第44話 おっさ(略 ですが自然派団体とイケメンに嫌われた上無残に死にました




 ここが地球だというのは俺にとってかなりの違和感がある。というのも俺はこの世界にした際に物理定数を色々調べていたのだが、そいつがどうも地球と微妙に異なる値だったからである。故に俺は地球以外に転生したと思い込んでいた。


 おまけに俺の知らない未知のバクテリアの存在だ。制限酵素とかDNAポリメラーゼとか採取するのに、既知のバクテリアと違うバクテリアから採取するハメになっていたし、だからこそここは異世界だと思っていた。


 星の位置とかが異なるのはまぁありうることだ。ここは俺が死んだ時からするとはるか未来なんだから。まぁしかしロクでもない死に方だったな。そのロクでもない死んだ時のことを思い出した。


 話は俺がこの世界に来る前に遡る。


 俺は今、目の前にいる団体からどうやったら逃げられるか真剣に考えていた。みんな同じシャツを着て、同じ髪型をしている。なんとなく発現レベルで相関があるんじゃないかという気もする。それくらい似ている。しかしさすがにクローンである可能性は低いだろう。何しろ彼女たちは『遺伝子操作に反対するナチュラルな市民の会』の皆さんで、あくまで血縁関係はないはずだからだ。なんでそんなことがわかるのか、シャツに書いてあるからだ。


「それで、わざわざ抗議に来られたのはウチの会社の営業妨害のためでしょうか?」


 それくらいの皮肉は言わせてもらいたい。実際のところ、今は昼休みなので営業時間外ではある。それにしたってなんだって俺なのかよと。腹減ったんだよ飯くわせろコンビニおにぎりを。


「営業妨害?むしろあなた方のやってることが健全な地球環境を破壊する行為ですわ!」


 そう金切声で言うんじゃねぇよ、鼓膜痛いんだよ。


「地球環境ねぇ……生きてるだけで環境破壊続けてる人間さまがよくおっしゃる」

「っ!人を馬鹿にするようなことをいって」

「それじゃお伺いさせていただきますがね」


 耳をほじりながら横目でといかける。あ、耳くそとれた。


「この中で途中の経路でクルマを使った人います?はい手をあげてー、あ、いる」

「でも私のクルマはハイブリッドカーで……」

「製造のコストがかかるでしょうが。製造のコストは環境コストでもある。それに火力なら二酸化炭素出すのに違いはない」

「な、な、なにを」

「いまね、ここで研究してるのは二酸化炭素を太陽光が強い時に固定するC4サイクルがない植物に、ゲノムレベルで組み込む研究で」

「わけのわからないことを言ってんじゃないわよ」

「勉強しろよ大人なんだからよ」


 環境保護団体の顔色がどんどん赤くなる。そりゃそうだな仕方ないな。なんとなく周囲の気温も上昇してる気がする。地球温暖化加速してるな。


「とにかくこちとらあんたらがちまちま出してる二酸化炭素をせっせと取り込む研究してんだよ」

「しかしそんな植物、この地球上にはないんでしょう?そんなの作ったら地球環境が……」

「もともと人間のせいでぶっ壊れた地球環境なんだからよ、ちまちまやってもなおんねぇよ」

「そんなのエネルギーの節約して……」

「節約節約って、地球上に何人人間いるんだよ?そいつらがちまちまとはいえエネルギーつかえば環境は悪くはなるだろ?そうだこの中に反原発もいるだろ、テレビで見たことあるぞ」

