第189話 神話の武器が凄い

「さてと……どこから話そうかな」


 近くに散乱していたイスの一つにシンジは腰をかける。

 セイ達三人は、シンジの近くで、ただ黙って立っていた。


「皆も座っていいよ。短い話じゃないし」


 シンジに促され、三人ともそれぞれ近くに落ちていたイスを手に取り腰をかける。


「……飲み物でも飲もうか。お茶でいいかな?」


 言いながら、シンジはアイテムボックスからペットボトルに入っているお茶を取り出し、三人に渡す。

 皆、受け取りはしたが、それに手を付ける様子はない。

 ただ、黙ってシンジを見ている。


「ん? どうしたの?」


「……どうしたの?は先輩の方ですよ。そんなに、ピリピリと張りつめられていると、こちらも萎縮します」


「……そうなの?」


「ええ。言葉では上手く言えませんが……まるで戦っている最中みたいな気迫を感じます」


 ユリナに指摘され、シンジは頭をかく。


「うーん……そうか」


「警戒するのは分かりますが……おそらく、先輩の予想ではすぐに何か来る事はないのでしょう? 座って話そうとするくらいですし」


 ユリナの言葉に、シンジはうなづく。


「そうだね。そのとおり。イソヤの話からも、多分、ここに敵が来ることは当分無い」


 シンジは、ペットボトルの封を開け、口を付ける。


「……それは、あの男の仲間がいる場所が、雲鐘学院だから、ですよね? 雲鐘学院は……ここから車でも一時間はかかります」


「……気づいていたんだ」


 少しだけ、シンジは眉を上げる。


「ええ、先輩が市内の中心地に近づかないようにしていたのは見ていて分かりますし……あの男がネネコちゃんを利用していた事からも、拠点が学院だろうと……まぁ、他にもありますが」


 ユリナの説明に、シンジは軽くうなづく。


「……そうなんですか?」


 と、セイは、少し眉を寄せて聞く。


「そうだね。水橋さんの言うとおりだよ。俺はアイツ等が世界が変わってから雲鐘学院を拠点にしていたと思っている」


 また、ペットボトルに口を付け、シンジは話す。


「それに気づいたのは、学校を出て、銀行に行った時だ。常春さんは覚えている? 銀行が、誰かに荒らされていたの」


「……はい。もしかして、アレをしたのは……」


「うん、多分アイツ等だね。他の銀行やATMも、学院に近い所は全滅していたけど、遠ざかるにつれて、少しだけ残っていたのもあったから。その傾向から予想して、俺は雲鐘学院に、街中から金を集めている危険な集団がいると予想した」


「……その集団が、あのイソヤとかいう男の仲間、というわけですね。それで、本題は何ですか?」


「アイツ等が、どんな危険な集団か、説明しようと思ってさ」


 そう言って、シンジは、あるモノを三人に見せる。

 それは、氷付けにされた、金色に光る注射器。

 イソヤが持っていたモノだ。


「これ、何だと思う?」


 シンジの問いに、マドカとセイは首を傾げる。


「えっと……注射器、ですよね? グレスちゃんを刺した。クスリが入っていて、あの男を強くした」


「蛇が印象的ですね。ですが、注射器としかわかりませんが」


「水橋さんは?」


 一人、何も言わなかったユリナにシンジは聞く。


「……そうですね。簡単に名付けるなら、『医療神達の矢』とかですかね。コレは」


「何言ってるの、ユリちゃん?」


 ユリナの答えに、マドカとセイは怪訝そうな表情を浮かべるが、シンジは、ユリナの答えに満足そうにうなづく。


「そうだね。俺も名付けるなら、そんな感じになると思う。これは」


「先輩と同じネーミングセンスだなんて、おぞましいのですが」


「うるせーよ」


「ですが……それ以上に、的確に表現した名前は……」


 そのまま、二人だけで会話が進みそうになったのを、セイが止める。


「ちょ、ちょっと待ってください。コレはいったい何なんですか? 二人だけで理解しないで、私たちにも教えてください」


 セイに言われ、シンジはユリナを見る。


「俺も正直、あんまり詳しくはないから……」


「……分かりました。私が言います。この注射器は、いわゆる、医療の神様達が持つ道具の特徴が組み合わさっているのですよ」


 ユリナは、黄金の注射器のシリンダーに相当する部分を指さす。

 シリンダーには、蛇が巻き付いている。


「この部分、これは、おそらく薬学のシンボルであるヒュギエイアの杯だと思われます。ヒュギエイアは、医療の神様、アスクレピオスの娘です。そして、針の部分。これは、さきほど言ったアスクレピオスが持っている杖。医療のシンボルであるアスクレピオスの杖なのでしょう。二つとも、蛇が巻き付いているのは、蛇が不死の性質を持つと考えられていたからなど、色々ありますが、そこは割愛しましょうか。とにかく、この注射器は、ギリシア神話を代表する、医療に関する神様の道具の特徴があるのです。それに、この注射器の色は黄金。ギリシア神話の代表的な医療の神様に、アポロンという神様がいますが、アポロンは黄金の矢を持っています。なので、コレの名前を、『医療神達の矢』としました」


 そこまで話すと、流石に疲れたのか、ユリナは息を付く。


「ありがとう。水橋さんが話してくれたけど、この話の本題は、つまり」


 シンジは、一息ついて、黄金の注射器を指さす。


「コレは、神話の武器、ということだ。ガチャの最高ランク。金色の武器。コタロウの話だと、百億使っても当たるか分からない、神に選ばれたかのような幸運の持ち主のみしか手にすることは出来ない超激レア武器。それが、コレだ」


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