第74話 おっさ(略 ですが生命をどうこうしようとはおこがましいと思わないか



 ユグドラシルの魔力使って更なる怪物を作る……何考えてんだ反乱分子の連中は。お前ら一体何と戦うつもりだよ。しかも反乱分子をここに持ってきたのアポカリプスロリ巨乳だということは、必然的にアイオーンとアポカリプスと反乱分子はつながっていることになる。ということは反乱分子はアイオーンが支配……


「ヒラガ様?」

「お、おう、悪い。考えごとしてた」


 急に反乱分子が来たので思わず考えこんでしまったが、点と点は繋がってきた気がしないでもない。


「ユグドラシルの方に行ってみるか」

「なっ!危険です!」


 官僚の人たちには申し訳ないが、行かないといけない時もあるんだよなぁ。


「君子危うきに近寄らずとは言うけどよ、虎穴に入らずんば虎子を得ずだぞ」

「えっと、でも赤ちゃんとかとったらトラのお母さん可哀想ですし怒りますよね?」

「ものの例えだクリス。反乱分子から竜の卵を奪取したら全力で逃走する」

「発想が山賊のそれだぞヒラガ」


 仕方ないだろ聖剣、どーせあいつらだって帝国から奪ってきたもんだし。ちょっと借りて龍とクリスに使ったら返すから。返すから。機構調べてコピーできたらしたいけど。


「しかし強襲かけるとして、足の速い味方とかいないもんかな。ドラゴンもフェンリルも置いてきてしまったぞ今回」

「どちらにも世話になりました……」

「それはそうなんだけどクリス、強襲用の高速な乗り物がなんもないぞ」

「乗り物……それでしたらヒラガ様、我が国にいいものがあります」


 えっ、なんかあるの?そういえば帝国にも高速艇があったが、この国にもあるのか?


「しかし仮に突入が成功しても、そんなうまくいくのか?」

「身もふたもないこというと、無理だな。そう考えるとまず先にやることがあるなぁ」

「えっと、何するんですか?」


 俺は悪い笑顔になった。クリスも聖剣も、官僚たちもさーっと引いて行った。……そこまで引かなくてもいいんじゃないか?



 俺たちの目の前には、飛行機のようにも飛行船のようにも見える不思議なものがあった。


「飛行船かこれ?」

「いえ、これはエアロクラフトと呼ばれる古代の技術で作られた空飛ぶ船だそうです」


 エアロクラフト(註:飛行船の一部を揚力として使用する飛行機と飛行船の中間の飛行機械)か!これなら数百キロは出るな。ドラゴンやフェンリル程ではないがそう捨てたもんじゃない。


「よし、これなら良さそうだ。まず最初の狙いからだな」

「えっ、本気でやるんですか……」

「当たり前だろ、なんの情報もなしに乗り込むつもりかクリス?」

「……えっと……それはわかるんですが……」


 宵闇に紛れてエアロクラフトで奴らの近くに近づくことにした。ユグドラシルの周りは森に囲まれ、巡回の兵士たちが散開してうろついている。よし。おもむろに俺は機械を下ろして行く。鎧の素材は……鉄だ。スイッチオンだ。


「うわわわわわわぁ!」


 兵士が浮かび上がっていく。パニックになっている地上を尻目に、電磁石に吸い付いた兵士と鎧を引き上げ、そのまま上空を目指す。聖剣が呟いている。


「これ、気づかれるよな」

「気づかれたところで、報告の兵士が『空に吸い上げられて行きました』って報告したらどう思うよ聖剣」

「えっと……普通任務中に酒飲むなと思いますよね」


 クリスの言う通り、酒飲みの戯言と確実に思われるだろう。このエアロクラフトの下は黒い素材で光を反射しないもので覆った。さらに気づかれにくいだろうな、このカラクリは。


「んで、釣り上げた兵士は?」

「伸びてます」


 そりゃそうなるな。誰だってそうなる、俺だってそうなる。ヒューマン・ミューティレーションをやられた日には。アブダクションって言った方が適切かもしれないが。


 とにかくこいつには色々と吐いてもらわねばならない。自白剤でも……と言いたいところだが、自白剤って効果ないんだよな。ん?目が覚めたようだ。


「お目覚めかな?」

「くっ……貴様、何の用だ!?」

「いやな。お前らに色々と聞きたいことがあってだな」

「我々は話すことはない」


 いきなり交渉決裂だな。どうするか。まさか突き落とすわけにも行くまい。


「うーん……自白剤はダメだろうしな、そうだ、ポリグラフの方が使えるかもしれない」

「えっと、それは……」

「ウソ発見器」

「えっ、そんな機械できるんですか!?」


 俺の生きていた時代では、自白剤よりはウソ発見器の方が信頼性が高いと考えられていた。完全ではないものの、人間が嘘をつくときの血圧、脈拍の動きには変動がある。


「そういうわけで、喋らなくてもいいぞ」

「くっ」


 いすにつながれた兵士に電極を付けていく。


「いいかー、全部いいえで答えろよー」

「なんだと?」

「第1問。あなたは、痔です」

「はあ?いいえ」

「そうか。とりあえずうまく行きそうな気がしてきた。第2問。あなたには両親がいます」

「いいえ」


 反応なしか。悪いことしたな。仕方ない。続けるとしよう。


「第3問。あなたは、昨日パンを食べました」

「いいえ!」


 紙に描かれた線が山になる。おっ、反応ありだ。つまり。


「ヒロシ、この人昨日パン食べてるんですか?」

「そうだ」

「なっ!?そんな!パンくらい食べるだろうが!」

「なんならクリスにも付けてみるぞ」

「えっ?」


 今度はクリスにも同じことをやってみることにしよう。困惑するクリスと聖剣を横目に準備をすすめる。この兵士に、俺に嘘が通じないことの証明を見せてやらないとな。クリスにも質問コーナーだ。


