第72話 おっさ(略 ですがセカイ救う前に自分を救いなさい
死ぬ。
俺が死ねば、この世界が救われる。
……どこのセカイ系ヒロインだ。それヒロインの役どころでしょ!?おっさんが死んでもそれ美しくないでしょ!!セカイ系作者に土下座しないと(使命感)
「龍よ、それ本当なの?」
『おそらくはそうなるかと思います』
「マジかよ。俺の命でないとダメなのそれ?」
『他の方だとそもそも動かせないと思います』
「ちょいまち、何をだ」
……龍がしばらく黙り込んだ。そして、言葉を選ぶように慎重に語りはじめた。
『次元航行艇と付随システムのコントロール、そして一番重要なのが統一場接続空間転移砲の起動シークエンスです』
「アランじゃないけど言ってること半分くらい理解できない。統一場接続……って重力まで含めた大統一理論を使う前提か?」
『そうです。ある程度理解されている……これなら少なくとも動かすことは……』
なんだか理解できるような理解できないような話だ。そもそも何かを動かすのに理解している必要ってあるのか?目標をセンターに入れてスイッチ、でいいだろ。
「そもそも理解できてなければ動かせないってのが理解できない。別に理解してなくても動かすくらいできるだろ道具なんて」
『概念による、とは思いませんか?赤ん坊に使えない道具は多いですよね』
「なるほど。それは理解できなくもないな」
『ダイレクトブレインコントロールによるフィードバックですが、おそらく今の人類では……ですがあなたなら動かす程度なら』
なんとか話が読めてきた。脳によるコントロールの際、ある程度概念が理解できてなければまともに動かせない機械だということか。しかしこいつ使うと俺が死ぬのは納得いかんな。
「なるほど。ちょっとは理解できた。んで、なんで俺死ぬの?」
『このシステムの起動後の脳に与える影響ですが、通常の人間には耐えられないと思います。他の方法を検討した方が……』
脳に与える影響ね。真理見てしまって発狂でもすんのかな?
「悪い、ハカセ。二人がなにを言ってるのか全然全く理解できない」
「オーケーアラン。超簡単にかいつまんで言おう。アイオーンぶっとばす機械がある。ところがそいつは俺にしか使えない。おまけに使うと俺が死ぬ、たぶん」
「死ぬのか。それはハイやれとは言えないな」
「それもあるが、俺如きにセカイを託すのどうなんだと言いたい」
『アラン……貴方は元仲間のヒラガを犠牲にする覚悟はありますか?』
「……厳しいな。俺のパーティの連中なら喜んで差し出しそうだが、俺は……それに俺よりも……」
そうだった。もし俺が死ぬとか言い出すとだ。誰かの気配がする。俺が振り返ると、もう泣きそうになっているクリスがいた。
「なんで!なんでそうやって!いつもいつも!!」
「クリス……」
「居なくならないでって言いましたよね!ひとりにしないでって言ったよね!?」
くそ、なんだよこれ。どうしてこういうこと言うんだクリスは。死にたいとは思わないけど、無理に生きてたいわけでもない。なのにそういうことを言われると死ねないじゃないか。俺だって女の子の涙には弱いんだよ。
『……烙印の……いえ、クリスと呼ばせてください』
「……あなたが?龍……」
『ヒラガのことが、好きなんですよね』
「えっと……は、はい。……えっとでもそういうのじゃなくてなんというか……」
真っ赤になって手を振るクリスを見ながら、龍が微笑んでいる。……ストレートにこられたな。
『いいのですよ。だから、死なせたくない。世界に代えても』
「それは……はい。ヒロシのいない世界……いない……考えると死にたくなります。あるいは一生引きこもって過ごすかもしれません」
それはいかんだろそれは。俺より大事な世界なんてないし、そもそも引きこもるのもよくない。困ったもんだな。
『……そうですか。本当なら私がこの身に代えてもアイオーンをこの世界から滅さなければならなかったのに……アランとは違い、あなたは本当は勇者になるべきではなかったのに……』
「龍様、ヒロシを犠牲にせずにこの世界は救えないのですか?わたしじゃダメなんですか!?」
「クリスが死ぬとかそれこそ生きてても仕方ないだろうが!それなら俺が!」
思わずそんなことを口走ってしまう。そうか。俺は誰かが犠牲になるのが嫌なんだな。自分はそこに入ってないけど。だけど俺が犠牲になることで誰かが不幸になるのを考えないといけない。目の前で涙すら流すクリスを見るとそう思う。
『……ほんとうに、勇者に向いていない……』
まるで子どもを見る母親のような目でクリスを見る龍だが、その龍を見るうち、いくつか気がついたことがあった。
「ちょっと聞きたいんだが龍よ」
『はい』
「脳でコントロールしなきゃならんのはまぁ理解できた。たぶん俺が操作できるのも。でもふと思ったんだよ俺」
『何をですか?』
「別に俺一人で受け止めなくてもよくね?」
『はぁ!?』
