第121話 気持ちが悪い男

※敵役の登場です。気持ち悪いです。読まなくても問題はないのでスルーしても大丈夫です。続きはすぐにあげます。



「ぶちゅ……じゅるっるっる!!」


 啜る音。


 粘液と粘液が混ざる音が、嫌らしく奏でられている。


 その音を発しているのは、一人の床に座っている男だ。


 怠惰を表現しているかのような醜く膨れ上がった肉体。

 頭皮の油を吸い込むだけにしか用をなさない、悪臭漂う長く縮れた黒い髪。

 人とのコミュニケーションを拒むかのような、濁った泥のような瞳。


 そんな要素を持つ、男性。


 彼は、今、食事中だ。


 くちゃくちゃと、じゅるじゅると、聞く人を不快にさせる音を発しながら、使わない栄養を過剰に摂取している。


「んぁああ……! ふぅ……ふぅ……! ずぞぞぞぞぞ……!」


 一心不乱に彼が満たしているのは、食欲だけではない。


「あああ……んまぁあああい! おかわり、おかわり……」


 彼が指を鳴らすと、彼の後方から、黒のドレスに身を包んだ妙齢の麗しい女性が歩み寄ってきた。

 女性は、漆塗りのお盆を持っていて、その上にはお椀に入っている白い炊き立てのご飯と、醤油と、茶色い卵が乗っている。


「ふふふん」


 持ってきてくれた女性に礼もせず、男はご飯の入ったお椀を手に持つ。

 そして、その中身を、目の前で逆さにして落とした。


 落とした先にあるのは、口。


 人の口。


 まだ、一桁であろう年齢の、幼い、可愛らしい容姿を持つ少女の、口。


 男の前で、体操着に身を包んだ少女が、ブリッジをしながら口を開けていた。


 無感情に、だが無理矢理に開けられたその口は、どんなに大きく開けていても、はかないほどに小さい。


 その小さい口めがけて落とされた白い米は、その大半が床に落ちていく。


 だが、男はソレを気にしない。


 男は、今度は、茶色い卵を手に持つ。


「このタマゴを、イチカたんの、ビンビンに立っているおでこの角でぇ……コツン」


 前髪が下がり、むき出しになっている少女の額、その額に生えている角に、男は卵をぶつける。


 強めに。

 少しの遠慮もなく。


 案の定というべきか、少女の角で割られた卵は、殻を粉々にして、少女の額を卵白と卵黄で汚した。


「ふひひひひ」


 だが、男はまたしても気にしない。


 少しだけ殻に残った卵を、少しだけ少女の口に残ったご飯の上に、かけていく。


「あとは醤油と……」


 その上に、さっと醤油をかけ、男は少女の口に箸を突っ込む。


「少女の、つばぁああああ」


 そう、吠え。


 男は少女の口につっこんだ箸をぐちゃぐちゃにかき混ぜていく。


「ひひひひひひいぃいいい」


 ご飯と、卵と、醤油と、箸と、少女の舌と、唾液と。

 男が腕を回すたびに、それらは混ざっていく。


「出来た……美少女卵かけご飯……ひひ」


 男が手を止めた後にあったのは、薄茶色のご飯と、汚れた少女の口。


 その口に、うれしそうに男はかぶりつく。


「ぶちゅ……じゅるっるっる!!」


 そして、その中身を吸い出し、再び咀嚼音を奏で始めた。


「ふひゃひゃ……うめぇええええええ」


 彼の後ろには、お盆を持った妙齢の女性の他に、数十名の女性と、幼子、少女たちが佇んでいた。


 彼らは、皆額に角が生えている。

 皆、虚ろな目をしている。


 男性の名前は、カズタカ。


『明野ヴィレッジ』を支配している、『自宅警備士』の職業を持つ、男性だ。


「ふっひゃ! 美味かった、美味かった」


 口元を、卵が混ざったご飯で汚しながら、カズタカは満足げに自分のお腹を叩く。


「美味かったけど……」


 大きくゲップをした後、カズタカは目の前でブリッジをしている少女を、目を細めて見る。


