第316話 コタロウが女性陣と戦う

「……やっぱり、イヤな予感がする」


「……セイもですか? 奇遇ですね。実は、私もなんです」


「なんか、あの子が、先輩に胸を押し当てている気がするの」


「……そうですか。それは緊急事態ですね。ええ。パーティの商品だとか、そんなことは関係のない事態です。緊急事態を宣言しましょう。そうは思いませんか? 山田先輩」


 ここは、コタロウの家の前。

 シンジとマドカが、デートのために出て行った別の世界へとつながる、門の場所。


 その門の前に立っていたコタロウに向けて、セイとユリナが問いつめる。


「……ん? いや、別に。むしろ微笑ましいじゃん。女の子に胸を押し当てられて困惑しているシンジとか」


「……話になりませんね」


「だって、シンジ、百合野ちゃんが死鬼になっているときに、百合野ちゃんに……」


「その話はやめろと言いませんでしたか? 山田先輩」


 ユリナはコタロウの話を止める。


 ユリナは自分たちが死鬼になっているときに、シンジに何をされたのか、シンジからちゃんと聞き出している。


 正直な話、死鬼の時にあんなことをしたのなら、今の自分たちに対して色々やることがあるだろうと思うのだが、シンジからそんなことはされたことがなく、それがユリナの感情を逆撫でするのだ。


 落ち着くためにユリナが息を吐くと、後ろの方でエレベーターのドアが開く音が聞こえた。


「……アンタら、こんな所で何をしているんだ?」


 ミユキとミナミの二人である。


「……そちらこそ、どうしたんです? こんな場所に」


「いや、私たちは……」


「デートの邪魔! もとい、ミユキンが明星さんのデートが気になるからって」


「ちげーよ! ただ、あの大食らいのバカの朝食を少な目にしてしまったから、弁当が足りるかなって……」


「自分でしたことじゃん。最初から、こうする為でしょ?」


 否定するミユキに対して、ミナミは笑顔でからかい続ける。


「……ふむ。どうやら、お二人も私たちと目的は同じ様です。どうですか、山田先輩。ここは民主主義的に、多数決ということで、私たちを通してはくれませんかね?」


 ユリナの提案を、コタロウは笑みで返す。


「悪いね、水橋ちゃん。俺は、多数決とか、民主主義とか、愚か者の愚かな選択が選ばれる可能性のある方法が嫌いなんだ」


 コタロウが指を鳴らす。

 すると、廊下だった場所が、広いスペースの体育館のような場所に変わる。


「……うわっ!? 急にどうした……んですか? 山田さん」


 そこには、体操服を着たヒロカとネネコがいて、ジャージを着ているエリーと一緒に何やら体を動かしていたようだ。


「せっかくだから、皆でやろうと思ってさ。民主主義は嫌いだ。けど、俺は、実力者の意見には賛同する」


「……つまり、全員を相手にするつもりですか? そして、あなたを倒せば、デートの妨害をしてもいい、と?」


 ユリナの回答に、コタロウは笑う。


「……そう! そのとおり。かかってきなよ。『聖域の勇者』メイセイ シンジ……改め、山田小太郎。もし俺を倒すことが出来たら、俺が作った世界の権利をあげるよ」


 コタロウが両腕を広げる。


「……それは、わかりやすいわね」


「まぁ、いいでしょう。それくらい」


「私は弁当を届けたいだけなんだけどな」


「……私もするのー?」


 セイ達もコタロウに向き直り、それぞれ構えていく。


「……なんかよく分からないけど、戦いか?」


「私は、見ているね」


「なんか楽しそうなことになっているね」


 ネネコはスススと後ろの方に下がっていくが、ヒロカとエリーは事情を理解してはいなかったが、何となく構えてコタロウの方を向く。


「んん……良い気迫。そうだ。どうせ君たちじゃ俺に勝てないだろうから……触れたら勝ちってことにしようか? それも無理だろうけど」


ニコリと微笑んで、コタロウは言う。


「だって、君たち弱いから」


「ナメんな!!!!」


こうして、女性陣とコタロウとの戦いが始まるのだった。

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