「第1問。あなたは昨日の夜はパンを食べました」

「いいえ」

「反応なしか」

「えっと、昨日はヒロシがカツ丼ってやつを作ってくれました。和食って言うんですね」

「そんな!?」


 兵士が焦りの色を隠せてない。


「第2問。あなたは俺に隠れて悪いことをしました」

「いいえ……」

「ん?ちょっと反応が?……クリス、よほどのことでないと怒らないが、何した」

「……ここに来る前、ヒロシが食べたかったアイス、食べました……」

「クリスぅ……クズノハが食べたって言ったのあれウソかよ!」

「ご!ごめんなさいっ!」


 全く、食い意地が張ってるんだから……。しかしこれである程度の確度があることがわかったな。


「な、なんでわかるんだ……トリックだ!なんらかのトリックだろ!」

「さあな。さて、どんどん質問行くぞぉ!」


 むしろトリックであったとしても、兵士の側の動揺は隠せない。これがサイコパスな形質を持つ人間や、ウソ発見器を知ってる人間ならばまだしも、未知の存在を前に自らの内面をバラされてどこまでついていけるのか。


「第73問!」

「やめろ!もういい!わかった!話せることなら全部話す!」


 パニックになる兵士。えー。ウソ発見器くんの活躍はこれからじゃないか。不服そうな顔の俺をクリスが冷たい目で見る。


「ヒロシ。何か忘れてますよね?」

「おう。こいつから洗いざらい聞くんだよな。ウソ発見器使って」

「目的と!手段が!逆になってますっ!!」


 アランみたいな言い方すんなよ。ほんとお前ら兄妹だな(血はつながってないけどDNAレベルで超近いって……)。しかしそうだった。思わず目的と手段を逆にしてしまった。マッドサイエンティストならたまによくあることだ。気にしないでほしい。


「そうだった。単刀直入に聞くぞ。ここに竜の卵、あるんだな?」

「ある」

「竜の卵を使って、何をする気だ」

「……死んだ家族を……生き返らせる……」


 兵士が妙なことを言いだしたぞ。おいちょっと待て。いくらなんでも竜の卵こいつで家族を蘇らせるとかムリだ。


「えっとヒロシ。竜の卵って、今のところ怪物作るのにしか使われてませんよね」

「そうだ。怪物の多くが有胎盤類のゲノム類似の配列持ってたがな」

「ヒロシに聞いてわたしも少しはわかってきたんですが、生き物の遺伝情報を使って個体を作ることはできるんですよね?」


 クリスの言う通り、それは体細胞クローンとして現実のものとなっている。人間でも作った作らないが問題になっているが、ある種の生物より人間のがクローン作りやすいんだよな。


「できるな。家族の体のDNAをベースにでもすればな」

「でもヒロシ、クローンを作ったからと言って……それって元の家族なんですか?」

「言ってやろうか?」

「やめろ!」


 兵士が頭を抱えて叫ぶ。俺はな、残酷なんだよ。こういうことには特にな。


「はっきり言ってやる。。双子や三つ子が新しく現れたからって、それは元の家族とはだ!」

「うわぁああぁぁぁ!!!」


 錯乱する兵士。ポリグラフの針が激しく振動する。


「大方お前ら、誰かに騙されてんだろうが。仮に身体を作ったとしてだ、脳の中の記憶とか体内の記憶はどこから持ってくんだよ。それが喪われたら同じ存在にはならん」

「はぁ……はぁ……」

「更にいうなら、元の身体と同じ遺伝情報、記憶を持っていたとして、それは本人か?」

「えっ?」

「コピーだよ。コピーとオリジナルは同じか?」


 聖剣は黙っている。俺も聖剣もそうだし、ある意味クリスもそうだ。よ。でも、だからって俺たちのオリジナリティが失われるのか?


「なぁ」

「な、なんだ?」

「お前らはさ、死んだ家族と別人のそいつらを、?」

「……」

「そこまでの覚悟があるなら、それはそれで俺はなんも言わん」

「ちょ!ひ、ヒロシ!?」

「だがな、。それをわかってほしい」


 兵士はうなだれたままだ。それは、連中には希望だったのかもしれない。でも俺に言わせれば、生命を弄んだ上、幻影の中で踊ってるだけだ。部屋から出てこれまでに聞いた奴らの情報をまとめる。


「反乱分子の連中、帝国から竜の卵奪ったのは、それが狙いか」

「……わたしには……わからないです……そこまで誰かを愛したり、喪った人を追い求めたりできると思えません。……ヒロシ……わたしはおかしいんでしょうか……」

「そんなことないぞクリス。人はな、誰かを愛したり喪ったりするとそうなるもんだ」

「喪ったり……そうか……」


 何故かクリスが背中から抱きついてきた。


「な、なんだよクリス!」

「ヒロシ……約束ですよ。この戦いで死なないでください」


 いきなり重いな。体重的な意味ではなく。


「善処するよ」

「それじゃダメなんです!生きて……生きて帰ってきてください……」


 目が潤んでいるクリスの額にデコピンする。


「あたっ!……ちょ、何するんですかぁ!」

「クリスこそだぞ」

「あっ」

「今クリスが死んだら、俺もあの連中と同じことくらいしかねない」

「ヒ、ヒロシ?」


 真っ赤になっていることが最近多いぞクリス。


「だから約束だ。生きて、勝つぞ」

「はいっ!」


 よし、いよいよ竜の卵を強奪させてもらうことにする。覚悟を、決めるときだ。

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