「原発に反対なんて当たり前のことでしょうが」

「廃炉するまで冷温停止?その間にかかる電気はどうやって作るんだよ?二酸化炭素出して作るの?」

「次から次から屁理屈を」

「だがそれは正しいモノの見方だ、ってもんだろ」


 屁理屈から先に生まれた男だと上司によく言われるが、実際問題俺は子供の頃から屁理屈ばかり言って親を困らせていた。


「いい加減にしないとあなたの会社に対して圧力をですね」

「やってみれば?録音はしっかりしてるからな。ていうかそれほぼ脅迫じゃねぇか。訴えるか?あ?」

「そこまでにしておけ」


 済ました顔で出てきやがったよ……これだからイケメンはムカつくんだよ。


「なんだよいいところなのに」

「これはこれは皆さま。ようこそおいでくださいました」


 俺のいうことを聞かずにイケメンは講釈を開始する。


「なんですのあなたは」

「私も弊社にて生物を進化させる仕事をいたしております」

「同類でしょ」

「いえいえ、私どもはそこのカスとは異なります」


 そこのカスって、おまえ言うに事欠いて酷いことをいうな。そうなんだよ、こいつイケメンだけど精神はゴミクズなんだよ。


「生物を進化って、遺伝子をいじるんですよね?」

「いえいえ、私どもは大自然の中でオーガニックに進化した植物の中から、求めている要素を厳選して取得して皆さまのような意識の高い方々にご提供しているのです」

「あら……?遺伝子組み換えは行ってないのですか?」

「ええ全く。私どもは南米のオーガニックに育てた農場で数多くの植物を扱っており、そこで自然に生まれた有益な要素を厳選しているのです」

「ブラジルの高レベル自然放射線源の近くで、植物に発生した突然変異を利用したゲノム育種のことを、言い方ひとつで随分エコでロハスにでき……おいバカ蹴るな」


 イケメンが俺の太ももを結構ガチに蹴り込んでくる。モノの見方ってそういうもんだろうけど、おまえ絶対マルチまがい商法とか主催してただろ。周囲を見てみるとナチュラルな市民の会の皆さま、イケメンにメロメロになってるじゃねぇか。単純だなぁ……結局のところ人間顔かよ。なめとんか。


「というわけで弊社はこれからも皆様のような、自然や身体に対する意識の高い方々にもご理解を頂ける研究を進めさせていただいて行こうかと」

「そういうことでしたら、ねぇ」

「えぇ、また伺ってもよろしいかしら?」


 おいおいイケメンどうすんだよ、意識の高い系のオバ……女性の皆さんがお前をlock-onしてんじゃねぇかよ。


「えぇ。皆様がよろしければお茶などいかがでしょう」

「え?マジで?お前オバ……熟女専かよ!っていってぇ!!!」


 クソお前本気で廻し蹴りかますんじゃねぇよ!折る気で蹴ってきたな!残念だったな、ガードくらいはさせてもらったぞ。


「そこの家庭内害虫のことはさておき、是非近々伺って頂ければ。その際には弊社がいかに自然との調和をもたらしているかをお話しできるかと」

「そうですの。しかしそこの人みたいなのもいるんですよね?」

「ああ、そのことでしたら大丈夫ですよ。皆様の不安になるようなことはありません」


 なんだよ、こっちが不安になるじゃないか。


「それでは、私はこれで」

「おいちょっと待て」

「なんだ」


 さっきまでのにこやかな表情から一変して、イケメン、人を3桁くらい殺したことがあるヤツの表情でこちらを見ている。


「さっきのはどういうことだ?」

「知らなくていいことだ」

「なんだそれは」

「そろそろ昼休みが終わるぞ」

「ん?あぁ」


 そのままヤツは俺が会社に戻るまで、人殺しの顔でこちらを睨んでいた。


 午後から仕事をしようとしたときである。俺は上司に呼び出されて、地下の生体量子サーバに向かっていた。実験段階ではかなりの演算速度ではあったが、問題点も山のようにある。排熱もハンパないし、おまけに電力消費も大変なものだ。


「挙動がおかしい?」

「そうだ。この量子サーバだが、外部へのアクセスは無いはずだよな」

「将来はネット等に繋げるようにはしていますが」

「あぁ。だが今のところはスタンドアローンだろ?それなのに、どこかからかアタックを受けている……」


 ありえないだろと言いたいが、実際ログ見るとアタックを受け続けている。信じがたいが現実だ。(今となってはわかる、アイオーンのアタックはこの時発生していた)


 ひとまず量子サーバへのアタックパケットを全部遮断しておいた。あとは攻撃元だが……


「社内?しか無いわな」

「しかしこの部屋、自分は知らなかったんですがなんですか?」

「ここか?冷凍冬眠の研究施設だ」


 まさか、そんなもんが現実にできるわけがないだろう。俺はそう顔に出していた。


「冷凍冬眠というと語弊があるな。正確には人間の構成原子の位置を量子サーバで保持するというものらしい」

「そんなことが可能ですか?」

「不安定な状態でないならそっちの方が効率がいいんだと」


 なんともまあ技術の進歩に呆れるやら感心するやら。そんなところで何をやっているんだあのイケメンは?とにかく部屋に向かってみるか。


 そう思って冷凍冬眠室に入った途端。


 突然落とし穴に落ち、そして俺は液体の中にぶち込まれた。なに……しゃ……がる……そのまま俺は意識を失おうとしていた。ただ、最後に奴が言おうとしていたことが引っかかる。


「これで……人を神の領域に到達させる手段が、揃いましたね。家庭内害虫も役には立つことがあるとは……」


そうか。こいつが……繋がったな……。もしあいつがこの世界に(どんな形かはともかく)いるなら、とりあえず一発くらい殴っておきたい。




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