第43話 おっさ(略 ですが世界は5分前に出来たとしてもログは残ってます



 前回までのあらすじ:クリスを奪還後、宗主をスタンガンでぶん殴った結果、宗主がダウンした。


 ……やべ、やりすぎた。頸動脈に触れてみると……脈はあるな。後遺症残んないといいけど。怒りに任せて殴ってしまったが、宗主も被害者だよな。……悪いのは寄生虫だしこれも寄生虫のせいにしておこうそうしよう。そんなことを思っているとだ。


 ……なんか耳から出てきた。気持ち悪い。


 もう数発スタンガン食らわすしかないか?むしろLSDだなやはり。気道だけは確保してLSD投入だ。どうやらこの寄生虫、幻覚を見ているようである。バッドトリップして出てきてくれるのはありがたい。


 宗主の身体から出てきた寄生虫をスタンガンで攻撃する。……黒焦げになった。寄生虫が身体から出切ったようである。……まだ息はしているな。宗主、すまん。


 それにしてもなんか寒いぞこの部屋。下から冷気みたいなのが漂っている。なんだろうか。しばらく部屋をウロウロしてみる。やっぱり底が冷たい。どうしたものだろうか。床に何かがある。扉のようだな。開けてみるか?


「……開けないでください」


 宗主がのびた状態のままこちらに顔だけを向けている。


「おう。……悪かった。身体は大丈夫か?」

「大丈夫なわけないでしょう……あんな電撃で殴っておいて……」

「宗主、あんたは?」

「やはりその分だと、されたようですね……私は……」

「とりあえず駆除できたかもしれないぞ」

「……冗談ですよね?」

「配下の大天使やクリスも寄生されてたから、クスリ打って駆除した」

「駆除」


 宗主が何か、気持ち悪いモノでもみるかのように俺のことを見る。


「リゼルグ酸ジエチルアミドを投与して」

「なんですかそれ」

「幻覚剤」

「幻覚……ハハッ……なるほど、あなたは面白いお方だ……」

「相手が精神を操作する系だから、こっちも精神に攻撃したらどうかと思ってな」

「かつての人間は、神との交信にそのようなクスリを使っていたとも言いますね」


 良く知ってるな。ネイティブアメリカンのシャーマンなどが、向精神薬を使って神としていたとは聞く。


「さて宗主、何故この扉を開けてはダメなんだ?」

「この下にアイオーンの一部があります」

「アイオーン?なんか配下の天使に聞いたがそいつが復活すると世界が滅ぶとかなんとか」

「滅ぶ……解釈次第ですがそうとも言えますね。かつての人類が作った生きた万能の演算機。それは本来の目的を果たせず、高次元の存在により変貌してしまいました」

「待て待て待て……生きた万能の演算機だと?そいつってまさかと思うがソフィアとかいわねぇだろうな!?」

「……何故、それを?」


 そういうことかよ!俺はのか!なんてこった!ここは地球だったのか!!畜生!


「知ってるもなにもねぇよ!そいつは俺が昔勤めてた会社が作ってた生体量子サーバだからな!あの時の事故はそういうことか!」

「ちょっと、なにを言っているのかわからないですが!」

「それは後で話す。だとすると今、生体量子サーバの冷却機構いかれてんのか?」

「今のところはなんとか持っていましたが……魔力消費量が急激に増加して……魔王城に爆発が起きて以降ですね」


 はいはいわかった俺のせいだよたぶん!とにかく冷却機能をどうにかしないと。


「電力消費が足りてないなら、発電機用意するしかないだろ。何かないのか発電設備」

「今ある冷設備はこの下のアイオーンと冷凍冬眠の方々のために使用しておりますが」

「冷凍冬眠!?まぁいい。とにかく、アイオーン復活を防ぐなら、冷凍冬眠してるやつ起こすとかどうだ」

「勝手に起こすのは……」

「馬鹿野郎このままいくとまたアイオーンに乗っ取られるぞお前ら。そうなったらどうなるんだよ」

「……アイオーンの思うままに世界は作り変えられ、最終的に世界は滅ぶと思います」

「具体的にどうなるんだよ」

「生物の根源を操作した怪物か跳梁跋扈し、激変した環境で人類はおろか地上から生物が生存できなく」


 ……アイオーン関係なくね?人類がバカだっただけだろそれ。


「昔の俺いた世界と一緒だろそれ。単に人類がバカだっただけで」

「そもそもアイオーンは人類を暴走させ人類を滅ぼし、新たな世界を作るつもりですからね」

「……なるほど。それであんたらはなるべくここの人類にのか。でもここはエデンと呼ぶにはちっと厳しくないか?」

「それは、そうですが」

「話を戻そう。対策は電力供給を増やすか電力消費を減らすかのどっちかだよな。根本的な問題はアイオーンが覚醒しそうなことだが」


 宗主はうなづいた。電力消費を減らすには冬眠者の覚醒とか必要だが、急にはまずそうだ。かといって発電機なんてどこにもなさそうだ。詰んだか?


