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カワダ・コウヘイ

第1話 停学

 「殺してやる!」

 

 6月1日、体育館に響き渡り、山村 勇太(やまむら ゆうた)と施 昭夫(し あきお)の周囲のクラスメイト達が時が止まったかように、凍り付いた。

 勇太の細い腕には、刃渡り15cmくらいの割と本格的なナイフを握りしめていた。

 

 以前から、2人の仲は悪い。

 ここ最近になって、2人の仲は、さらに悪くなり、面が会うたびに、にらみ合いが始まり、取っ組み合いが、始まることもしばしばあった。

 体の細い勇太は、いつも負けてしまう。

 勇太は勝つ方法を考えた。そして、行きついた答えが、ナイフで昭夫を刺すことだった。

 勇太は、体育の授業が始まる前に、みんなが着替えて出ていった後、ジャージの中に、鞄から、ナイフを忍ばせて、体育館に向かったのだった。

 体育館では、先生がまだ来ていなく、クラスメイト達がふざけてたり、はしゃいでいたりして、勇太の存在をクラスメイト達が認識していないときに、勇太が昭夫に向かって、忍ばせていたナイフを取り出し、言い放ったのだ。

 

 勇太と昭夫の間は、わずか3m。

 今の状態で勇太が踏み込めば、刺せる位置だ。

 周囲のクラスメイトの一人が、

 「そんなことやめろよ」

 と、勇太のナイフを持った手をつかんだ。

 勇太は、自分が何をしているかを認識し、手から、ナイフが落ちて、茫然としていた。

 そして、昭夫は、勇太に向って、頬を殴った。

 勇太は倒れ、その後、体育の先生が来て、事態の収拾に取り掛かった。

 幸い、スマートフォン等の貴重品は、一つの袋にまとめられているため、その状況をカメラで撮ったものはいなかった。

 勇太は、生徒指導室、昭夫は体育準備室に移送された。

 

 それぞれ事情を話し、しばらくの間、勇太と昭夫は、その場所に留まっていた。

 しばらくし、勇太は、学年主任の先生と一緒に校長室に向かった。

 校長室には、勇太と、学年主任の先生のほかに、昭夫と昭夫の母親、担任、そして、校長先生がいた。

 勇太の親は、来ていない。

 しばらくすると、

 「すみません!遅くなりました」

 勇太の保護者、つまり、勇太の母親が校長室に飛び込んできた。

 勇太の母親は、昭夫の母親にお詫びのあいさつをし、先生たちにもお詫びのあいさつをした。

 話し合いの末、学校の配慮もあり、公にしないことを条件に、勇太と昭夫は、2週間の停学処分を受けた。

 当然、ナイフは没収された。

 そして、その後、勇太と昭夫は握手し、停学期間に入った。

 

 その後、勇太は、母親の軽自動車で帰ることになった。

 帰りの車内で、母親は、

 「勇太。まぁ気持ちはわからないでもないけど、あの時、本当に刺していたら、この程度じゃすまないよ、少しは反省しなさい」

 と厳しく言った。

 勇太は、

 「わかっている。もう、あんな真似はしない」

 と返した。

 母親は、

 「これから、お母さん仕事だけど、勇太は?」

 と言ってきたので、勇太は、

 「家に帰って、反省する」

 と答えた。

 

 家に到着した。

 東南角地の一戸建ての家だ。

 南側には、建物がないので、日当たりは最高だ。

 最高すぎて、この時期はつらい。

 母親は、

 「今日も仕事で遅くなるから、夕飯は適当に食べてね。

  ちゃんと、食べなさいよ。ただでさえ、痩せているのだから」

 と言ってきたので、勇太はうなずいて、職場へ向かう母親を見送った。

 

 勇太は、いつもこうだった。

 キレると、後先考えない。

 今回の件もそうだ。

 ナイフで人を刺して、それからのプランは全然考えてなかった。

 まったく、馬鹿なことをしたものだ。

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