第336話 手が早い
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「お前はメ……ごふう!?」
何か言い掛けたシシトの顔を、シンジは蹴飛ばす。
「ご……ぎゃ!?」
倒れたシシトの顔を、さらにシンジは踏んだ。
「ぎゃ!? がっ!? げっ!? ごっ!?」
何度も、何度もシンジは踏む。
何人もの少女を誑かした甘い顔を原型が無くなるまで、しつこく、すりつぶすように、シンジは踏んでいく。
何度も、何度も、靴は赤く染まり、乾いた大地がシシトの血を飲み込んでいくが、止まらない。
いつまでも、いつまでも、踏み続ける。
シシトの命が枯れるまで……
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(なんて、これだけはダメだ)
「お前はメイセイシンジ!?」
シンジのことを視認したシシトが指をさして驚愕している。
コタロウに頼み、シシトだけをシンジと同じ別の世界につれてきたのだが、シシトを観察して思ったことが、『まだ、殺してはいけない』ということだった。
(直感、ってやつだけどな。今シシトを殺すと、たぶんヤバい。なんとなく、全員死ぬ気がする)
なので、やはり当初の予定どおり『話し合い』をする必要があるだろう。
(といっても、『話し合い』が必要って思っているわりに、真っ先にシシトの顔を踏みつぶすイメージが沸いてきたのは……それなりに、思う所があるってわけだ、俺にも)
殺されたこと。
セイを辱めたこと。
シシトに対して思うことは色々あるが、一番嫌悪をすることは、アレだ。
(妊娠させてやがったな。案の定。しかも、本人はそのことを理解していない)
一目見てわかった。
シシトの彼女たち、ユイとコトリが妊娠していることは。
しかし、シシトはそのことを気遣う様子が見られなかった。
だから、知らないのだろう、おそらく。
(まぁ、女の子の方はなんとなく感づいているのかもしれないけどな)
しかし、気持ち悪い。このあとの事を考えるとなおさらだ。
現時点でシンジがシシトに対して思うことは、恨みではなく、嫌悪である。
だが、それでもやることがある。
やらなくてはいけないことが、ある。
『話し合い』だ。
驚いているシシトを無視して、シンジは手を鳴らす。
すると、背後の空間から、テーブルと2脚の椅子。
そして、お菓子とお茶を持っているミユキ、ミナミ、エリーの三人が現れた。
ちなみに服装はメイド服である。
シンジは一脚の椅子に腰をかけると、シシトにも勧める。
「さあ、どうぞ。お茶とお菓子も用意した『話し合い』をしよう。シシトくん」
「ふっざ……けるなぁ!!」
平和的に、友好的に。シンジは『話し合う』場を用意したはずだ。
しかし、そんなシンジに対するシシトの回答は、銃撃だった。
シシトがアイテムボックスから取り出した銃。
『鋼鉄の女神(デウス・エクス・マキナ)』をシシトはシンジに向けて放つ。
そのことを予見したシンジは、後ろにいたミユキに当たらないように、彼女の手を引きながら、シシトの銃撃を避ける。
「その手を離せ! 彼女たちは人間なんだぞ!」
撃ったあとに、シシトが吠える。
シンジがミユキの手を引かなければ、彼女はシシトの銃弾で命を落としていたというのに。
「綺麗な人ばっかり……エリーさんまで! お前は! いったい何人の人を不幸にすれば気が済むんだ!! 彼女たちを解放しろ! お前の欲望に、他人を巻き込むな!!」
シシトが銃を構えるが、その角度で打つとミユキに当たり、しかもめちゃくちゃに乱射するつもりであるようだった。
つまり、エリーもミナミも銃撃に巻き込まれる。
シンジは3人を抱えてその場を離れる。
その瞬間、シシトが再び引き金を引いた。
用意した茶菓子も、紅茶も、テーブルごとボロボロに破壊されていく。
「っと、危ない危ない」
空気中の水分を凍らせて足場を作り、空中をシンジは駆けていく。
安全地帯にと、あらかじめ用意していた観戦席……コタロウがクリスマスパーティーの時に使用していた空を飛んでいる空間に、シンジは3人を連れて行った。
何発か観戦席にも銃弾が飛んでくるが、バリアのようなものが張られているため、攻撃は届かなかった。
「くそ! 卑怯だぞ! 彼女たちを解放しろ!」
シシトが何かわめいている。
「ごめん、手が早い奴とは思っていたけど、ここまで見境がないとは予想以上だった」
危険な目にあわせるつもりがなかった3人に、シンジは謝る。
「あの……」
「ん?」
ミユキが、シンジを不安そうな目で見ている。
「気をつけて」
「ああ。ありがとう。じゃあ、そこで待ってて」
シンジはそう告げると、観戦席から降りて、シシトの元に戻る。
「あんな場所に連れて行って……危ないだろう! 彼女たちを解放しろ!」
今ミユキたちがいるのは、上空20メートルほどの場所。
たしかに、落ちたら危ないだろうが銃を乱射される場所よりはるかに安全だろう。
「いや、あそこにいないとお前の攻撃が当たるだろ」
「いいから! 皆を自由にしろ! あの子たちも、常春さんも百合野さんも! 皆を僕に返せ!」
「っと!」
シシトが再び銃撃を始める。
それを難なく避けながら、シンジはシシトをよく見た。
(思った以上に会話にならないな。都合の悪い話だけ聞かない難聴系主人公、って話だけど、まんまそれだ。さてと、『話し合い』が出来ないならどうするか)
シンジは、自分の手に目線を移す。
その手をぎゅっと握った。
「お前はそれでも人間か! なんでこんなヒドいことが出来るんだぁあああああ!!」
なぜか、号泣しながらシシトがシンジに向かって銃を乱射する。
何か、感極まったのかもしれない。
なぜかさっぱりわからないが。
カズタカ以上に読みにくいシシトの思考に、シンジは少々驚愕しつつも、拳を握り、構える。
「言葉が通じないなら……」
シシトの銃撃の隙間を縫うように、シンジは駆ける。
たどり着いたのは、シシトの眼前。
シンジの動きにシシトは反応出来ていない。
「ごっ!?」
シシトが目の前にシンジがいると気がついた時には、すでにシンジはシシトの顔面、その中央を思い切り殴っていた。
「拳で『話し合おう』か。男同士」
べっとりとついたシシトの血を払いながら、シンジは言った。
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