「……アイオーンを倒すか」

「演算機と融合したアイオーンは再生する能力があるので、巨大な力での攻撃も危険です」

「核とか使ったらどうだ?」

「この世界をどうにかする気ですか!?」


 もう既に遅い。やっちゃったからなぁ……。さておき、この案も却下か。となると……。


「わかった。ならこうしよう」

「何をするんですか?」

「ダマすんだよ、アイオーンをな」


 宗主の案内で裏の端末ルームに入る。俺だってちょっとくらいなら量子サーバ用のプログラムだって書ける。スクリプトキディに毛が生えてるくらいだけどな。


「騙すってどういうことですか?」

「この世界を奴が認識していることにするが、実際にはズレた状態にさせてやるために、スタブってやつを食わせる」

「スタブ?」


 スタブとはプログラムのモジュールの下部モジュールのテスト用代替品である。生体量子サーバの入出力部はアイオーンだって使ってんだろうよ。だったらそのまんま悪用させてもらう。


 ルート権限はが抑えてたがこっそり裏で入れるようにしておいて正解だったな。内部時刻見て驚いた。15487年……西暦だとしたらこれは……そもそも俺は死んでるようなもんだし帰っても来れなかっただろうな。ようやく過去との決別ができる。


 ディレクトリを掘っていくと良さげなログを見つけた。こいつをスタブに食わしてやってだ……量子サーバとはいえ量子もつれが際限なく再現されるだろうよ。


「よし。これで延々と核爆発直前の5分を再生することになるぞ」

「なぜその時間を?」

「それ以後のデータは残ってない。あとここから電力消費が増えているんだ。ここまでならなんとか止められるんじゃないか?」

「試してみる価値はありそうですね」


 一発勝負するのは怖いが、このままだとこいつ復活するしな。一応ドライバで動作だけ確認してみる。うまくいってくれ。


 ……五分ほど経過すると、更に周囲が寒くなってきたぞおい。


「これって……どういうことだ?」

「成功したようですね」


 一発勝負だといったが、成功するとなると背筋が寒くなるな。……寒いのは物理的な気もしてきたが。


「これならもうあの寄生虫どもはでてこないだろうな」

「そうだといいんですが。これでもう何も起きないということですか?」

「ごまかしに過ぎないんだがな。いずれまた再発する可能性は高い」

「何故?」

「量子サーバの性質上、この状態を安定させ続けるのは困難だからな」

「……どのくらい、持ちます?」

「持って2年」


 最悪の事態こそ回避できた。しかし……俺たちは浮かない顔で外にでてきた。どう説明したらいいんだろうか。


「宗主……ご無事でしたか!?」


 配下の天使たちや兵士たちが宗主に駆け寄る。


「え、えぇ無事でしたよ。アイオーンからこちらのヒラガが助けてくれまして」

「なんと!?」

「そうそう、アイオーンが作り出した私の偽者がクリスさんと婚姻をせまったらしいと聞いています」

「そうだ。婚姻はともかく、勝手に仕事辞められるの困る」

「とヒラガも言っていますしね。これを」


 宗主が、持ってきてもらった婚姻の手続きの書類をビリビリと破く。クリスも復活したようだが何か複雑な顔をしている。


「クリス、もう大丈夫なのか」

「えっと、はい。でもなんかイヤな気分になります」

「宗主と結婚したかったのか?」

「そうじゃないですけど、未婚なのにバツイチになった気分です……」

「まぁ人生色々あるから、未婚でバツイチになることだってあるさ」

「あまり無いと思います……」


 ほぼ諦めたように呟くクリスに、何やら一同が同意する。あのなお前ら。なら結婚するのか?いやなんかイヤなのはわからないでもないが。アイオーンの危機は去ったが、色々と問題は残ったまんまだよな。とは言ってももう俺たちもクタクタだ。解決までに数ヶ月かかったような気分だ。話し合いは後日にすることに一同同意した。だって疲れるだろ話し合いは。


 俺とクリスはドラゴンに乗って、さっさと研究所の方に帰ることにした。やっと帰ってこれた。クリスの烙印とか色々やらないといけない研究も山ほどある。


「さて帰ってきたから遅れを取り戻すぞ!今からやるかぁ!」

「わたしは今日は休んでいいですか?」

「そうだな。無理しちゃダメだ」

「そうだヒロシ。今日ってチョコの守護聖人の日って知ってました?」


 チョコの守護聖人?なんか混ざってるぞおい!部屋からクリスが箱を持ってきた。


「はい、どうぞ」

「お、おう。ありがと」

「それじゃわたしは休んできます、おやすみなさい」

「お、おやすみ」


 俺はちょっと挙動不審きょどっていたに違いない。人生初チョコははるか未来か。チョコ自体は結構美味しかったです。






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