おっさんマッドサイエンティストですが勇者パーティに追放されたのでのんびり研究生活します

とくがわ

第1話



「ハカセ、悪いがこのパーティを抜けてもらう」


 勇者のアランが俺に解雇クビをいい出したのは、俺が魔王城を核爆発で吹き飛ばした後だった。魔王?死んだんじゃないか?膨大な経験値?とやらが俺に加算されたらしく、俺の身体に凄まじい力が漲っているのがその証拠といえなくもない。


「何を言ってんだ?いや、魔王倒したんだし別に構わんが」

「聖剣も、聖霊様も、何にも見つけてないのにどうしてこうなったんだ……」

「だいたいなんなんだあの巨大なキノコみたいな雲は!お前人間じゃないだろ!魔人か!魔人なのか!?」


 魔人扱いされてるけど、あんなの高校生でもできるといえば出来る。


「材料があるなら原爆って作れるかなー、と思ったら存外できたな」

「げ……原爆?なんだそれは」

「ある種の不安定な原子が分裂して別の原子になる現象を利用した、爆弾だ。まさか魔王の結界とやらがこんな脆いとは思わなかったが」


 臨界起こせるレベルのウラン鉱脈があったのは、実にラッキーだった。しかし、魔王の結界、無敵の結界みたいに言っていたから核爆発程度こらえるだろうと思ったが、実に拍子抜けである。残念すぎる。


「おまけに瘴気までなんか吹き飛んでるんだが」

「上昇気流で天空に持っていかれるかと思ったが、ちょっと熱線浴びせたら無くなったな。根性なさすぎるだろ瘴気」

「ちょっとじゃないだろあれ!」


 パーティメンバーに蛇蝎のような目で見られるのには慣れているつもりだが、今回はそれを通り越してバケモノを見る目で見られている気がする。そんな大したことしてないつもりだが。


「だいたいお前はこれまで何をしてきた?」

「何って、ちょっと毒ガスで魔物殺したり、魔物の弱点の銀化合物で幹部暗殺したりしたくらいだろ」

「それだよ!おっさんのせいで俺たちまで危険人物扱いだ!」


 えー。そんな大したことか?この世界の魔法技術とか使えば、割と簡単に再現できると思うレベルのことしかしてないぞ。


「と!に!か!く!もう魔王は死んだ!世界は平和!お前みたいなのもう要らないの!わかる!?」


 アランにはそうは言われたが、俺にはこれから王国に襲いかかる人類という敵をバッタバッタと攻め滅ぼす仕事か残っているのだ。死なない程度に。


「いや、これから人類と人類の闘いがあってそれに我が王国を……」

「そういうのもういいんだ!やめろよ!」


 戦士のテリオスも半泣きになっているな。魔王が滅んだのが嬉しいんだろう。そのはずだ。


「何故だ。これから次々と王国に敵国が襲いかかって来るだろうが。それに……」

「あのなおっさん!そんな事態以上の問題が全人類にはあるんだよぉ!!」


 盗賊のグリルがなんか叫んでいる。王国と他の国の戦争の可能性より大きな問題って、いったい何なんだ。


「おっさんの存在なんだよ!あんたが存在すること自体が!人類の危機なんだよ!!」

「何故だ」

「何故だって……おっさん……何やってきた!あんた!暗殺者に変な毒盛ったろ!」

「別に毒じゃないぞ。かぶれる系の草から有効成分を抽出して局部にかけ……」

「お前には人の心はないのか」

「暗殺者相手に殺さないんだからかなりあるだろ」

「なんでそんなことができるのかも気になりますが……」


 存在感と頭髪の薄い僧侶のシオンにも冷たい目で見られている。


「簡単な電気回路でトラップ作っただけだぞ。まだまだそんなもんしか作れないし。触らなければいいと思ってるダメ暗殺者が全部悪い」

「えぇ……」

「そもそも、なんで襲撃されたかわかってますか!?」

「それは王国を狙う帝国の……」

「お前が!お前が存在してるから危険なの!だから王国も帝国もみんなお前を暗殺しようとしたの!でもみんなチン◯カイカイにされたの!」


 またアランが切れている。俺は干し小魚をアランに手渡した。カルシウム不足は精神状態の安定に関係しないというが、DHAは精神衛生に関係するという研究がある。ボリボリと小魚を齧るアラン。少しは落ち着いたようだ。


「はぁ……というわけでだ!お前は!俺のパーティ辞めたら!なるべく!この世界で大人しくしてくれって言ってるんだ!」

「何を勝手なことを」

「やりすぎなの!わかる!?普通の人はそんなことしないの!変なことするのは勝手だけど!迷惑を!人類に!かけるな!!」


 ふむ。ちょっとだけわかった。わかったが、それは俺の存在意義アイデンティティの全否定だ。しかしそうは言っても、俺にだって人としての情くらいはある。少しは。


「はぁ……わかったよ。アラン。そこまで言われたら仕方ない。パーティ抜けさせてもらうぞ。表立っては俺は何もしないことにする。その代わり暗殺者とかよこすのをやめろ。来てもチン◯カイカイにするだけだが」

「それだよ!それをやめろよぉ!」

「別に殺したり洗脳とかしてないんだからいいだろ」

「ダメだこいつ……早くなんとかしないと……」


 全く、どいつもこいつも人のことをバケモノみたいなこと言いやがる。こちとら単なる一般市民じゃないか。


「それにだ。お前そろそろ気がついて欲しいんだがな。お前が魔物を絶滅させかねない勢いで大量虐殺した結果、お前を殺せる人間はおろか存在なんてこの世界にはもういないんだ。お前は強くなりすぎたんだ」

「は?」


 俺は変な顔をしていただろう。いくら魔物を倒せば強くなれる世界だからって、さすがにそれはないのではないか?


「遠距離からの弓の狙撃、首筋に撃った矢が普通に弾かれたのを見て引いた」

「一昨日のアレ、蚊じゃなかったのか……」


 ちょっとだけだが、俺は自分の置かれた立場を理解できたきがする。どうやら俺は魔王と同等、いやそれ以上の危険な存在扱いされているらしい。さすがに俺は自重しないといけない気がしてきた、ちょっとだけ。


「わかったか。じゃあな」


 アランたちは俺を残して去っていこうとする。俺はとりあえず、勇者に一言だけ言ってやることにした。


「アラン」

「なんだ」

「身体には気をつけてな」


 アランは振り向かなかったが、小さく俺に手を振ってくれた。他の連中は全然振り向かず、手すら振らないでどんどんと俺から離れていく。


 残された俺は、しばらくボーッとしていた。はるか遠くの魔王城だった瓦礫を見つめることしか俺にはできなかった。

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