第4話 仮想通貨

 思いを更けていたら、いつの間にか、寝てしまっていた。

 もう、夜の11時だ。

 風呂に入るのも、夕飯を食べるのも、めんどくさいので、部屋に置いてある、スナック菓子と、飲みかけの麦茶のペットボトルで、その場をしのいだ。

 

 そして、勇太は、パソコンで、インターネット上のトレンドは何かを調べていた。

 今までは、学校生活が忙しく、最近のIT事情やその話題から、遠ざかっていたからだ。

 

 なんでも、カワダコイン等の暗号通貨がブームらしい。

 日本では、仮想通貨というのか。ややこしい。

 (カワダコインか……懐かしいな)

 と、勇太は思った。

 カワダコインとは、コウヘイ・カワダ (Kohei Kawada) を名乗る人物によって投稿された論文に基づき、作成者にちなんで「カワダコイン」と命名、2009年に運用が開始された。

 (コウヘイ・カワダか……正体不明らしいが、今にして思えば、コウヘイって、父さんと同じ名前じゃないか……まさかな)

 勇太は、そう思い、コウヘイ・カワダのことについても調べてみた。

 

 コウヘイ・カワダ(ラテン文字表記: Kohei Kawada)は、カワダコインプロトコルと、そのリファレンス実装であるカワダコインコア(KWDcoin Core/KWDcoin-Qt) を作ったことで知られる人物の称する氏名。

 本名であるか、そもそも個人であるかどうかを含め、正体は不明。

 公式には漢字表記は存在しないが、一部において川田幸平という表記で言及されることがある。

 

 (漢字は違うみたいだし、別人だろう。それにしても、父さんはどこに行ってしまったんだ?)

 そう、父親「山村 浩平 (やまむら こうへい)」は、5年前、勇太の前から、姿を消したのだった。

 もちろん、母親は、すぐに捜索願を出したが、成人ということもあり、警察は、浩平を一般家出人として、警察本部のコンピュータのデータベースに写真や個人情報を登録しただけあった。

 手掛かりは何もなく、唯一残していったものは、浩平が使用していた、パソコンだけであった。

 過去に勇太は、浩平のパソコンに電源を入れ、起動させようとしたが、パソコンのBIOSにパスワードがかかっており、OSの起動ができなかった。

 再度、勇太は、浩平のパソコンを分解し、内蔵ハードディスクを取り出して、データだけも閲覧しようとしたが、ハードディスク自体、暗号化されており、閲覧することすらできなかった。

 あれから、5年。いまだに、手掛かりが見つからず、現在は、母親が仕事をしてて、何とか生計を保っている。

 

 実は、勇太も多少のカワダコインは持っている。

 浩平がいなくなり、浩平のパソコンを分解したりして、もっと、ITのことを調べてくうちに、カワダコインの存在を知った。

 そして、自分のパソコンでマイニングを行っていた。

 マイニングとは、自分のパソコンで複雑な計算と取引記録台帳(トランザクション)に書き込む作業とほかのトランザクションに不正がないかを確かめる作業のことだ。

 それにより、報酬が得られるということである。

 当時は、普通のパソコンでマイニングをしても、多少の報酬が得られた。

 今は、専用の機器だったり、高価なパソコンだったりしないと、採算が合わない。

 勇太は、マイニングしたのはいいが、単にカワダコインの数が上がるのが面白かっただけで、使い道がなく、パソコン上のウォレットアプリケーション(KWDcoin-Qt)に入れているだけだ。

 現在は、マイニングはしていない。

 電気代が、数か月間高くついた理由がマイニングだったので、親に怒られたのもあるが、単に飽きたからだ。

 非常に飽きっぽいのだ。

 熱しやすく冷めやすい。そんな性格だ。

 

 未成年の勇太でも、親の同意書があれば、仮想通貨を法定通貨(現金)で売買できるみたいだ。

 親か……

 母親は、今の状況で、許可を出してくれるだろうか?

 

 久しぶりにカワダコインとなる名前を聞いて、さらにブームということは、1カワダコインは、いくらになるんだ?

 勇太はインターネットの仮想通貨取引所でカワダコインの価格を調べてみたら……

 1カワダコイン=100万円!?

 勇太は、いくら持っているか確認するために、急いで、パソコンに入っているウォレットアプリケーションのKWDcoin-Qtを久しぶりに起動したら、正常に使用するには、最新のバージョンに更新しなければならなかった。

 勇太はKWDcoin-Qtのダウンロードページに行くと、今は、KWDcoin Coreに名前が変更されていた。

 最新版をダウンロードして、インストールを行うと、旧バージョンとの互換性がなく、旧バージョンをアンインストールしないといけなかった。

 KWDcoin-Qtのウォレットデータを別のハードディスクにバックアップを行い、KWDcoin-Qtのアプリケーションをアンインストールを行った。

 再度、最新版のKWDcoin Coreをインストールを行った。

 KWDcoin Coreを起動すると、最初にすべてのトランザクションの同期しなければならかった。

 カワダコイン開始当時(2009年)からのトランザクションをすべてダウンロードし同期を行わなければならない。

 ダウンロード容量は、約300GB。

 さすがにメインのハードディスクでは、持たないので、データは別のハードディスクに変更し、ダウンロードを開始させる。

 同期完了までの予測時間、約25時間と表示されていた。

 これは、かなり時間がかかりそうだ……

 

