第190話 打ち出の小槌が凄い

 シンジの言葉に、マドカは首を思案するように上を見て、言う。


「……それがどうしたんですか?」


「それがどうしたって」


 マドカの暢気ともとれる発言に、シンジはがくっと頭を下げる。


「マドカ。コレが神話の武器……神様が持つような武器だということは、それだけ、強力な武器だということですから……」


「でも、先輩は勝ったでしょ?」


 マドカは、ケロっとした表情で、言う。

 その返しに、シンジは一瞬言葉につまる。


「……いや、まぁ、勝ったには勝ったけどね。それは、アイツ……イソヤが『低能』……武器の能力を使い切れない奴だったから。借り物の注射器と、それに、『打出の小槌』二つとも、アイツはその能力を使えていなかった」


 シンジは、目を細めて、凍り付いているイソヤを見る。


「武器の能力を使い切れていなかったって……注射器はまだしも、『打出の小槌』の能力は、人を小さくさせる能力じゃ?」


「マドカ。『打出の小槌』に人を小さくさせる能力なんてないですよ?」


「え?」


「正確に言うと、それだけではないということなのですが……マドカ。あなたが『打出の小槌』に人を小さくさせる能力があると思ったのは、『一寸法師』からですよね?」


 ユリナから出された誰もが一度は聞いたことがある昔話の名前に、マドカはうなづく。


「そう……だけど」


「でも、『一寸法師』で『打出の小槌』は人を小さくしていません。小さい『一寸法師』を大きくはしましたが」


「……あっ」


 ユリナに言われ、マドカは気づく。


「まぁ、マドカのような勘違いは、少なくないでしょうね。ゲームやマンガの創作物で、『一寸法師』や『打出の小槌』の能力を、敵を小さくさせる能力にしているモノもあるでしょうから」


「……では、『打出の小槌』の真の能力とは?」


 セイの質問に、シンジは答える。


「振った者の願いを叶える力、だよ。簡単に言えば。小人を大きくしたり、金銀財宝を出したり、ご飯を出したり。願望器、ってやつだ。もし、この力をコイツが使いこなせていたら、俺は勝てなかっただろうね。コタロウと戦うようなものだろうし」


 願いを叶える。

 そのような能力を『打出の小槌』が有していたなら、確かに、シンジに勝ち目はない。

 シンジの言葉に、皆、押し黙ってしまう。


「……その、注射器も、同じような能力が?」


 しばらく経って、セイが、口を開く。


「薬学の神様と医療の神様の要素があるからね。おそらく、この世にあるクスリのほとんどを再現出来る、とかの能力はあるんじゃない? 本当は。それに、アポロンの黄金の矢の性質……投げたら相手に必ず当たる、って能力もあるって言っていたよね?」


「それは……そう、言っていました」


 マドカは、イソヤが注射器を避けられないと言っていた事を思い出す。


「必ず当たる注射器……それも、中身のクスリは自由自在。クスリ、という事は、毒も生成出来るでしょうね。おそらく」


「そうだね。打たれたら即死する毒とかさ」


 それは、考えるだけで、恐ろしい話だ。


「あの槍も、ですか?」


 先ほど飛んできた、黄金の槍をセイは話に出す。


「そうだろうね。あの槍も神話の武器……でも、ねぇ? 水橋さん?」


 シンジは、困ったような表情を浮かべて、ユリナを見る。


「……そうですね。神話に出てくる槍はいくつもありますが、それのどれを取っても……」


 ユリナは、短く息を吐く。


「最強クラスの武器、だよね。神話の主神が持つような。まぁ、この話をまとめると、コイツ等は神様が持つような武器をいくつか持っていて、そんな奴らに、俺たちは狙われているって事だ」


 シンジは、少しだけ笑って言ったが、その笑みは、どこか諦めているようでもあった。


「それで、相談、とは何ですか?」


 ユリナが、片手でメガネを上げながら、言う。


「え? 相談って、今の話がそうなんじゃ……」


「今のは相談ではなく、情報の共有ですよ。これから相談する話のための。そうですよね?」


 ユリナの言葉に、シンジはうなづく。


「そうだね。その前に……帰ってきたか」


 シンジが横を見ると、そちらから、フヨフヨと飛んでくる者たちがいた。

 ベリスたちだ。


『やっぱり、魔物や死鬼はいたけど、生きている人はぜんぜんいないよ』


『こちらもそうです。半径一キロ以内に、生きている人はいません』


「やっぱりそうか。ありがとう。で、オレスは……」


『見つけたよ。iGOD。結構遠くに飛んでいたから、探すの大変だったよ』


 シンジは、オレスからイソヤのiGODを受け取る。


「ありがとう。じゃあ、三人は中で休んでいて」


 はい、と返事をし、三匹の妖精たちはシンジの中に帰って行く。


「さてと……ちょっとは役に立つモノがあればいいけど」


 シンジは、イソヤのiGODを見ていく。

 それを見て、マドカがひっそりとユリナに聞く。


「役に立つって、先輩、何をしているの?」


「情報や、あとはポイントなどがないか確認しているのでしょう。今先輩のポイントはほとんどないですから」


「えっ? なんで?」


「コレと交換しましたから」


 ユリナは、マドカに透明の球体を見せる。


「それ、なに?」


「『転移の球』ですよ。マドカがここに連れてこられたモノとおそらく同じモノです。緊急の時のために、一人一つ、先輩から頂いたのです」


 ユリナは、マドカに一つ『転移の球』を渡す。


「割った空間にいる人物を指定された空間に飛ばす……効果が強力な分、値段も高いようでしてね。一つ八千ポイントもするようです」


「え? そんなに!?」


『転移の球』の値段に、マドカは驚く。


 蘇生薬が、一万ポイントなのだ。

 そう考えると、かなり、高い。


「それを、ご自身の分も含めて四つ。一人分の蘇生薬が買えるか買えないか、というのが、今の先輩のポイントです」


 ユリナの話が終わるタイミングで、シンジがイソヤのiGODから目を離す。


「どうでしたか?」


「うーん、情報はほとんどなし。ガオマロって奴から、最後通告みたいなのが何回か来ていたぐらいだね。あと、ポイントは……」


 そこで、シンジは一度息を吐く。


「約一万ポイント。相当無駄遣いしたんだろうね。近くの銀行を襲いまくっていたにしては、少なすぎる」


 もう、利用価値が無いのだろう。シンジはイソヤのiGODを投げ捨てる。


「……アイテムなどは無かったのですか?」


「食料品と『転移の球』がいくつか……それは回収したよ。それくらいだね」


 本当は、まだイソヤのiGODの中にはいくつか道具があったのだが……それは言わなかった。

 口にするのも、おぞましいからだ。

 もちろん、回収もしていない。


「さてと……じゃあ、行こうか」


 シンジは、階段に向かって歩き始める。


「行くって……どこにですか?」


 マドカの疑問に、シンジは下を指さす。


「あの子の所だよ」

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