「分散処理すりゃ良くねって言ってんの」
本当にこのバカなに言ってるのって顔されてるが、きちんと説明しないとな。
「つまりだ、『地球のみんな、オラに演算能力を分けてくれー』って言ってるの。人間はもちろん、知的生命体が他にもいるんだし、ドラゴンとかアンデッドとか」
『ちょっとなに言ってるのか理解に苦しんでいますが……そもそもどうやって分散処理を?』
「聖霊と魔力通信」
『……待ってください……聖霊の演算能力が……』
「演算能力のブーストならやれるようになったぞ。北の端まで行って来た甲斐があった」
龍が目を白黒させる。演算能力の向上が不可能だと思っていたんだろうな。
『アレはもうこの世界には無かったはずでは……そんな……』
「スピッツビルゲン島にあったぞそれ」
『……ふふ……ふふふふ……ヒラガ、あなたはことごとく私の思惑を超えてきますね』
龍が邪龍になったのかってくらい悪い顔をしている。だいたいそれラスボスの台詞じゃないか。
『……存外誰も死なずに行けそうですね。クリス、この戦いが終わったらそのヒラガ放したらダメですよ?』
「はっ!はい!!」
『クビに縄つけておくんですよ。こういう男はすぐどこかに行こうとしますからね』
「龍よ、なんかそういう経験でもあるのか」
そうだよアランもっと言ってやれよ。しかしそれは華麗にスルーされた。
『あとの問題はアポカリプスですね……アレだけは勇者と言えども勝てるとは思えません』
「確かにな。あんなのに勝てる人間いないだろ」
「龍様、そういえばアポカリプスが勇者の覚醒とか言っていたのですが」
『人間には無理ですクリス。龍の能力全てを持った人間でもない限りそれは事実上不可能です。かつて強制的に覚醒した者はすぐ命を落としました』
龍の能力全てを持った人間か……。ならばだ。思いついたことが、ある。
「龍よ、龍の力をアランやクリスが使えるというが、そこも逆に出来ないか?」
『というと?』
「龍の力を全て持った、人間の身体を用意すればいいんじゃないのか?」
『はぁっ!?そんな無茶苦茶な!?』
不可能ではないだろう。龍の能力を人間が使えるようにできるなら、人間をベースにした組織を作り、龍をそれに乗り移らせるのはアリでは?
「アランやクリスのゲノムならもう解析済みだ。あとは龍の全権能を保持できる身体をだな。可能性はあるのでは?」
『つまり私に人間と一体化しろと!?』
「あぁ。アポカリプスやアイオーンと戦う前にいなくなられても困るからな」
龍はしばらく考えこんでいる。やがて。
『いいでしょう。人間との融合を果たせば、この地にとどまれるわけですか』
「なっ……なんということを……ヒラガ、それは本気で言っているんですか?」
クリスとともに戻ってきた宗主にもそう言われてしまう。無茶は承知だが使えるものは全部出す。もうノーライフロードのような犠牲は出したくない(死んでない)。
「本気で言っている。アポカリプス攻略なしにアイオーン撃破はムリだ。上手くすればアポカリプスも俺が仕留められるかもしれないが、そのあとアイオーンと連戦できるか怪しい」
「なっ……待ってくださいヒラガ。アイオーンをどうにかする可能性が見えたとでも?」
「龍が手伝ってくれる以上、なんとかなりそうだ」
「ははは……ははははっ……教会の数千年を、終わらせられるのですか。私の代で」
乾いた笑いを浮かべている宗主には悪いが、決着をつけられないとこの世界は前に進めないだろ?
「あとは、竜の卵の入手だが。どのみちクリスの烙印消すのも龍の母体作るのも竜の卵ないとムリだ。反乱分子をそろそろ探さないと。あいつらどこ行ったんだ?」
「たしかに、全然姿を見せないですね」
そうなのだ。四騎士戦前から反乱分子が全然姿を見せなくなってしまった。どこに行ったのかさっぱりである。
「竜の卵入手はどのみち必須なんだけどなぁ……連中どこにいるのやら」
「確かに、困りますね」
ひとまず龍にはしばらくこのままの状態でいてもらうとして、竜の卵入手に向かわねばならない。でもどこだかわからない。俺とクリス、アランは無言で教会を後にした。反乱分子の情報が欲しい。
「俺はひとまず俺のパーティに戻る。反乱分子の情報あったら連絡する。またなクリス」
「はい、アランさん」
「またなアラン」
以前と同じように、アランは無言で、小さく手を振ってくれた。
「ひとまず戻るとするか」
「はいっ」
俺とクリスは研究所に戻ることにした。ん?なんで手を掴んでるんだよクリス。……もう、逃げるのはやめるか。
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今回のネタの「人間と龍の融合」については、漫画家の高野聖先生のアイディアを参考にさせていただきました。ありがとうございます。
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