクハラバ……痛い痛いつねるなつねるな」
「あながち間違っていませんが、クズノハ様は」
サユキも俺と同様頬をつねられる。口は災いの元だ。シオンの表情は驚きから無表情に変わっていく。トランスファー・マナを済ませて再度飛び立つ。
「もう何がきても驚きませんよ、あなたの交友関係」
「人をなんだと思ってんだよ」
辛口な軽口を聞きながら、次の目的地を目指す。次にいるのは……牛じゃねぇか。あの牛アンデッドか?セベク爺さんもいる。とすると。
「ノーライフロード!お前なら来てくれると信じてたぞ」
『魔力供給くらいしか手伝えないからな。教会近くにはいけないし』
「ターンアンデッドされても仕方ないからなお前ら」
無表情でトランスファーマナを済ませるシオン。なんか悪いな。再び飛び立ち、しばらくすると、クリスから連絡が入る。
『ひーろーしー、たーいーへーんでーす』
手振りでドラゴンの近くに飛んで行くと、想像以上に魔力の減りが早い。もう橙色の明かりが多いじゃないか。
「まずいな」
「ああ、何か手を打たないとマズいぞハカセ」
「供給タイミングを増やせるといいんだが、クリス、連絡頼む」
クリスが無言で目をつぶって魔力通信を始めている。次の目的地まで飛ばすしかないな。
目的地より少し手前で、次の魔力供給源が見えてきた。急いできてくれたのか!
「マックスウェル!レミリアも!」
「魔力供給までの距離が足りないと聞いて、飛んできました」
マックスウェルはちょっと吐きそうになっている。レミリアとともに飛んできたのか?
「吐きそうなところ悪いが供給頼むぞ」
マックスウェルは無言で頷く。魔力供給済んだら倒れてていいから。よく頑張った。感動した。
ぶっ倒れたマックスウェルを横目に次の目的地を目指す。その手前を激走する馬車がある。あの馬車は。
「宗主の馬車じゃないか!?」
「元嫁を手助けにきました」
「……冗談になってないぞ」
「これは失礼」
「シオン、宗主からしっかり絞れ」
「もうむちゃくちゃですね」
宗主からもしっかり魔力を絞り上げ、なんとかランプを橙色のまま持たせられる。次の目的地までに魔力供給源のメンバーが来ているはずだ。ん?あいつら!
「暗殺騎士!?」
「えぇっ!?」
シオンの方がドン引きしている。それもそうだろう。暗殺に巻き込まれそうになったんだしな。
「来てやったぞ。感謝しろ」
「ていうかどうやってこの国入ったんだよお前ら……」
暗殺騎士たちからも魔力を供給してもらい、いよいよ王城が見えてきた。王城の前にドラゴンが降り立つ。王国の魔法使いたちから魔力を提供してもらい、最後のトランスファー・マナを行う。やっと教会が見えてきた。
「シオン!今回は本当に助かった!」
「俺からも……礼を……いうぞ……」
重いのに無理すんなアラン。
「えっと……重たいので……それは……あとで……」
二人で階段降りるの?絶対怪我するぞ?
「アラン、来たか!」
「テリオス!グリル!……重いんで……手伝って……くれ……」
「えっと……お願い……します……」
こうして旧勇者パーティみんなとクリスで、たぶん最初で最後の共同作業、竜の卵の運び込みを行なった。くそっ普段身体動かさないからむっちゃあちこち痛い!笑うなテリオス!
そんなこんなで地下にたどり着いた俺たちは、龍のダウンロードを開始できた。魔力の方も教会から供給できそうだ。
「ふぅ……さすがに疲れました……」
「おつかれさんクリス。アランもな」
「そうだな。しかしハカセ、あとどれくらいかかるんだこれ?」
「うーん……結構かかるなこれ。4時間!?」
「えっと、一度どこかで何か食べたいんですが」
女の子が鳴らしちゃいけない腹の音を立てているクリス。仕方ない、ちょっとメシ食いに行こう。おつかれ様だったな。
アランたちとクリスにメシを奢ろうとしていると、クズノハとロムルストーがやってきた。
「ここにおったか。我らにも食わせぬか」
「もう着いたのか?」
「フェンリルに飛ばしてもらったわ。ノーライフロード以外はみんなおるぞ」
「ちょっと待て、全員来たのかよ」
「めーし!めーし!」
えーっちょっと待てよ、流石にこの人数に奢るのはキツイぞ!財布の中の金貨が溶けていく!
「くっそお前ら覚えてろよ!」
「今まで色々やってきたおまえが言うな」
アランのその一言にうなづく奴、爆笑する奴……やってきたのは事実なのでなんも言えねぇ畜生。
メシを食い終わってほとんどのメンバーが別れていく。俺とクリス、アランは再び地下に戻ることにした。戻ってみてみたが、まだ終わってない。
「こういうの99%とかで止まるのなんでだろうな」
「えっ、そういうものなのですか」
でかいソフトのインストールとか、99%で止まるのなんでだろう。なんでだろう、なんでだろう、なんでだなんでだろう。
「待つしかないな」
「そういうものなんですね」
そうやって待っていると、突然、竜の卵が振動を開始した。うおっ!?これは!?
「インストールが成功したか!?」
「いんす、とーる?」
竜の卵の蓋が開く。これは……!?いよいよご対面だが、龍と。クリスが蓋と本体の隙間から覗きこんでいる。そして。
「あっ!!!」
「どうしたクリス!?」
「ふたりとも!出て行ってください!!」
「なんでだ?」
「アラン、俺も気がついた。すぐ行こう。そして服を取ってこよう」
「あっ……」
俺とアランは慌てて服とタオルを取りに駆け上がって行った。人は何も持たずに産まれててくる。当然、服も着てない。そして龍の性別は、女性だ……。
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