第56話 おっさ(略 ですが猫に小判豚に真珠帝国にグアノですね


 せっかくタネを手に入れ、いよいよ帰還しようとしたのだが、ハルシュピアが待ち構えていた。ドラゴンは近寄らないように牽制しているが、正直なところ持たないぞ。船の方を見るとハルシュピアの群れが十重二十重だ。


「……ムダな抵抗はやめるか」

「えっ?ヒロシ?本気ですか?」

「まさかここで待ち構えているとは思わなかったぞ。船が拿捕された時点で俺たちの負けだ」


 ハルシュピアたちが降りてきた。やはり帝国軍の軍服を着用している。


「貴様がヒラガか?」

「そうだがそちらは?」

「帝国航空軍機動兵団だ。船は占拠させてもらった」

「そのようだな」


 困ったぞこれは。まともに脱出できる気はしない。一応いくつかの手はなくはないが、この数相手ではこちらの継戦能力に限界がある。クリスとドラゴンで銃撃しまくったとしても数で押し切られる。


「あの。えっと……」

「なんだ?」


 ビクッとしないクリス。たしかにこのハルシュピアのねーちゃん美人だけど顔怖いのは認める。でも勇者でしょきみ、負けんなメンタルで。


「えっとですね、何故ヒロシを?」

「ああ。そのことか。我が国に来てもらいたい理由があってな。詳細はヒラガには伝えるが」

「なんだよ?ほかの連中に聞かせられないのか?」

「そうだ。そもそも貴様、王国と揉めた上王国の船を奪ってここまで来たんだと聞いているが」


 おい国王てめぇやりすぎだぞ!そりゃそうしたら王国は悪くない、悪いのはあいつですっていえるけどさぁ。


「あんの野郎……」

「ひとまず我が島まで曳航させてもらう。ん?な、何故フ、フェンリルが!?」


 ハルシュピアがフェンリルを見てビビっている。たしかにでかいもんなフェンリル。


「ワレラガミチアンナイヲシタ」

「そ、そうなのか……」


 ひとまず俺たちはハルシュピアの案内の元、彼女たちの独立自治区まで連れて行かれることとなった。


「これはしかしどうしたもんだろうな」

「どうします、ヒロシ?」

「行くしかないだろう。最悪みんなとはここでお別れだな」


 クリスが俺の手を取り、こちらを見つめる。


「あ、あのっ。わたしはついて行きます!」

「いやそうされてもな」


 帝国で何があるかわからんぞ。あまり連れて行きたくはないところだ。そりゃ単純な戦力という意味では来てもらいたいけど。


「で、でも。わたしは……ヒロシの助手です」

「助手……そうだったな」

「だいたいヒロシは勝手にいつもどっか行っちゃって、それで死にかかったり危険な目に遭ったりするじゃないですか!」

「そこまでかぁ?」

「そうです!だからわたしがしっかり見張ってないとダメなんです!」


 お、おう。そうだな……外付け良心回路兼リミッター兼助手兼勇者がついてきてくれるのは助かるのは助かるが。むしろそれは帝国側との交渉次第じゃないか?来るなと言われたらそれはそれで仕方ない。


「まぁとにかく着いたら話そう」

「……そうですね」


 ハルシュピア独立自治区に近づいてきた。島の周りには水鳥たちが凄い数いる。なんじゃこれ!?クリスが驚きの声を上げる。


「す、凄い数!」

「おお。ここまでの水鳥がいるってことは地球環境はかなり改善されてるな」

「ふん。全く……」


 ハルシュピアの怖いねーちゃんが忌々しそうに白い岩肌をみている。


「ここなんでこんな海鳥いるんだ?」

「海鳥が襲われにくい環境だからだろう。我々ハルシュピアは鳥は食べないからな」


 同族ってわけでもないだろうが、そういう食文化ってことな。魚食べるんだろうか?