「イチカたん。可愛い可愛いイチカたん。真っ白い肌に、くりくりお目目。黒い髪も可愛いよぉ……けどさ」


 カズタカは、少女を蹴り飛ばした。

 近くの壁に勢いよくぶつかった少女の死鬼は、ずるずると何も言わずに床に落ちる。


「飽きるよねー……流石に。だってイチカたん。可愛いけど、おっぱいも何も無いんだもん。ロリっ娘は正義! 貧乳はステータス! とか言ってた自分はもう過去の男なんだよん」


 笑いながら、カズタカは醜い肉体を、ゆっくりと動かし、立ち上がる。


「かといってさ、おっぱいのある女は、二十歳を過ぎたババアばかりでさぁ……人妻萌えも、限度がある僕ちゃんなのさ」


 はぁ、とわざとらしくため息を吐いて、カズタカはノロノロと動く。


 一〇〇キロを越える、カズタカの巨体。

『自宅警備士』になり、低下したステータスでその体を動かすのは、かなりの重労働だ。


 一歩踏み出すたびに体から汗が吹き出てくる


「ふぅふぅ……はぁ、食後の運動、終わり。部屋の移動くらいで、タロちゃん使うわけにもいないしね。僕ちゃん偉い」


 隣の部屋につくと、カズタカは部屋の窓を開けた。

 冷たい風が、カズタカの汗だらけの体に当たり、彼の体温を下げていく。


「ああ……気持ちいい。しかし、どこかに、いないかな。巨乳JS、なんて贅沢は言わないけど、おっぱいの大きな美少女JCやJKが……」


 風を浴びながら、カズタカは複数のモニターが並んだ机の前に座る。

 そのモニターには、様々な位置から撮られた、『明野ヴィレッジ』周辺の映像が映し出されていた。


 カズタカがマンションの壁に取り付けた、高性能監視カメラの映像だ。

 暗視機能まであり、暗闇でもよく見える。


「……誰もいない。やっぱり、三日前の不細工なJCちゃん、残しておくべきだったかな? でも、あれはおっぱいってより、脂肪の塊だったし」


 ぶふ! と、自分で言った言葉で、カズタカは笑う。


「ブスはだめだよね。ブスに生きる価値はないよ。ブスは見た目も悪いし、性格も悪いって決まっているんだしさ。ブスは殺さないと……ブスをブスッと、ね」


 何かを突き刺すような動作をしたあと、カズタカは再び盛大に笑い出す。


「あーははは……やっぱり、俺天才。俺マジ神。最高だわー。さて、チェックも終わったし、温泉で人妻タワシを使ってスッキリと……」


 ギシギシと椅子を軋ませながら立ち上がろうとしたカズタカは、その動きを止める。


「おろ?」


 一つのモニターに、カズタカは注目していた。


 そのモニターは、東西南北の四方向に付けられた、比較的広範囲の状況を知るための監視カメラのうちの一つで、その中の東側、駅や、コンビニなどの施設がある方角のカメラの映像が映し出されている。


「おろろろろ?」


 カズタカは、すぐに自分の手元にあるノートパソコン形のiGODを操作して、監視カメラの映像を操作する。


 ズームにして、画像を明確にして、映し出す。


「おろろっおっお!」


 拡大された画像に、カズタカは興奮する。


 その映像に映し出されていたのは、二人の学生服を着た男女だった。


 カズタカは、その制服に見覚えがあった。

 彼の弟が、たしか同じ制服を着ていたはずである。

 つまり、彼らは高校生。


 カズタカは、女学生だけをしっかりと見る。

 男には、興味が無い。


 女学生の顔の美醜までは、さすがにはっきりとは分からないが、ただ、その女学生の胸部は、制服の布地を押しどけ、盛り上がっていた。


「巨乳JK! キターーーーーーーーーー!!」


 待ち望んだ獲物の登場に、カズタカは吠えた。

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