 まさか、あのカワダコインがブームになっていたとは。

 それだけ、勇太は、ITの世界から、離れていたのだ。

 

 トランザクションの同期している画面をぼーっと見ていたら、スマホの通知音が鳴り響いた。

 メッセンジャーアプリで

 「土曜日に遊びに行くねぇ」

 と書かれていた。

 差出人は、中学時代の友達からだった。

 (こんな夜中に、よく連絡するよな)

 そう思いながら、勇太は、

 「部屋はいつも通りだけど、それでいいなら、来てもいいよ」

 と返信した。

 

 連絡が来てからも、いろいろ調べていて、わかったことがあった。

 最近は、カワダコインの保管方法で、流行りなのは、コールドウォレットらしい。

 一般的に仮想通貨の財布(ウォレット)は、仮想通貨取引所やパソコン内、もしくは、スマートフォン内に格納されている。

 コンピュータウイルス(マルウェア)に感染した場合、秘密鍵が盗まれることがある。

 秘密鍵が盗まれると最後、勝手に送金されてしまうのだ。

 

 コールドウォレットとは、物理的に仮想通貨の秘密鍵を格納し、ネットワークから分離できるウォレットのことである。

 世間一般に言う、金庫の鍵と思えばいいだろう。

 送金作業するときのみ、秘密鍵を取り出して、パソコンやスマホ等に秘密鍵のデータが残らないようになっている。

 

 まぁ~1カワダコイン100万円ならそうだよな。

 勇太がマイニングしたときは、確か、1カワダコイン=663.24円。

 当時、それで騒いでいた記事を発見したが、あまり興味がなかった。

 あと、使い道も少なかったため、そういうセキュリティの装置等はなかった。

 ハードウェアタイプのコールドウォレットは非常に高価。

 なので、偽物もあり、正規店より少し安く手に入れたコールドウォレットは、マルウェアや、あらかじめ秘密鍵を業者が所持していたりして、カワダコインの秘密鍵が盗まれて、勝手に送金させられたという事件もあった。

 高校生の勇太には、そんなお金はない。

 多少のカワダコイン持っていても、法定通貨ではないので、実質無一文だ。

 だが、多少のカワダコインでも、今となっては、非常に高価だ。

 このまま、パソコンの秘密鍵で置いておいたら、万が一マルウェアに感染してしまって、秘密鍵が盗まれる可能性があるということだ。

 

 ただ、無料でできる、コールドウォレットがある。

 ペーパーウォレットだ。

 ペーパーウォレットとは、文字通り、紙でできたウォレットであり、その紙に公開アドレスと秘密鍵がプリントアウトされているのだ。

 公開アドレス宛に、カワダコインを送金すれば、この紙の秘密鍵がない限り、カワダコインを勝手に送金させることができない。

 送金作業するときのみ、パソコンやスマートフォン等で秘密鍵を直接入力するか、カメラでQRコードを読み込ませて、作業を行い、その作業が完了したとき読み込ませた秘密鍵を削除することで、もし、パソコンが盗まれても、秘密鍵を盗まれる心配がない。

 安価にできる、コールドウォレットだ。

 ただし、弱点もある。

 紙なので、火に弱い。また、経年劣化で読めなくなる可能性がある。

 あと、コピーが容易であり、写真で撮られただけで、簡単に盗まれてしまう。

 あと、秘密鍵を入力するときに、知らぬ間にマルウェアに感染していて、秘密鍵を入れた瞬間に奪われる可能性がある。

 なので、送金作業を行う際には、慎重に行わないといけない。

 ペーパーウォレットの作成時も重要だ。

 作成する際は、必ず、オフラインになっていることを確認してからでないと、表示されている秘密鍵が勝手に送信される可能性があるかもしれないからだ。

 

 勇太は、そういう弱点を理解し、慎重に、作成できるWebサイトを見つけ、ペーパーウォレットを作成し、プリントアプトを行った。

 

 また、スマートフォンに「ユニバースカード」というアプリをインストールすれば、仮想のクレジットカード(プリペイドカード)ができて、チャージをすれば、ネットショッピングできたり、ネット上でクレジット決済が必要な時に使える。

 チャージは、現金のほかに、キャリア決済、コンビニの端末、クレジットカード、ネット銀行、銀行ATM、そしてカワダコイン。

 さらに、実店舗で使えるリアルカードも、有料(300円)であり、申し込めば、手に入れることができる。

 そのアプリをインストールして、電話番号認証やを行い、バーチャルプリペイドカード画面が現れた。

 勇太は

 (カワダコインでチャージしたら、リアルカードを申し込もう)

 と思いながら、カワダコインの送金方法も調べた。

 マイニングするだけで、だれにも送金したことがないからだ。

 

 興味がなくなっていたので、いろいろ忘れているのと、進化しているところもあったので、基本的なところも調べてみた。

 日本の仮想通貨取引所が倒産して、カワダコインが盗まれた事件。

 最適な、送金手数料の計算方法やトランザクションのアドレス追跡方法等を調べたりもした。

 

 そして、翌日の朝(6月2日)になってしまった。

 さすがに眠くなり、ベッドで眠ってしまった。

 その日は、昨日の疲れもあってか、そのまま眠り続けてしまった。

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