第81話 冗談が黒い

「魔物の素材を使って、魔物の特性を持つ武器が出来るって、魔物の素材を使って何か作れば、勝手に特性がついてくるんじゃないのか?」


 コタロウが見せた寂しさと明るさ、そして誇り。


 シンジは、コタロウと黄金の妖精の関係が気になっていたが、その事には触れなかった。

 言いたいことは、自分から言ってくれると、思っているからだ。


 なので、別の質問をする事にした。


「つくけど、例えば『道具作成』の技能で、炎を出す武器を作りたいと思って炎を吐くドラゴンの牙だけを使って武器を作っても、牙から作れるのは、せいぜい熱に強いだけの剣とかナイフとかだよ。牙には炎を吐く能力は無いからね。シンジの紅馬みたいな熱を出す能力を持つ武器を作れない」


「けど、『古の塊』を使って作れば、炎を吐くドラゴンの牙だけでも炎を出す剣が作れるって訳か」


「そういうこと。剣じゃなくても、イメージ出来れば、炎を出す斧や鞭、鎧や盾スプーンやペンとかも作れるだろうね」


「じゃあ、炎を吐かないドラゴンの牙だと、炎を出す道具は『古の塊』を使っても作れない?」


「そうだね」


「そのドラゴンが、羽があって空を飛べるドラゴンだったら、牙から空を飛ぶ道具が作れる?」


「……出来るよ」


「なるほどな」


 やけに嬉しそうなコタロウは無視してシンジは考える。


 問題は……


「やっぱ、自分が闘った魔物の素材じゃないと上手く作れないよな」


「そうだね。その魔物がどんな事が出来るか、正確に知っていないと上手くイメージ出来ないだろうね」


 予想通りの答え。


「じゃあ、その虹色の球は何だよ」


 シンジは、コタロウの近くで浮いている球を指さす。


「これは『ニジノアマメ』って言って、『合成』をサポートするためのアイテムだよ。素材と一緒に『合成』することで、その『合成』を最高の状態で成功させる。本来は、『古の塊』の『合成』を成功させるためには『道具作成上級』クラスの技能が必要だからね」


「ふーん」


 シンジは自分が持っている魔物の素材について思い出していた。


 シンジが持っている魔物の素材は、人や動物たちの死鬼の角か、もしくは黒い触手の触手と目である。

 素材にするならば、触手のモノがいいだろう。


 触手はどんな魔物であったか。


 高速で動く触手。


 それで作れる、武器。

 ハイソに勝てる、武器。

(元々触手はハイソの魔物……なんだよな)


 普通に作っては、ハイソに対策されるだろう。


「ああ、そうそう。どうせ『古の塊』で作るなら、武器より防具が良いよ」


「……なんで?」


「シンジも一通りiGODを見ていたから分かると思うけど、強力な武器はガチャで手にはいるけど、防具はガチャじゃ手に入らない。特殊な力が備わっている防具なんかは、売っても無い。だから、基本的に『古の塊』で作る装備は防具がいいんだよ。『古の塊』でしか作れないから」


「なるほど」


 そういえば、そうだったなと思うシンジ。


「……武器にガチャがあって、防具にガチャが無いのって、人はやっぱり何かを守るより、何かを攻撃したいって事なのかね」


 人の欲望を形にするiGOD。


 剣 銃 大砲 戦車 毒ガス ミサイル…………

 命を守る防具より、命を刈る武器の方が、より強力でより豊富だ。


 今の世界も。

 変わる前の世界も。


 同じだなと、シンジは思う。


「攻撃は最大の防御、なんて言葉もあるくらいだからな。まぁ、それだけじゃないけど。ところで、どんな装備を作るか決めた?」


 コタロウの問いに、シンジは苦笑する。


「まぁ、決めたんだけどさ」


「へぇー、どんな?」


「凶悪な、武器だよ。結局ね」


 防具を作るのに思いついたのが、身を守る能力ではなく攻撃する能力。

 そんな発想しか出来ず、シンジは自分も人間なのだと、少しだけイヤになった。


…………


 シンジは、起きあがりながら右側の制服の内ポケットに手を伸ばす。


 葛藤。


 使うか、使わないか。

 悩む理由は、二つだ。

 一つは、本来コレを使うと決めていたタイミングよりも、まだ早いから。


 もう一つは、何よりコレを使って勝ってても……


 しかし、今使わないとシンジは死んでしまうだろう。


 シンジは決める。


 ポケットの中にあるスマフォを触りながら、その奥にあるモノを掴みそして取り出す。


「……何、それ?」


 シンジが突然出したモノを見て、ハイソは不思議そうに首を傾げる。


「奥の手、だよ」


 シンジが取り出したモノは、黒い布だった。


「へぇ、奥の手! それは楽しみだ」


 シンジが取り出した黒い布を見て、頬をにやけさせるハイソ。

 この人間は、どこまで自分をワクワクさせてくれるのだろう、胸を膨らませる。

 ハイソには、シンジが持っている黒い布がマジシャンが鳩を出すハンカチに見えた。


「『楽しく』、はねーよ。『楽』ではあるけどな」


 シンジは、黒い布を自身の顔の前で振る。


 すると、黒い布はシンジの顔を覆い始めた。

 顔を、目だけ残して覆い隠し、余った布がシンジの背中ではためいている。


 フード付きの外套。


 そんな感じだろうか。


「『アーティファクト』か。奥の手が防具なんて、ちょっと意外だね。それでどんな……」


 急に、ハイソの視界がゆがんだ。


 足から力が抜け、立つことが出来ない。

 ハイソは、思わず膝をつく。


「『笑えない空気ブラックジョーク』やっぱ、楽しくねーだろ? コレ」


 崩れ落ちたハイソを見下ろしながら、シンジは無表情でつぶやいた。


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