第318話 少年が妖精に助けられた

シンジ達が生まれた世界は、異世界人たちが作り出した世界だ。


だから、シンジ達の世界に残る神話や伝説は、異世界人たちの世界にあるモノがモデルであることが多い。


そのため、世界の中心に生えるという世界樹も、異世界には実在する。




あるところに、少年がいた。


少年は呼び出された勇者の一人であり、とても美しい少女たちと共に、世界を混沌へと導く魔族達を倒すという使命を持っていた。


ある日、少年たちに指令が下された。


その指令は、魔族を倒す力を得るために、世界樹の近くに生息している妖精達を探し出せ、というモノであった。


少年たちはその指令を受け、世界樹の周りを探索したのだが、運悪く、強力なドラゴンと戦闘になってしまう。


オレンジ色の夕焼けのようなドラゴンとの戦いによって、少年達の命が失われることはなかったが、しかし、少年は少女たちとはぐれてしまった。


……正確にいうならば、少年を置いて少女たちが転移の玉を使用して逃げたのだが。


とにかく、少年はドラゴンとの戦いで、一人死にかけていた。


ドラゴンにも相応の深手を負わせることが出来たので、ドラゴンは少年の前から去っていたが、少年の命の灯は消えようとしていた。


そのとき、少年の前に一匹の妖精が現れた。

黄金色の、可愛らしい少女の妖精だった。

実は妖精達は少年が戦ったドラゴンに困っていたのだ。

そのため、少年を見つけた彼女は、少年を自分たちの巣へ運び、彼を介抱してあげた。


約一週間。


少年は黄金の妖精達の巣で傷の療養をし、彼らと友好を育っていった。


そして、少年は、彼らが彼らに敵対しない者にその身を捧げ、強化する性質があることを知った。

教えたのは、彼が倒れていたことを見つけ、巣まで運んでくれた少女の妖精だった。

少年の傷が癒えたので少年が帰ろうとした際に、自分の身を捧げたいと教えてくれたのだ。


もちろん、命の恩人を食べることなんて出来ない。


少年は、命の恩人である彼女の申し入れを断るために、妖精の誰にもバレないようにこっそりと彼らの住処から抜け出し、彼の仲間である美しい少女たちの元へと帰って行った。


少年が戻ると、少女たちは彼を嬉しそうに出迎えた。


勇者として呼び出されたので、指令がいくつもあったのだが、少女たちは疲れただろうからと、しばらく彼に休暇を与えた。



そして、明日から活動を再開するという日。

食事会をするからと、彼は少女達に呼び出された。

少女たちは、やけに上機嫌で料理を運んでくる。


そのどれもがすばらしく美味であったのだが、特に美味しかったのが、黄金色に輝く飲み物であった。


一口飲むだけで、力が沸いてくる不思議な飲み物。


そして、食事会も残すはデザートだけとなったころ、少年が黄金色の飲み物を飲むと、頭に音が鳴った。


それは、レベルアップを告げる音だった。


不思議に思った少年が、美しい少女達に素晴らしく美味しい飲み物について、尋ねた。

すると少女達は、まるでちょっとしたイタズラがバレたような……もしくは、サプライズが成功して喜んでいるような笑みを浮かべた。



そして、少女達は飲み物の正体を持ってきた。


元々、デザートにするつもりだったから、と言って。


持ってきたのは、黄金色のモノだった。


黄金色の、妖精だった。


一週間、彼を介抱し、友好を育んだ妖精達だ。


妖精達は、皆縛られ、羽を千切られている。


唖然としている少年の前で、美しい少女の一人が黄金色の妖精を手に取り、慣れた手つきで果汁を絞るような機械に入れて、妖精を潰した。


少女は、流れ出た黄金色の液体をコップに注ぎ、少年の前に置いた。


そして、仕上げとばかりに、チェリーのような丸い物体を、飲み物に上にそっと添える。


それはもちろん、チェリーなどではない。


可愛らしい少女の頭だ。


少年を助けてくれた妖精の頭だった。


美しい少女が、彼の仲間が、嬉しそうに笑顔で言う。


『さぁ、道具も用意しています。こういうことを楽しめるのも、『嗜み』でございますよ』と。


そこにあったのは、小型の、妖精の大きさに合わせた様々な拷問の機械だった。


その拷問の機械に妖精達を乗せ、美しい少女達は、彼の仲間達は、高らかに笑っていた。




「……………………グロいよ!!!」



場所は、世界樹の中央に位置する枝の上。


その枝に実っているリンゴのような60インチのテレビほどの大きさのある木の実から表示された過去の回想のような映像をマドカはシンジと二人で見ていた。


「何? 何なんですか、この唐突に始まった回想みたいな話! なんで急にホラー要素入れてくるんですか!?? 今は、私と明星先輩のデートの途中ですよね?? ホラージャンルだからって、無理矢理こんな要素ぶち込まなくてもいいんですよ!!」


マドカが世界樹の中心でツッコミを叫ぶ。


「ごめん、百合野さんが言っていること良く分からないんだけど……」


マドカのツッコミにシンジは苦笑する。


「ちなみに、今のは俺の過去の話だよ」


「……山田先輩」


コタロウが、ぴょこんとシンジとマドカの間に顔を出した。


「こっちに来ていたのか。セイやユリナの相手をしていたんじゃないのか?」


「相手ってなんですか?」


マドカの質問に、コタロウは答える。


「案の定というか、常春ちゃん達が二人のデートの邪魔をしようとしていたからね。まぁ、妨害させないようにするついでに、ちょっと特訓してあげたんだよ」


「邪魔って……」


親友たちの行動に、マドカは少々呆れる。


おそらく、デートの前に妨害しなかったのは、今回のデートの権利が行使される前に中止になれば、結局いつかは行われるからだろう。

しかし、デートが始まってしまえば、一応権利は使われたことになる。



「でも、山田先輩がここにいるってことは、もう特訓は終わったんですか?」


「いや、何回かぶちのめしたけど、そんなことで諦める子たちじゃないからね。今はそれぞれ別の空間に閉じこめて、それぞれにあった対戦相手と死闘を繰り返しているよ」


「ええ……なんかスゴいことになっている」


マドカは若干遠い目をしていた。


「ところで、何であんな映像を見せたんだ?」


「ところで、で済ませるんですね」


しかし、シンジの疑問も気になる所ではある。


なぜ、あんなグロテスクで……そして、おそらくはコタロウのトラウマである内容を見せたのか。


「あれは俺が見せた訳じゃなくて世界樹の力。この世界樹は記憶を持っているんだ」


「……記憶、ですか?」


「ああ。世界の中心にある樹って言われるだけあって、この樹は世界の記憶を保持する性質がある。その記憶を元に、別の世界の木の実さえ実らせることが出来るんだから、スゴいよね」


「それで、なんで山田先輩の記憶を?」


「この世界は俺が作った世界だから。だから世界樹が持っている記憶もコタロウ君の記憶がほとんど。その記憶が木の実に映像として流れた。それだけさ」


「へー……」


「この映像とか、世界樹の記憶から知識を得た人は『天啓』を与えられたって喜んだそうだよ」


「あんなグロい映像に喜ぶ要素があるのかな……」

マドカの呆れにも似たツッコミに、コタロウはアハハと笑う。


「まぁ、そんなコタロウ君の過去よりもさ。気になることはないのかな。例えば、黄金の液体とか」


コタロウは、マドカのことをじっと見ていた。

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