「さらに我々の祖先のハルシュピアは船を大量に沈め、ほぼ人間が近づけない環境を築いてきた」

「それでこの状態か」

「もっともこの島には資源という資源もない。かろうじて自治区を維持してはいるが金がない」


 なるほどな。金がないのはきついな。それで帝国傘下になったってことか。しかし俺の目の前にあるこれは俺の目には宝の山に見える。


「えっとヒロシ、この岩肌ってひょっとして」

「ひょっとしても何もない。全部トリの糞だ」


 ハルシュピアのねーちゃんに先に言われた。


「そうなんですね」

「あぁ。数千年単位で積み重なった忌々しい山だ」

「……宝の山じゃねぇか!!」

「えっ?」

「はぁ?」


 ほぼ同時に2人に冷たい目で見られる。……そりゃ普通に考えたら単なるトリの糞だしな。だが。


「おい貴様、この糞の山が宝だと?」

「そうだぞ。これだけの量があるってことは……リン鉱石がこれだけあるとしたら農作物がどれだけ……」

「農作物?」

「そうだ。クリス、魚って肥料として使われてるか?」

「えっと……一部地域では使われてますが……あまり普通ではないですね。運びにくいですし」


 それなら話は早いな。ここの宝の山、きっちり活用させてもらう。


「ハルシュピアのねーちゃん」

「変な呼び方するな。私にはセレナという名がある」

「ならセレナ。これを王国側との貿易につかわないか?」

「どういうことだ?」

「身もふたもないこというとだ、肥料になる」

「肥料?どういうことだ?」


 聖剣お前知らなかったのかよ。海鳥の糞石は、リンを大量に含む。この糞石の輸出だけで、働かずに暮らせるクリスみたいなニート志願者理想の夢の国だったが、鉱石が無くなって大惨事になったツバルの事例は有名である。さておき。


「……って誰だ今喋ったの?」

「私だ」

「けん?けんなんでしゃべるの?」


 聖剣がしゃべったショックで幼児退行したセレナはともかく、話を続けよう。


「だがさっきも言ったがこいつはカネになるぞ。なんなら俺が買って王国に売る。ロメリオ商会なら出すだろ」

「うんこ買うんだ……」


 そういうなよクリス。うんこ舐めるな(ス◯◯◯的な意味ではない)。


「リン自体が色々と使えるからな。考えといてくれるか?」

「私に言われても困るが、もし帝国から戻ってこちらに来ることがあれば担当者を紹介するぞ」


 よし!リン鉱石、ゲットだぜ!ヒドラの養殖にも役立ちそうだし、王国の農業が盛んになる。ムダにこんないいもの放置していた帝国には豚に真珠だ。ざまぁないな。


「相変わらず変なこと考えますね」

「そういうなよ。リン鉱石は農業だけでなく工業的にも使い勝手がいいんだ。だが、気をつけないとマックスウェルにどやされるなこれは」

「えっと、どうしてですか?」

「環境破壊につながる」


 リン系洗剤は洗浄力が高い性質があるのだが、大量のリンが水圏に流入して赤潮が発生した事例もある。


「下水処理設備を充実させないと、大変なことになる」

「そうですか」

「……待てよ、よく考えてみたらヒドラにでも吸わせればいいな」

「ヒドラの扱いが雑です……」


 確かにな。下水処理はヒドラにでも任せるが、そういやファンタジー世界、リン鉱石ってスライム辺りから上手くしたら取れないだろうか?


「さて、そろそろいいか?」

「ああ。帝国側に引き渡すのは俺と……クリスもついていっていいか?大事な助手なんだ」

「ちょっと待て。聞いていないぞ」


 セレナが少々驚いた様子を見せる。だが、ここは押し切りたい。


「こちらとしても最大限の譲歩だ」

「お願いします!一緒に行かないと、ヒロシが何しでかすか分からないですよ!」


 おいクリス!言うに事欠いて酷くね?


「……わかった。帝国にはそのように伝えておく」

「それは助かる。ところで、船はどうするんだ?」

「船の連中には用がないからな。王国にとっとと行ってもらいたい」

「ならセレナ、これを船長に渡してくれ」

「なんだこれは?」

「王国への言伝だ」


 こうなってしまっては仕方ない。まずは帰ってもらわないと始まらない。欲言えばタネを育てたりしてもらいたいものなんだが、そこまで要求するのは無理か。


「わかった、船長に渡しておこう」

「頼む」


こうして俺とクリスの旅はひとまず終わった。しかし、これから俺たちがなんで帝国に行くのか、まるで見当がつかない。帝国は俺に何をさせたいんだ?

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